散文
かくどんにぽいぽいしてた散文。
イメージは和風。
一つ、二つ、三つ。数える声が聞こえて、男がゆっくりと振り返ると、そこにはガラス玉のような瞳をした少女がいた。
「なぁに?」
日溜まりのような微笑みを浮かべる少女の纏う気配は、まるで極寒の地のように冷えていた。それでも彼女の微笑みは温かく、穏やかで、何とも言えず人を惹きつける。……その瞳の焦点が合ってさえいれば、さぞかし魅力的であっただろう。
「……人か?」
端的に男は問いかけた。少女は首を傾げて、そうして、足下に落ちた小石を拾う。真っ白な小石だった。不自然なほどに白い、丸い小石。少女の細い指先がそれをつまみ上げて、一つ、二つ、三つ、と数を数える。男の問いかけに答えるつもりは無さそうだった。
「お前は、人か?」
男はもう一度問いかけた。そこで少女は己が問われているのだと気づいたのか、ゆるりと唇を開いた。柔らかな微笑みからこぼれ落ちた声は、やはり、柔らかかった。
「残念ながら、人だわ」
そう告げた一瞬だけ、ガラス玉の瞳を細めた少女は、すぐに興味を失ったように白い石を数え始める。
人でありながら人では無い場所に立つ者がいる。少女はそんな、歪な存在だった。
「それで人か」
「えぇ、そうよ?」
男の問いかけに、少女は楽しそうにコロコロと笑った。美しい少女だった。幼さが残る面差しながら、長じれば数多の男を引き寄せるだろうと解るほどの美貌。けれど彼女が人目を惹くのはその整った容貌ではなく、浮かべた微笑みと相反する冷えた空気という不可思議な調和であったのだろう。
人と呼ぶにはあまりにも異質。けれど、彼女は穏やかに微笑みながら、白い小石を数えて遊んでいる。真白な、つるりとしたその小石は、それだけで何かの細工物であるようにすら、見えた。
「……境界でも、作っているのか」
「あら、違うわ。私はそんな力など持たないもの」
ふふふ、と少女は楽しそうに笑った。男の問いかけは、あながち間違っていないのだと言いたげな、微笑み。幼い容貌に似合った、けれどどこか不似合いな、不可思議な微笑み。ガラス玉の瞳が、男を見て、けれどすぐにまた、小石に視線を戻す。
「私はただ、数えるだけよ」
その言葉の意味を、男が理解することは無かった。ただ、少女の目に映る世界を思って、深く、深く、頭を垂れた。まるで、敬意を表するように。