お姫様。悪女を知る。1
だいぶ時間がかかってしまいました。
オカマキャラって思ったより難しいですね;
これは数十年前のちょっとした出来事。この国で大きな祭典があって沢山の国の偉い人が招待されたの。皆んなもちろんお祝いに来たけれど、きっと本心では違う目的を持っていたでしょうね。和平や貿易、はたまた年若い子達はーーー夢のような恋物語とか。
※※※
私は金色の豊かな髪を靡かせその通路を進む。
どの国よりも大きい城は奥へ進むに連れて豪華さは抑えられ、逆に暖かみのある造りへ変わる。
どちらにも私は相応しい。金の髪、青く吸い込まれそうな瞳、10代の瑞々しさを残した美しい顔。豪華なドレスを纏った私はこの物語のお姫様だ。
頭の悪い子だと思わないで欲しい。だって『私』という存在は生まれた時からこのゲーム世界の主人公なのだから。この世界は私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界。物心ついた時にそうであると理解した時から私はこの日のためだけに頑張って来た。今日は社交界デビューして、父王の外交にやっと付いてこれるようになった初めての外国の祭典。私の物語が始まる日!このお城で各国のイケメン達と出会い、陰謀を乗り越え、愛を育むラブファンタジー。私の相手候補は把握済み・・・・・というか1人しか私には見えてないの!私の恋のお相手は前世から大好きなこの国の騎士様!彼は逞しい体躯で金髪碧眼の美男子。王妃への初恋を燻らせながらも、今は彼女を守る近衛騎士。私は彼の心を癒しつつ、アラサーの大人の色香にドキマギする初な小国の姫。姫の帰国が迫る中で2人は離れられない仲に・・・なるはずだったのだ。
目の前の扉をばんと音が鳴るほど荒々しく開け、私は部屋へ踊りこんだ。
「ガイ様の妾とやら出てらっしゃい!」
扉を開けた瞬間、部屋の中は幾人もの声で華やいでいた音が静まりかえる。広い中庭、バルコニーにはテーブルが置かれ、その奥に広々とした部屋があった。中庭やバルコニーには大人の女性が2人、他は10歳に満たない子供達が7人。この女性らのどちらかが私の薔薇色の未来を邪魔する女に違いない。
そう、先ほど私は衝撃の事実を知らされた!私の未来の旦那様たるガイ様は10年前のクーデターで大切な従者を失ったという。悲しみのあまり、従者に顔がそっくりな従者の縁戚の女性を娶ったと。顔が似てるだけでしょ、そもそも貴族の彼の正式な妻に平民がなるなんて許されるはずがない。彼の心の傷を癒すのは私の役割なんだから、さっさと退いてもらわないと!
「私は彼を癒してみせるわ!だから仮の妻はもう要らないの」
女性達は困惑したように顔を見合わせる。そして、深い色合いの赤毛の女性は抱いていた赤子
抱き直すと口を開いた。
「そんなに怒鳴らないでくださらない?小さな子が驚いてしまうわ」
この女が泥棒ネコなのかしら。
女性は誰が見ても美しく、特に女性らしい体のラインは男であれば魅了されるものだろう。その体で彼を誘惑したのか。
彼女の咎める響きに私の頭は更に熱くなる。私の気持ちを知らないくせに!どうせこの世界を怠惰に生きて来た貴女達に、私の努力なんてこれっぽちも分からないのだわ。
「少しくらい叫ばせてよ!この17年間私はずっと私がヒロインになる時を待てたのに!!始まった途端、お目当ての男に妾が居るなんて最悪よ!」
赤毛の女性はため息をつくと片手を上げて私を宥めるように手を降った後、もう1人の女性を指した。
「誤解していらっしゃるようですけれど、私じゃなく彼女がリーリス夫人よ」
その言葉に私はもう1人の女性へ視線で射殺せないかという思いを込めて睨みつけた。
赤毛の女性はしばし呆然としたあと、何故か1つ頷いた。何が納得出来たのよ?!そして呆れたように続ける。
「彼女は訳あって親しい人以外と話せないから私が代わりに教えるけど。貴女には残念だろうけど、リーリス夫妻は気持ち悪いくらい夫婦仲が良いから別れないわよ。その証拠にリーリス家の子供はねあっちのふわふわの紫の女の子が1番目の子で、銀髪の子が2番目、泥んこの金髪が3番目、その次が木登りをしてる金髪の双子で、私が抱いてる子が6番目、で彼女のお腹にいる子が7番目よ」
赤毛の女性の言葉が重なるたび、私の目は熱く潤んでいく。厚かましくも彼の妾になった上に子供までよくもぽこぽこ産んだわね!こ、子供さえ居なければ離縁させて私が妻になれるのに。こんなにも子供が居るんじゃお父様が許してくれないじゃない!
私はありったけの恨みを込めてリーリス夫人を睨みつける。彼女を見る間にふつふつと悔しさがこみ上げる。彼女が私に勝るところなんて何も無いのに!
リーリス夫人は男の様に背が高く、その割に肉が薄くて女性らしい身体的魅力はゼロ。顔はまるで安い人形みたいに糸のように細い目に、三日月に笑う口。枯れ木のように白い肌と赤い唇。毒々しい濃い紫の髪をおかっぱに切りそろえ、襟足を腰まで長く伸ばしリボンで結んでいる。服は喪服の様に黒いドレスで首まで襟で隠れる古臭いデザインで白い使用人のエプロンを上に着ている。ホラー映画の呪いの人形か!?無駄にある禍々しさにらどこか生きているのか不思議にさえ思える。唯一膨らんだ腹部が彼女が妊婦であり生きている証拠の様に感じられた。
どっからどう見ても胡散臭さ100パーセント!悪党!黒魔女!悪女じゃないの!
赤ん坊の笑い声が聞こえ、赤毛の女性の腕の中を見る。そこにはリーリス夫人そっくりの顔の赤ん坊が居た。似てるなんてものじゃなく、そのまま。まるでコピーしたような顔に背筋が震えた。まともな赤ん坊じゃない!リーリス夫人の異様さを更に加速させるそれを私は今すぐ排除したいとさえ思った。
その時、リーリス夫人が赤毛の女性と私の間に進み出て私を見下ろす。まるで2人を庇うように出てきた彼女に怒りから恐怖からそれらがもっと黒くて思い憎悪になつて私を厚くする。ああ、きっとガイ様はこの女を好きになるよう呪をかけられたんだ!子供達も呪いで作ったに違いない。早く排除しなくちゃ!
私は衝動のままに手を振り上げ、彼女の頬目掛けて振り下ろす。ばしりと大きな音が響く。
赤毛の女性が慌てた様に叫んだ。
「ちょ!あーあ!!なんてことをするのよ。貴女ガイに殺されるわよ!?」
「悪いのはこの泥棒ねごっぐっ・・?!!」
怒鳴り返そうとした私の喉が潰れた音を出す。一瞬何があったのか不可思議に思ったが、私は何もしていないのに勝手に視線がぐるりと回る。視線が止まり、後から首を絞められたまま反転させられたのだと気がつく。反射的に視線は私の首を持つ大きな手と、そこから伸びる丸太の様な腕へ、そしてその人物の顔へと流れ・・・私は硬直した。
魔王がいるぅううう!?
男は金髪を逆立て、爛々と殺気に輝く鋭い青い目、口は怒りに震え今にも噛みつきそうに犬歯を見せている。地を這う様な唸り声が降りかかる。
「貴様、俺の妻に手を出したな」
俺の妻?リリース夫人が?ではこの人がガイ様?そ、そんなはずない。ガイ様は私に微笑んでくれるの!2人は暖かな雰囲気で、恋をするのよ!こんな恐ろしい顔でガイ様が私を見るはずがない!
男の手に力が入り、呼吸がますます苦しくなる。私は思わず止めようと男の手甲に手を伸ばす。けれどつるりと滑って掴めなかった。手を見れば赤いものがべっとりとついている。ふと、息苦しいはずなのに私の鼻が鉄さびの香りをひろう。コレは血だ。
憎悪に濡れた低い唸り声がふりかかる。
「不快な女狐め。二度と妻に近ずけないようにしてやる」
男の力が入り息が吸えない。
この男は本当に私を殺そうとしているのだわ。そう、理解すれば体が固まり、冷たくなる。どうしたらいいか分からないのに、私は愚かにも男の目を見た。
ああ私はここで殺される!
私の目は真っ暗闇へ落ちていった。
「あ、落ちたわね」
側で見ていた赤毛の女、リディアがそう呟く。
俺が手を離すと金髪の女がどさりと落ちた。どうやら気を失っているようだ。本当に殺してやりたいが、これでも他国の公人だから勝手に始末も出来ない。傷はつけなかったのだから、こちらに非は無く当人の処分で終わるだろう。
後に控えていた衛兵に合図をすれば、すぐさま駆け寄り女を引きずって行く。
リディアが俺に駆け寄り、いつもの怒鳴り声を上げた。こいつは年をとってもちっとも落ち着かないな。
「ちょっと!女の子に手荒すぎるわよ」
「侵入者をここまで通してしまい申し訳ない。担当の衛兵は排除したが、詳しくは後で拷問して吐かせてから報告する」
「いや、あのね。もっともらしく言ってるけど職権乱用してるんじゃないわよ!貴方の服血まみれじゃないの!それ以上拷問したら死んでしまうわよ」
「後宮への侵入を助けたならそうなっても致し方ない」
「・・・一応、近衛は貴族の子弟なんですけど」
「問題無い。家ごと潰す」
質問には答えているのにわめくリディアを退け、黙って立ったままだったセルを抱きしめる。細く頼りげない肩を優しく包む。ああ、こんなにもか弱い妻をなんて危ない目にあわせたのか自分が情けない。最近は王の用事で動くこともあり、後宮の引き締めが出来ていなかった。
「遅くなってすまない。怖い思いをさせたな」
優しい妻は首を振り、そっと私の背に手を回す。
「金輪際このような事が無いよう、やはり俺はこちらの警備に戻らせてもらうおう」
俺は妻を抱いていた手を緩め、顔を見合わせてそう宣言する。あの衛兵は隣国の縁者とはいえ、許しも得ずに他国の王族を入れるとは馬鹿にも程がある。そんな体たらくの奴らに妻子を人に任せるのは心配だ。自分がついて居なければ。
妻の後ろからリディアのため息が聞こえる。彼女は口煩いが情が厚い、俺の申し出を受け入れてくれるはずだ。
しかし、その前にもう1つ問題があるなーーーーー
「セル。あの女にぶたれて・・・欲情したな?」
俺はまじまじと妻の顔を見て言う。
妻は小さく首をふるが、肩は震え、顔はいつにも増して白く冷や汗が流れる。どうにも10年前から表情豊かになった妻は隠し事が出来なくなっている。そして、妻に遅いかかった女を退けた時、妻の打たれた頬とは反対側も赤くなっているのを俺は見た。
俺は頭をもぐかのように妻の顎を掴み指を食い込ませる。
妻は苦しさに息をつまらせーーーー頬を赤く染め熱い吐息を吐く。薄っすらと見える金の瞳が欲情に濡れている。先程とは一転、妻の周りに甘い淫靡な香りがたつ。これをあの女も嗅いだのか。
ーーーーーああ、ああああああ!!
「この被虐性愛者のど淫乱糞野郎が!俺以外に欲情するなど躾直してやるから覚悟しろ」
そのまま俺は妻の休憩室へと向かうべく引きずる為に妻の首根っこを脇に抱えなおす。
妻は苦しげな呻きを漏らすが、抵抗もなく抱えられーー腰を俺に擦り付ける。
俺は妻の尻を平手で叩く。
「勝手に盛るな!」
「あひぃん!」
俺は怒っているというのに妻はちっとも反省していないようだ。まったく、見目の良い者なら誰構わず盛りついて。極力他者との接触を避けさせたのに。やはり屋敷に閉じ込めておいた方がいいのだろうか。
俺は胡乱げな表情で見ているリディアに断りを入れて部屋を出る。腹に子がいるから無理な事は出来んが、一先ず声も泣き出ない程度に鳴かせるか。
去る廊下の奥でリディアの声が遠く聞こえた。
「もう!後の子守はするから心配しないでーーーーってか私、王妃なんですけど!?扱い酷くない?」
各キャラクターの変態性について気になる方は『主人が可愛すぎるので仕方ありません』に登場していますので、良かったら読んでみてください。
簡単な説明:リーリス夫妻はSM夫婦