「#1ふぁぼごとに存在しない小説の106ページ3行目を書く」詰め合わせ
1
お手を拝借。そう笑顔で告げた青年の言葉に釣られるように、皆が手を前に出した。その瞬間だった。にんまりと微笑んだ青年の瞳が細められ、唇がゆぅるりと弧を描いたのは。
「さぁ、〆に入りましょうかねぇ」
実に楽しげに青年は手にした扇を翻す。ひらり、ひらり。その瞬間、世界が真白に染まった。
2
「お主も、なかなかにあくどいのぉ」
実に楽しげに笑ったのは、その口調に不似合いなほどに幼い容貌をした少年だった。いや、少女なのかも知れない。性別の解らない端正な顔立ちの子供は、剣を片手に面倒そうにしている青年に向けて、やはり、笑った。
「よい。願うならば叶えよう」
実に、楽しげに。
3
げし、という音がした。漫画みたいな効果音だが、実際にそんな音がしたのだから仕方ない。続いて響くのは、罵声。
「何しやがる!」
「邪魔なお前が悪い」
「何だと!?」
騒々しいことこの上ない。後頭部に足跡をくっ付けた兄が怒鳴れば、姉の冷えた声がそれを一刀両断する。いつものことだ。
4
ありがとう、さようなら、ごめんなさい。涙の滲んだ瞳で、それでも柔らかく微笑んだ彼女に向けて、彼は手を伸ばした。けれど、その手は彼女に届かない。カシャン、と無情にも二人を隔てるように門が閉ざされる。
「エリーゼ!」
愛した少女の名を叫ぶ少年の声だけが、全てを閉ざした世界に響いた。
5
嘘よ、と呟く声が聞こえた。彼がゆっくりと瞼を持ち上げれば、そこには、本来いるはずのない人物がいた。
「……やぁ、どうしたんだい、リサ」
柔らかな声はいつもと変わらないのに、けほと咳き込んだ彼の口元からは赤いものが溢れた。それを見て彼女は大きな瞳を見開いて、また、嘘よと呟いた。
6
何でいる。面倒そうに呟かれた言葉に、男はぴくりと眉を動かした。けれどそれ以上は反応せずに、手元の本へと視線を落とす。
「グラウ」
自分の愛称を呼ばれても、男は返事をしなかった。ただ、読書に集中するフリをする。
「何考えてんだ、グラウディーン」
ため息と共に呼ばれた本名にも、反応せず。
7
落ちる。墜ちる。堕ちていく……!恐怖に支配された心が怯えているのがわかる。ダメだ、まだダメだ。まだ、こんなところで、私は、
「諦めが悪いな」
耳元で聞こえた声は、ひどく楽しげで、優しくて、この血塗れの戦場に不似合いなほどに、朗らかな笑顔がそこにあった。……裏切り者の、勇者の、笑顔。
8
小刻みに動く翼を見て、幼女が顔を輝かせる。その笑顔は無邪気で、あまりにも純粋だった。
「……儂が怖く無いのかぇ?」
「……こぁい?」
どうして?と不思議そうに問いかけた子供に、天狗の老爺は苦笑した。異形を見る目を持ちながら、どこまでも幼い子供。放っておけぬなぁと、彼は笑った。
9
「よぉーう、色男。磨きがかかってるぜ」
軽快な口調は、けれど決して揶揄するようなものではなかった。
「……お前、何で……?」
「それはこっちのセリフー。……ったく、勝手にこっち側に踏み込んで来やがって。お人好しが」
仕方ねぇなと言いたげな口調に、死地にありながら彼は思わず笑った。
10
ごろん、と寝そべる人影を見て、はぁと小さくため息をついた。何でこんなところにいるんだろう。もう帰ったと思ったんだけれど。
「主様」
呼びかけた私の声に、反応は無い。ただ、ぱたり、ぱたり、と犬に良く似た尻尾が揺れていた。……起きてるじゃ無いですか。
「起きろ、このバカ神!」




