世界と君を、引き替えにしても。
かくどんにぽいぽいしてた小ネタ。
シリアス風味。
愛していたのかと問われれば、違うと答えただろう。男女の情愛で無かったことは事実だった。大切な存在だったことは本当だ。他の誰にも代えられない、唯一無二の存在だった。けれどそれは決して、恋愛感情では無かったのだ。
けれど、だからこそ、彼にとって彼女は世界の全てと引き替えにしても良いと思えるほどに大切な存在だった。それは彼女にしても同じこと。だからこそ彼女は、最期の最期に、彼に全てを託したのだろう。
――ねぇ、私が護る世界を、私が愛した世界を、貴方は護ってくれるでしょう?
それはとても穏やかな微笑みで、彼が見たことも無い美しい笑顔だった。けれど、その唇が紡いだのは、とても残酷な言葉でもあった。
どうして、と問いかけた彼にやはり彼女は笑って、「あとをお願いね?」と告げて、消えてしまった。そう、文字通り、彼女は消えた。この世界を救うため、世界の礎となるために。聖女と呼ばれた女性は、世界の歪みを正すことと引き替えに魂ごと消失した。
「君の願いで無ければ、全てを壊したものを」
ぼそりと呟く言葉こそ、彼の嘘偽りの無い本音だった。(終)