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悠久の魔女と楔の子供 (#魔女集会で会いましょう)

#魔女集会で会いましょう

のタグが素晴らしすぎて、ついうっかり指が滑った。

魔女と子供と使い魔。


 昔々、あるところに。

 永遠の時を生きると言われる、不老不死の魔女がおりました。魔女は深い深い森の奥、使い魔であるドラゴンと二人、静かに暮らしておりました。魔女の住む森は死の森と恐れられ、人々は決して近づくことはありませんでした。



 ある時、その死の森に、魔女の住処のある森に、一人の子供が捨てられました。くすんだ金色の髪、茶色の瞳。色の白い肌。細い手足。子供は別に、特に異形であったわけでも、何か悪し様なことをしたわけでもありません。ただただ、口減らしのために捨てられた、そんな哀れな、子供でありました。


「あらぁ、貴方、どうしてこんなところにいるのかしらぁ?」


 大きな三角帽子を被った、黒いシンプルなドレス姿の魔女は、不思議そうに問いかけます。子供は、驚いたように魔女を見上げました。魔女の住む死の森。森の奥から現れるのは魔女だと解っていたのに、彼は本当に驚いてしまったのです。だって魔女は、魔女はもっと、恐ろしい者だと思っていたのですから。そこにいたのは、不思議そうに微笑む、若い女性でした。


「捨てられたのぉ?この森には獣がいるから、危ないわよぉ?」

《イリューカ》

「なぁに、ヘルム」

《お前、何をするつもりだ》

「だって、危ないじゃないのぉ」


 子供は息を飲みました。綺麗な女性の足下から、猫ぐらいの大きさの蜥蜴が現れたのです。銀色に光る不思議な蜥蜴は、子供を見てふんと鼻を鳴らしました。けれど魔女は気にした風もなく、にこにこと笑って、彼に手を差し伸べます。


「ここにいると獣に食われてしまうわぁ。いらっしゃい。……わたしが飽きるまでは、一緒にいましょうねぇ?」


 ふんわりと優しく笑ったその笑顔の、瞳だけがちっとも笑っていないことに、子供は気づきました。気づいて、けれど。捨てられた子供には、魔女の手を取ることしか、出来ないのでした。




 そして、それから、10年の月日が流れました。




 魔女の館は、死の森の奥深くにありました。人も獣も近づかないその場所は、魔女の家。魔女のための家、招かれざる者は近寄れず、魔女の許可無く立ち入れない。その魔女の館に住むのは、魔女と使い魔だけでした。

 だけの、はずでした。


「主様、ただいま戻りました!今日は美味しそうなビーツがたくさん手に入りましたよ」

「……あらそぉ」

「……どうかしましたか、主様?」

「いーえー……。……もぅ、何で貴方、未だにお家に入れちゃうのよぉ」

「そりゃ、主様の印があるからですよ」


 はぁ、と悠久の魔女イリューカはため息をつきました。やだわぁ、と困ったような顔をしています。そのイリューカの前で、彼女が10年前に拾った金髪の子供、今では立派な青年へと成長したアイルは、にこにこと笑っています。

 そう、ただの人間の子供のアイルがこの館に出入り出来るのは、更に言えば、死の森で獣に襲われずに、迷わずに、まっすぐ館にたどり着けるのは、イリューカが与えた刻印があるからです。与えたのはイリューカなので、それを言われると彼女はどうにも反論できません。飽きる頃にはいなくなっているだろうと、印も消えて、立ち入れなくなっているだろうと思っていたのに、とんだ誤算でした。


「そうそう、美味しそうなリンゴも買ってきましたよ。パイにしましょうか?」

「あら、素敵ねぇ。それじゃあ、お願いするわぁ」

「はい、主様」


 先ほどまでの困った顔はどこへやら、イリューカは嬉しそうに笑います。そんな彼女の笑顔に、アイルも幸せそうに微笑みました。そんな二人の足下で、銀色の蜥蜴、イリューカの使い魔のヘルムが、退屈そうに口から小さく火をぽっと吐き出していました。ヘルムは蜥蜴の姿をしているだけで、本当はドラゴンなのです。でもドラゴンが館で生活するのは大変なので、猫と同じ大きさの蜥蜴になっているのです。

 本を読むために書斎へと去って行くイリューカを見送って、ヘルムはととととアイルの傍らへと歩み寄りました。アイルはヘルムが歩み寄ってきたのを察すると、しゃがみ、腕を伸ばし、肩に乗るように誘導します。そうしてアイルの肩によじ登ったヘルムは、その首の右側、右耳の下に小さく刻まれた刻印を見て、口を開きました。


《ぼちぼちまた消えかけてるな》

「そっか。じゃあ、またお願いして良い?」

《任せろ》


 ちろろ、とヘルムの細長い舌が刻印のある場所に触れました。ぽっと一瞬だけ炎が灯って、けれどそれは決してアイルを焼くことはありません。すぐに消えた炎の下、首筋の刻印は、先ほどまでよりも色鮮やかに、くっきりと、そこにありました。


「いつもありがとう、ヘルム」

《気にするな。俺様としても、お前がいる方が便利で良い》

「あはは、便利かぁ」

《あと、お前に構っている間は、イリューカも、退屈で死にそうにはならんだろう》

「僕が主様のお役に立てるなら、それが一番幸せだよ」


 楽しそうに二人は笑いました。

 悠久の魔女イリューカは、長い長い時間を一人で生きてきました。ヘルムが側にいても、彼女はいつも退屈そうでした。だから、気まぐれでアイルを拾ったのです。気まぐれで拾われ、気まぐれで刻印を刻まれ(ちなみに理由は、「だって、持ち物には印を付けておかないとなくしてしまうわぁ」です)、気まぐれで再び捨てられそうになったアイル。

 けれど、全てを喪った子供は、主と慕う魔女の側を離れたくありませんでした。浮世離れして、日常生活がちょっと不安定な魔女を放っておけませんでした。そんな子供に手を差し伸べたのが、魔女の使い魔。魔女と同じ魔力を宿した使い魔は、今日もこうしてひっそりと、消えそうな魔女の刻印を修復するのです。

 全ては、彼らの愛する魔女の、健やかなる日々のために。



 昔々、あるところに。

 永遠の時を生きると言われる、不老不死の魔女がおりました。魔女は深い深い森の奥、使い魔であるドラゴンと魔女を主と慕う人間と三人、静かに暮らしておりました。魔女の住む森は死の森と恐れられ、人々は決して近づくことはありませんでした。




 そして、そんな魔女の館からは、その名に似合わぬ、朗らかな笑い声が絶えず響いているのでありました。



FIN

のほほん系魔女と、お世話焼き系の子供ということで。

使い魔は趣味です。

趣味です!

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