時間はもうない
言い様のない不安と戦っている
時間は無限にあると思っていた。子供の頃、ずっと一緒は本当の言葉だと思っていたし、また明日と言えば同じように遊べると思っていた。
いつしかずっと一緒がただの虚言だと言う事に気づいた。人間なんて簡単に裏切る。明日なんて嘘だ。同じ一日はもう二度とやって来ないし、時間は無限のようでいつの間にか自分を追い詰めていた。それに気づけないままの子供じゃなくて良かった。知らないままだったなら、世界はきっと光り輝いて見えたのだろうけれど、どこかで必ず絶望に叩き落とされる。
時間は有限で、人とは必ずさようならをする。バイバイの先は消えていく。君も僕も、いつだって一人ぼっちだ。
沢山の時間の中で、いつまでも好きなことを出来ると思っていた。進学も就職も結婚も。やりたい事を終わらせる転機にはならない。それでも続けるのだ。そう粋がっていた。
実際はどうだろう?
いつの間にか背後には余暇を過ごすための時間がなくなっていた。目の前は現実。現実。ただそれだけ。
夜も眠れない日があって、夢の中でしか主人公になれなくなった。現実世界での立ち位置はいつだってモブキャラ。出生に大きな秘密があるわけでもない。特殊な能力があるわけでもない。多くの人から妬まれるわけでもない。愛されるわけでもない。どこにでもいる量産型の人間になりたくなかったのに、今の自分はそれだ。
時間を戻せるなら何をしますか?という問いに、僕はいつだってこう答える。
『もっと勉強して自分磨きをして、海外の有名な大学に留学している』って。
勿論、現実問題としてそれは出来るわけもないし、身体についた傷痕がもう消えないのと同じだ。
それでも。少しでも戻れるのなら。僕はそうしていたと思う。今の自分の気持ちを持ったまま人生をやり直せるならそうするだろう。産まれが変わらないのならその後を変えるって。言うだろう。僕なら。
物心ついた時から、どうして自分はこんな所にいるのだろうと思っていた。現代日本に産まれたはずなのに、何だかいつもしっくりこなかった。いつだって宙を浮いているような気持ちで、本当にここに生きているのかも分からないくらいしっくりこなかった。
だから物語の世界に逃げたのだ。腐るほどある異次元の話を読み漁っている時だけ、この世界に生きているのだと感じていた。遠い異国の地や、海の向こうの未開の地、写真でしか知らない場所が、何だか酷く懐かしくて堪らなかった。今もまだ行けていないのだけれど。
どこに産まれてどんな家庭で育ってどんな顔になるか。それだけは選ぶ事が出来ない。時代を間違えたと思っても、残念ながら再選択は不可能だ。けれど、その先を決められるのは自分だ。
時間は有限だ。今、逃げ出したい事から逃げているだけじゃ、未来なんて何一つ見えないんだよ。
僕はそれを知っているから、もう少しだけこの腐った世界でモブキャラとして頑張ってみようと思う。もし、異世界の道が開いて、君が主人公だと言われた暁には足を運んでしまうかもしれない。勿論、世界情勢は見るけれど。
悲しい事があったなら、走ったって良いじゃないか。漠然とした不安があるのなら、雨に濡れても良いじゃないか。何をしたら駄目だとか、犯罪以外決められてないだろう?生きるために寄り道だって必要なんだよ。




