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お題:結晶

お題箱で貰ったお題、結晶でかくどんに書いてみた小ネタ。

不思議ファンタジー系?

 こつん、こつん、こつん、と硬質な音が響いていた。廊下を歩く青年は眉を寄せ、その音の発生源へと歩いて行く。その顔には、面倒くさいと大きく書いてあった。彼はこの先に待つのが何であるのかを知っていて、けれどそれに接触することを嫌がっている風でもあった。


「アライア」


 青年の唇からこぼれ落ちた音は、ひどく冷え切った響きで紡がれた。その言葉に、くるりと少年が振り返る。あどけなくすら映る外見の少年だが、その瞳の、まるで爬虫類のような虹彩だけで、その印象全てを裏切った。黄金色の爬虫類の瞳が、不思議そうに瞬いて、青年を見た。


「やぁ、イリーグ。どうしたの?」

「どうしたの?ではない。無駄な音をさせるな」

「失礼だなぁ。無駄な音じゃないよ。これは見分けるために必要なんだよ?」


 そう言って楽しそうに笑いながら、アライアと呼ばれた少年は、指先で半透明の結晶を転がした。かつん、と結晶と結晶がぶつかって、倒れる。掌におさまるサイズのそれは、まるで水晶のようだ。

 だが、それは水晶では無い。水晶のような、何の害も無い美しい物体では無いのだ。それを知っているからこそ、イリーグと呼ばれた青年はアライアを睨め付ける。その態度が気にくわないと言いたげに。

 けれど、アライアは笑う。イリーグがどんな風に自分を見ても、どれほど冷淡な態度を取られても、彼には関係が無かった。彼はただ、己の望むまま、本能の命ずるまま、役目を果たすだけなのだから。


「最近は不作だねぇ。マトモな結晶が育っていないよ」

「……そうか」

「マトモに結晶を育てられない王の治政は、嫌だねぇ」


 ころころと無邪気な子供めいた口調で笑うアライアの発言に、イリーグは何も言わなかった。仮に、内心同じことを思っていたとしても、彼は決して同意しない。出来るわけが無い。この奇人と己が同質だなどと、彼は絶対に認めないだろう。

 そんなイリーグの心境を知ってか知らずか、アライアはぶつかり合ってひびの入った小さな結晶を手に取った。手に取り、そして。

 ぱくん、と口の中に放り込んで、しゃりしゃりと飴玉でも食べるように噛み砕いて、咀嚼した。

 イリーグが眉を寄せる。おいと告げた彼に返されるのは、なぁに?と楽しげに笑う、見た目だけは愛らしい子供の笑顔だった。その爬虫類めいた、感情を見せない瞳を知っているからこそ、イリーグはイライラしたように舌打ちをする。


「許可無く食べるな」

「嫌だよ。どうせ廃棄処分じゃないか。それなら、僕のお腹に納めた方が良いよ」

「アライア」

「そうでしょう、イリーグ?廃棄処分で輪廻が不可能な魂なら、僕のお腹で僕の力になったって、問題ないじゃない?」

「……っ」


 くすくすと楽しそうにアライアは笑う。彼が先ほどからオモチャにしている結晶は、ヒトの魂の結晶だった。一生を終えた魂はこうして美しい結晶となり、その優劣によってその後が決まる。

 そして、ひび割れた水晶のような欠陥品は、二度と輪廻に戻されず、破棄される。

 アライアは水晶の質を見抜く職人であり、水晶を食べて生きる人外の存在だった。いや、元々はただの人間だったのが、永い時間をかけてゆっくりと人外へと変質した存在だ。


「イリーグも食べる?美味しいよ?」

「いらぬ」

「そう?……君ならきっと、適応できると思うけど」


 楽しげに笑うアライアに、イリーグは何も言わなかった。(終)

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