戦狂いと死神射手
道草先生が「サイボーグおっさんがどんな戦闘をするのか述べよ」みたいなツイートしてて、それに便乗してツイートしたやつに続きをくっつけてみました。
……いや、相棒の眼鏡も出したくなってな……←
ごす、と音がした。男が無造作に上げて、そして降ろした足が、相手を押しつぶしたのだ。そして次の瞬間、軽やかに回し蹴りへと転じた足の、ふくらはぎの部分から飛び出した刃が、敵対者を切り裂く。
こきこきと生身である首を楽しそうに回した男は、こきんと音をさせて手首を外し、砲撃を放った。
男は、ラフなシャツにジーンズというありきたりな服装の下に、鍛えられた体躯を納めた男は、楽しそうに笑っていた。眼前の襲撃者、人成らざる異形の存在が襲いかかってくるこの状況を、ただただ愉快だと言いたげに、笑っている。顔の右半分を縦に走る無骨な傷跡に相応しい、厳つい容貌。浮かべるのは笑みであるはずなのに、そこには人間らしい情緒よりも、獰猛な獣の歓喜が刻まれている。
先ほどまでのやりとりの間で、シャツもジーンズも、それぞれ肘と膝から下の部分が破れてしまい、中身が剥き出しだった。だが、そこにあるのは、暖かく血の通った人肌ではなく、無骨な機械仕掛けの手足だった。男は、両手足が機械となっている、サイボーグだった。戦いを生業にし、戦うことで己の全てを満たし、その過程で両手足を失った男は、身体を機械に取り替えてなお、嬉々として戦いの中で生きている。
否、血湧き肉躍る、命のやりとりをする場所でしか、男は生存することが出来ないイキモノであると言えた。
「ガルド」
静かな、冷え切った掠れた低音が男を呼んだ。何だ、と男が振り返った瞬間、その顔のすぐ側を何かが通り過ぎた。ちり、と薄く皮膚を焼く感触に、男はにぃっと楽しげに笑った。男の視線の先には、かっちりとしたスーツに身を包んだ眼鏡の青年が佇んでいる。硬質な人形めいた美貌の青年は、爪先まで手入れされた美しい指で拳銃を構えていた。特殊加工の施されたレーザー銃で、今し方男の顔の近くをかすめたのは、その一撃だった。
ふぅ、と青年が面倒そうに息を吐く。その姿は機械や人形めいて淡々としていた。全身生身の青年の方が、手足が機械化した男よりも無機物めいている。
「貴様の大雑把な戦い方はどうにかならないのか」
「今更じゃねぇか、トール」
「確かに今更ではあるが、毎度毎度、私に貴様の尻拭いをさせるな」
「ははは、悪ィ悪ィ」
露程も悪いと思っていない口調であった。だが、トールと呼ばれた青年は男の気性を知り尽くしているのか、面倒そうに舌打ちをしただけで、それ以上何かを言うことは無かった。細いフレームの眼鏡が、硬質な美貌を余計に鋭く見せる中で、ゆるりと笑みを刻んだ唇だけが奇妙に生身の体温を感じさせた。
普通ならばそれで安心感を覚えるだろうが、青年の見目ではむしろ逆であった。他が全て無機物のように硬質に整っている中に、赤い唇だけが奇妙に熱を宿して見える。それは歪と呼ぶに相応しく、端正な美貌故により恐怖を誘った。
青年の繊細な指先が握るのは、シルバーの輝きの美しい拳銃だ。邪魔にならないように小型化されているが、内蔵されたレーザーの性能は推して知るべし。右手にその小さな拳銃型レーザー銃を構えた青年は、左手で面倒そうに腰に差していた同じ形の銃を取り出した。カチ、と小さくなったのは安全弁を外す音だった。
かつんと軽い音をさせて、両手に握った拳銃を顔の前でクロスさせる青年。一瞬の半分、まるで神に祈りを捧げるように目を伏せたその美貌は、彫像めいて美しかった。相棒が何をするのかを察している男は、そろりと場所を移動して、青年の背後に立った。
次の瞬間、細いフレームの奥で開かれた瞳が鋭く輝き、突き出された両手の先でレーザー銃が攻撃を開始する。上下左右に手を動かし、建物の陰からわき出てくる小型の異形を瞬時に撃ち落とす。
「相変わらずえげつねぇ精度だなぁ」
「貴様が大雑把なだけだ」
「お前が几帳面なだけだろ」
「仕留め損ねれば依頼料が減る」
「それぐらい解ってるっつーの」
軽口を叩きながらも青年は射撃の精度を落とさない。彼の視界に認識された瞬間、全てが撃ち落とされてしまう。だが、青年に特に気負った様子は無かった。彼にとってそれは当たり前のことであり、眼前の異形を全て滅ぼすのはただの決定事項だった。
その相棒の思考を理解している男は、軽口の最後の語尾を跳ね上げて、後ろに向けて回し蹴りを放った。ごす、という鈍い音と共に、姿を消して彼らを狙っていた異形は付近の壁まで蹴り飛ばされる。青年の眼鏡に内蔵されたセンサーすらかいくぐるステルスも、男の闘争心から生まれる野生の勘はごまかせない。
彼らは、戦うために生まれ、戦うために生きているような二人だった。
彼らの思考も肉体も、戦闘へと特化している。その方向性が違うのは、ある意味で奇跡のようなことだった。同じ性質、同じ性能を持った者同士では、補い合うことが出来ない。彼らは性格も好みも何もかもが相反していたが、だからこそ足りぬ部分を埋め合って相棒でいられることを理解している。
異形に襲われることが日常に数えられるこの世界で、人々は武器を取って戦っている。戦わなければ、己の命も、大切な存在も守れないからだ。けれど、彼らが戦う理由は違う。彼らはただ、存在理由を求めて、戦いの場にたたずんでいる。そこで生きることしか知らぬ彼らには、安息も平穏も、ぬるま湯に満ちた日常はただ苦痛なだけであった。
「ガルド」
「あん?」
「この辺りは私が殲滅する。向こうに貴様好みの大型がいる。潰してこい」
「了解」
さっさと行けと素っ気ない相棒の言葉に、男は楽しげに笑った。にんまりと笑みを刻む唇はそれはそれは楽しげで、そして、やはり獣の獰猛さで満ちていた。現れる小型の異形が即座に撃ち落とされていく殺伐とした空間を尻目に、男は走り出す。彼にとっての娯楽の待ち受ける、その場所へ。
彼らは、戦いの中でしか生きられない、狂戦士と死神だった。
FIN
凸凹コンビみたいなの大好きなんで、性癖詰め込んで見た?
バーサーカーとクールのコンビって良いと思うんだ。
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