黒服の少女
かくどんにぽいぽいしてた小ネタ。
現代異能系?
それは、まるで喪服のような衣装を身に纏った少女だった。デザインはセーラー服に似ていたが、全身真っ黒なのだ。手にした傘も、靴も、ストッキングも真っ黒だ。何となくセーラー服らしい、と解る程度には濃淡があるが、色は全て黒。
それだけならばまだ、趣味の範疇として人目は惹かなかっただろう。都会の喧噪の中では、個人の服装にそこまで気を配る者などそうそういない。だが、彼女は異様なほどに衆目を集めていた。
長い黒髪、白い肌、赤い唇。真っ黒なセーラー服に身を包み、黒いレースのついたゴシック調の日傘を差している、美し少女だ。服装はともかく、彼女の要望はとあるおとぎ話の姫君を思わせた。
すなわち、黒檀の髪、雪の肌、血の赤の唇を持つ麗しの姫君、白雪姫。
けれどこの白雪姫は、その純朴なイメージとはほど遠く、どこまでも鋭利な印象を与えていた。ゆったりと微笑んでいながら、冷気を孕んだ鋭さが隠し切れていない。何とも物騒な、けれど大層美しい少女、なのだ。
「街中で殺気をばらまくな」
面倒そうな声が聞こえて、少女は振り返る。そこには、彼女と良く似た装いの少女が立っていた。
「別に、ばらまいてなどいないわよ?」
不思議そうに告げる黒髪の少女に対して、新たに現れた短い茶髪の少女は、面倒そうに息を吐き出した。こちらは、少女と同じ黒いセーラー服もどきを身につけているが、共通点はそこだけだった。足下の靴も、デザインは良く似ていたが彼女のそれは焦げ茶で、ストッキングではなく、真っ白なハイソックスを身につけていた。日傘に至っては手にしていない。
そうして見ると、黒いセーラー服もどきという異質に見えた服装も、実に健康的かつ躍動的に見える。ようは、黒髪の少女が放つ雰囲気が異質なだけで、服装に罪はなかったということだ。
「待ちぼうけは退屈なのよ」
「喧しいわ」
「……貴方は、もう少し言葉遣いを気にした方が良いと思うのだけれど」
「メンドイ」
闊達な印象そのままに、少年のような口調で話す茶髪の少女に、黒髪の少女が呆れたように息を吐いた。そうしていると、先ほどまでの鋭利な雰囲気がなりを潜めて、普通の少女の様に見える。……見えるだけだと知っているのは、傍らの茶髪の少女だけだろう。
「そんで、首尾は?」
「問題無いわ」
花が開くように笑う姿は実に愛らしい少女。黒い日傘を持つ白い手が、ほっそりと華奢な姿さえ、何とも言えず麗しい。匂い立つような色香ではないが、人目を惹く美しさを宿した黒髪の少女は、やはり、その美貌に相応しい微笑みを浮かべる。胸中に何を抱えているのか読ませないままに。
そうか、と茶髪の少女は満足そうに笑った。こちらは、まるで少年のように快活に笑う。同じ黒いセーラー服もどきの衣装を着ているのに、どこまでも相反する印象を与える二人の少女。彼女達の視線は行き交う人々を素通りして、その空間そのものを眺めていた。
「そんじゃ、援軍は不要って感じか?」
「えぇ、私と貴方で、問題無いと思うわ」
「了解。そんじゃ、さっさと終わらせて、飯食おうぜ」
「そうね」
ふわり、と黒髪の少女が笑う。瞬間、全ての音が消え失せて、全ての者が動きを止めた。
「さぁ、仕事の始まりだ」
楽しげに笑う茶髪の少女の声を聞いたのは、傍らに佇む、黒髪の少女だけだった。
世界の片隅で、その崩壊を防ぐために暗躍する少女達がいることを知る者は、当事者だけだった。
(終)
真っ黒のセーラー服って良いよね!という感じで。
戦う女子は格好良いです。
そしてひっそりと異能と戦うとかマジで大好き。
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