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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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夜が明ける前に始まる物語


夢を見る






何度も夢を見る。何度も。何十回、何百回、何千回と。夢を見てきた。ベッドに潜り込んですぐに寝れはしないから、少しだけ寝返りをうったり考え事をしたり。窓の外を見て月の光に目が覚めたり。やがて目が慣れて来て、薄い紺色の中、部屋の全景が見えるようになる。


夜が好きだ。幼い頃はあれだけ嫌いだったくせに、大人になった今、夜はこんなにも心地いいものに変化した。


静寂が好きだ。終電の走る音。遠くのサイレン。バイクのエンジン音。猫の鳴き声。風の音。雨の気配。全部が全部、偽物のようで本物の世界。現実味が湧かないのだ。夜が明ければ人が街に溢れ返って忙しなく動くのに、夜だけは静かになりを潜めているのが。


確かに眠らない街はあるだろう。そんな場所に繰り出す日もあるけれど、元々派手な性格じゃないんだ。そんな事をするなら、家で一人、アルコールを飲みながら読書をする方が好きだ。間接照明をつけて、クッションに背を預け、眼鏡をかけて文字をなぞる夜があっても良いじゃないか。


寂しいけれど、その寂しさがどうしようもなく恋しくなる日もあるから、自分は面倒な人間だなと次ぐ次ぐ思う。今に始まった事ではないけれど、歪んでいる事に気づくには遅すぎた。


悲しい事があっても良いだろう。不安だってあっても良いだろう。生きている限り悩みは尽きないし、悲しみはいつだって君の影にいる。溢れ出すのを我慢しているだけで。


僕が嫌いなのは、悲しみでも不安でもない。虚無だ。あれが一番頂けない。人間としての尊厳を奪い取られている気がする。全てにおいて意味があるわけではないのだろう。けれど、全てにおいて繋がるのは事実だ。けれど虚無は駄目だ。やる気も感情も、全部奪い去ってしまう。新しい作品に取り組む際、あいつがやって来ない事を願うばかりだ。大体、一回はやってくるし、Deleteを押したくなるのも事実だ。あいつがやって来てしまったら、もうどうしようもできない。楽しく書く事は無理だし、続きが続きが、病んだように呟いてはサボり始めるから。


だから、もう諦めてあいつがやって来てしまう前に新しい事を始めようと思う。始めてしまえば、後がないだろう?ちょっと自分を追い込んでいこうと思うんだ。



という事で。春の夜を忘れないでほしい。

桜を散らして奪い去ってしまった雨も。愛しい誰かへの想いが降り注ぐ事も。その中に残像を見る事も。



僕の後悔はまだまだ消えそうにないから、また付き合ってくれると嬉しいな。

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