140文字で書くお題ったー
診断メーカーでTwitterにぽいぽいしてた小ネタ。
140字でまとめるのなかなか難しいけど、割りと楽しい。
・貴方は主従で『Marry me?』をお題にして140文字SSを書いてください。
「Marry me?」
少女の声音が告げる。己の前に立つ無骨一辺倒の騎士に対して、実に楽しげに、軽やかな声で、少女は告げる。少女、いや、今日成人したばかりの立派なレディだ。その言葉に、男は。
「寝言は寝てから言ってください、お嬢様」
強調された《お嬢様》に、少女は唇を尖らせた。
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・貴方は親友で『嫌味なくらい、できたやつ』をお題にして140文字SSを書いてください。
私の親友は嫌みなくらいにできたやつなのだ。文武両道才色兼備、品行方正で時々お茶目。おまけに気配りが出来る優しい性格。なんだよ、嫌みですか、この野郎。
「ほれ、目元冷やしておけ」
「……ありがと」
何度目かの失恋で泣いてる私に当たり前みたいに濡れタオル。出来すぎだよ、親友。
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・貴方は竜で『なんだって知ってた』をお題にして140文字SSを書いてください。
彼は永遠に等しい時間を生きる竜だった。山の頂から人の営みを眺め続けて幾星霜。争いを繰り広げ続ける短命な命の愚かさを眺めていた。世界の真理を知っていた。彼は何だって知っていたのだ。
けれど。
「……貴方の傍にいても良いですか?」
そう微笑んだ少女に抱いた気持ちだけは、知らなかった。
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・貴方は宿敵で『そうだったっけ、覚えてないや』をお題にして140文字SSを書いてください。
「そうだったっけ、覚えてないや」
そう言って笑った顔だけは、昔の儘だというのが、余計に苛立ちを呼んだ。父の形見の剣を握りしめる。この男は本当に、幼い少年の頃から変わらない。残酷で、冷酷で、無邪気で、そして、非情で。
「殺し合うのに理由はいらないよね?」
そして楽しげに、笑うのだ。
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・貴方は約束で『こたえられない』をお題にして140文字SSを書いてください。
「ごめん、こたえられない」
そう告げた男の言葉に、そう、と女性は小さく呟いた。申し訳なさそうな男に向けて、晴れやかな笑顔を向ける。美しい笑顔だった。……無理をして作った、ガラス細工のような笑みだった。
「良いのよ。さようなら」
幼い頃に交わした約束なんて、しょせん夢幻なのだから。
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・貴方は鬼で『ありふれた日常の中の幸せ』をお題にして140文字SSを書いてください。
持ち帰った桶の中の大量の魚を見て大喜びする子供達。彼らが桶を持って走っていく背中を見送って、彼は知らず口元に笑みを浮かべた。その日の食事が一品増える。そんなささやかなことを幸福だと、騒ぐ子供達の姿に、彼はただ、笑った。
……いつか己が鬼族と知られるその日まで、この幸福を、と。
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・貴方は主従で『最終手段』をお題にして140文字SSを書いてください。
「仕方ないな。持っていけ」
平然とした口調で告げた主に、騎士は低い声で呻いた。ほれ、と美しい面差しの若者は告げるのだ。当たり前の事のように、残酷な言葉を。
「俺の首を持っていけば、少なくともお前は生き延びられるだろう?」
「何故」
声を押し殺す騎士に主はただ、生きろと笑うのだ。
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・貴方は姫で『多分上手く笑えていない。』をお題にして140文字SSを書いてください。
「ありがとう」
そういって姫君は笑うけれど、その微笑みがどこか歪であることは誰の目にも明らかだった。けれど、誰もそのことを告げたりはしない。彼女がいつものように上手に笑えなくても、無理は無いことだった。
差し出された血まみれの手をそっと取って、全てを失った姫君は歪に笑った。
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・貴方は主従で『誰も欲しくない』をお題にして140文字SSを書いてください。
「いい加減、諦めて下さい」
「断る」
疲れたように呟いた老齢の騎士に年端もいかぬ少年はきっぱりと言い切った。何故ですか、と騎士が問いかければ、少年は愛らしい顔に似合わぬ大人びた微笑みを浮かべて答えた。
「お主がいれば他に誰もいらんだろう?」
我に仕えよ、と幼き王子は言うのだ。
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・貴方は相棒で『黙って泣きやがれ』をお題にして140文字SSを書いてください。
「黙って泣きやがれ」
粗野な物言いで男が告げて、面倒そうな顔をしている傍らの相棒を引き寄せると、無理矢理己の肩に顔を押しつけさせた。
「……ヲイ」
「うるせぇ、とっとと泣け。意地張るんじゃねぇよ」
その言葉に、返答は無かった。げし、と結構な力で足を蹴られる。それが答えだった。
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・貴方は主従で『夢であえたら』をお題にして140文字SSを書いてください。
「……夢であえれば」
ぽつりと呟いたのは、艶やかな黒髪を背に流した少女だった。美しい面差しの少女は、身分ある存在と一目見てわかるほどに、気品に満ちていた。
そろり、と細い指先が、手元に残った懐剣を撫でる。今はもういない存在を思うように。
「愚か者め」
主を残して死ぬなどと。
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・貴方は親友で『新婚ごっこ』をお題にして140文字SSを書いてください。
《今日は残業》
《晩ご飯待ってるね》
《遅くなるから、先に食べてて良いよ》
《一緒が良いの》
《なるべく早く帰るよ》
《待ってるわ》
SNSの通知音が響く。互いに自分のスマホを見ているだけの一組の男女。その頭をぽかぽかと叩く手が一つ。
「何してんだ、お前ら」
「「新婚ごっこ」」
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・貴方は婚約者で『素晴らしく救われないだけの、恋愛話』をお題にして140文字SSを書いてください。
昔話をしよう。そう言って笑った男の顔は、奇妙に能面めいていた。男は楽しげに昔話を紡ぐ。壊れた恋の物語。仲の良い幼馴染みが、引き裂かれた恋のお話。話の最後に、男はゆるりと微笑んだ。
「さぁ、彼女を殺したこの国に、報復を」
それは救いの無い、恋愛話。そして、その裏で滅んだ、王国の話。
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・貴方は人狼で『幸せになってよ』をお題にして140文字SSを書いてください。
ころん、と足下に転がる木の実を、少女は不思議そうな顔をして、けれど持っていた籠に入れた。そしてそのまま、来た道を戻っていく。いつもの日常。いつもの光景。
それを眺める人物は、少女のそれと良く似た少年だった。
「……幸せになってよ」
小さく呟いた言葉は、人を逸脱した彼の本音だった。
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・貴方は巫女で『どこかで響いた銃声』をお題にして140文字SSを書いてください。
扉の向こう、遠いどこかで銃声が響いた。びくりと怯える子供達の頭を撫でて、巫女服を纏った女性は微笑む。
「心配いりませんよ。ここは安全です」
結界術に長けた守護の巫女。彼女の言葉ならば真実と、子供達は安堵の表情を浮かべる。
その中で巫女だけが、遠いどこかを見つめて、眉をひそめた。