「世界はいつだってかみ合わない」で始まり、「それが最初で最後でした」で終わる物語
世界はいつだってかみ合わない。むしろただただ残酷だ。救おうとしたんだ。助けようとしたんだ。ただ優しくしたいと願っただけなんだ。それなのに、そう、それなのに、だ。
助けるために差し伸べたこの手は、また今日も拒絶される。こちらを見る表情にはただ、恐怖だけが滲んでいた。
そして今日もまた、一人、取り残される。ただ優しくしたいのに。救いたいのに。助けたいのに。伸ばした手も、叫んだ言葉も、何一つ届かないままに、いつだって恐怖され、疎まれるだけだった。
世界は僕にとってどこまでも残酷で、冷淡だ。歩み寄ろうとしても誰もが逃げていく。悲しいほどに。
「そりゃあ、仕方ないことだろう」
訳知り顔で告げてくるのは、楽しげに笑う友人だった。友人、なのだと思う。変わらず昔から側にいてくれる唯一の存在だった。今日も人生が楽しいと言いたげに笑っている。
「お前を恐れないものなんて、きっといない」
「君がいる」
「悪いな、俺は例外だ」
優しいのに、残酷だ。俺はお前の親友だからなと笑ってくれるくせに、同時に自分だけは例外で、他が僕に近づくことはないのだと笑う。それを冷たいとか酷いとか言うことは、もうとっくに止めてしまった。だって、彼の言葉はいつだって、事実だったのだから。悲しいほどに、事実だったから。
「諦めろ。お前が跡目を継いだ以上、お前を恐れない存在は絶対に現れない」
「酷いよ、ソキウス」
「下手な希望を持たせないだけ優しいと思わないか、レクス?」
楽しげに笑う友人は、いつだって僕に現実を突きつける。ちゃんと解っておけよと笑うその姿は、見慣れてしまったけれど。
僕は、役目を継いだ。継ぎたくて継いだわけではないけれど、僕以外にいないのだから仕方ない。役目を継いで、それでも僕は誰かに優しくしたくて、困っている人を助けようとするのに、いつだってこの手は拒まれるのだ。
そしてその度にソキウスは、それがお前だからと笑いながら言うのだ。
幾つの夜を眠り、幾つの朝を迎え、幾つの昼を見送っただろう。長い長い時間は、それでも僕に諦めを教えてはくれなかった。困った人が通りかかれば、僕はいつでも手を差し伸べた。けれど誰もこの手を取ってはくれなくて、皆、怯えて恐れて逃げてしまう。それが悲しいと思いながらも、止められなかった。
……本当は、解っていたんだ。僕が皆に受け入れられることはないだろうと。僕はこの世界でたった一人の存在で、多くの人々にとってはただ恐ろしいだけの存在だということを。ちゃんと解っていて、けれどそれでも、一縷の希望に縋りたくなるのだ。
……だってソキウスは、ちゃんと僕を見てくれるから。
彼だけが例外だなんて思いたくなかった。他の人々もきっと僕を解ってくれると思いたかった。だって、世界に一人きりなんて寂しいじゃないか。僕は世界も人々も大好きなのだから、彼らにも少しぐらい僕を好きになって欲しいと思ったんだ。
そうでなければ、世界のために役目を継いだりなんてしない。
世界を守護する、楔の竜王。それが、僕。王になるために生まれた、この世界でたった一匹になってしまった竜種。竜王は、代替わりする前に次代が生まれる以外は、存在しない。ずっと世界に一人なのだ。仲間も伴侶もいない、僕は、独りぼっちの哀れな王様だった。
「いい加減、諦めろって」
笑うソキウス。彼は本当に、残酷だ。僕の側にいてくれる、優しい優しい親友。けれど君は、いくら長命でも竜には及ばないエルフじゃないか。人より長くても、獣より長くても、君はいつか、僕より先に死んでしまう。いつか、必ず。
僕の友人はソキウス一人。そして、それが最初で最後でした




