運命は、常に残酷に踊る
Twitterで文庫ページメーカーで遊んでたときの短文
たまにはシリアス書いてみようって感じでした。
「お前さん達も残酷だねぇ」
ぼそりと呟いた男の言葉に、グラスを傾けていた青年は不思議そうに彼を見た。旅の道連れとなった男だ。最初から彼らの旅にいたわけではない。途中参加の男からの唐突な言葉に青年、聖女の旅に同行している幼馴染み一同の最年長は首を傾げた。
「残酷とは、何が?」
「お前さん達の何もかもだよ。あの幼いお嬢さんは何も知らんのだろうが」
「あぁ、そのことでしたか」
男の言葉の意味を察したのか、青年は口元に笑みを浮かべた。その笑みは柔らかで優しく美しかったが、同時に奇妙に作り物めいていた。男は目を細め、そんな歪な笑みを浮かべる青年を見つめる。その視線の鋭さに怯みもせずに、青年はやはり、笑っていた。
世界を救う聖女と呼ばれる少女がいた。その少女の旅路の彩りにと、同行を許された幼馴染み達がいた。多分にそれは、未だ十代半ばの幼い少女の心を慰める為でもあったのだろう。辺境の村娘に過ぎなかった少女に、聖女としての旅はあまりにも過酷だった。
聖女は、およそ三十年から五十年の周期で代替わりをする。少女が聖女の力に目覚めたのは、先代が若くして没したせいで、物事の分別もつかない幼子の頃だった。それから十年近く、世界は先代聖女の残した力で護られてきた。だが、やがてそれにも綻びが生じる。少女の旅は、そうして始まった。
「彼女一人で旅をさせるなんて、可哀想じゃないですか」
「そういうことを言ってるんじゃない」
「そういうことですよ」
男の言葉に、青年はやはり、はぐらかすように笑った。いや、彼は心底そう思っているようだった。彼だけではない。聖女である少女の幼馴染み達は、総勢六人。いずれも、彼女を何より大切に思っているのが伝わってくる。
少女より年かさの面々が四人に、少女と同年代の双子が一組。年かさの面々にも年齢差はあり、青年と今一人の女性だけが少女よりも十歳以上年上だった。そこまで離れれば、幼馴染みと言うよりもちょっとした親代わりのようなものだ。だから彼らが彼女に過保護になるのは、解ると言えば解る。
けれど、男が言いたいのは、そういったことではなかった。
「あのお嬢さんは、いずれ己の無知を後悔するぞ」
「……」
「お前さん達がわざと伏せた【真実】を知ってしまえば、あんな幼いお嬢さんの心なんぞ、すぐに壊れるだろうが」
「……その為の、貴方でしょう?」
「あ?」
咎めるような男の言葉に、青年は微笑んだ。その笑みは、笑みだというのに奇妙な凄みを宿していた。言葉にされなかった思いを雄弁に語っている。すなわち、貴様の役目を果たせ、と。
男は忌々しそうに舌打ちをした。この青年は、辺境の村の自警団の一員なんていう平凡な存在だった筈だというのに、恐ろしいほどに知恵が回る。男が何故彼らの旅に合流したのかすら、完全に見抜いている。
「言っておくがな、いくら親しくなろうが、知り合ってすぐの俺より、お前さん達の方が比重が大きいんだぞ」
「勿論です。だから、我々が【祝福】を賜れるのですから」
「……お前さん、見かけによらず性格が悪いと言われないか?」
「身内に対してだけ甘い、とは言われます」
にこり、と青年が笑う。そうかい、と男は面倒そうに呟いた。本当に面倒くさいと思っている顔だった。
男は、王国から派遣された騎士だった。そうと見えない言動であるが、教会に認められた神殿騎士である。聖女である少女の護衛をしている者達とは、格が違う。ただし、普段はもう少し騎士らしくしているので、誰も、気づいていない。
聖女の旅は、過酷だ。歴代の聖女は、その度の最中に何度も何度も傷付いたという。聖女の旅の意味を、青年は調べてその過酷さを理解した。そして、幼い少女一人に背負わせることの無いようにと、仲間達と決意を固めた。
聖女が各地で賜る六つの【祝福】。世界を支えるそれを祭壇の地まで、幼馴染み達が預る。その意味を、聖女の少女はまだ、知らない。
……歴代聖女が苦しんだ試練は、此度、幼馴染み達によって肩代わりされることを、少女はまだ、知らない。(終)
こういう感じの重いシリアスなお話も嫌いではないのです。
長く書けるかは別として←切実
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