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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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未来の見えない夜の事


生きているのにもお金がかかるし、死ぬのにもお金がかかるって酷い話だよね








パソコンを長い事使っていると、キーボードやら何やら色んな所が汚れてくるよね。それがとても嫌で、こまめに拭いているんだけど、残念な事に僕がゴム手袋をして触り続けない限り、汚れは消える事がないから諦めたんだけど、友人も似たような事を言っていたなと思い出す。普段から使うものが汚くなってしまうのはしょうがない事だけれど、それでもやっぱり気分は良くないのだ。


そんな事を思い出した。確かこの話をしたのはつい一週間前だったと思う。そして、最近の僕はどうやら何かを迷っているらしい。ぱっとしない日が続くと、何だかつまらないし自分が悪いのかと思ってしまうものだ。


嫌な事が重なって泣く事はほとんどないし、むしろ腹立たしくなる一方なんだけど、そんな僕でも涙を流す日だってある。


僕は僕の無力さに気づいて泣く事しかないのだ。


誰かとの別れに悲しんで泣く事もなく、圧倒的理不尽の前で涙を流す事もなく、僕はただ、自分の無力さとちっぽけさ、そして虚無感の前でしか涙を流す事がない。


普段から眠るのは遅いのだけれど、それは大体何かをやっていて遅くなるだけであって、眠れないとかそんな事じゃないんだけど。本当に時折。何だか眠れない夜があって、窓の外を眺めて月でも見ていたりする日がある。

そんな日は自分の嫌な所ばかり目がついていけない。どうしてこう出来なかったんだとか、もっとやれたはずだとか。そんな事から始まって、終いには変えようのない事を思い出す。もっと生まれながらに綺麗だったらとか、常人から外れたような才能を持っていたらだとか。数え始めたらきりがないその問答を繰り返す。ここで泣いてすっきりして、寝て起きてはい朝ですね。ってなる日も少なくはないんだけど、そうならない日は大抵何で生きているんだろうって考え始める。


生きてるだけでお金がかかるけど、誰も生まれたいなんて言わなかったじゃないか。死んでしまえばいいなんて思うけれど、それすらも苦痛を伴うしお金がかかる。だから死なない。諦めて生きる。僕たちはただの亡霊じゃないか。


生きている事に価値を見出している人間が、この世界にどれだけいるだろうか。僕は多分、明日世界が終わって貴方は死にますという言葉に、はいそうですか。と返事が出来るだろう。生きていてもやりたい事もなく必要ともされない亡霊なら、いっそいなくなっても変わらないと思うから。誰かに必要とされた人だけ生きればいいんだ。漂うだけの亡霊なんていらない。


僕は多分、生まれてからずっと、存在意義を探してる。至る所で探し続けてる。自分が何かにはまって、その道の第一人者になれるだとか、書き終わるまで死ねないとか、自分が必要だと言い続けてくれる人だとか、そんな夢みたいな絵空事を追いかけている。


きっと優しい自殺志願者だ。緩やかに、何事もなく漂い続けて生を終わらせたいと感じる亡霊は、自殺志願者と同義だろう。


でもまだ死ぬ気はないし、生まれてしまったからには頑張るかなんて必死に耐え続けて、たまにそれが壊れる時がある。


そんな時、僕は深夜に不意にプレイステーションを点けて、ファイナルファンタジーをやるのだ。カラーリングを変えた真っ赤なチョコボのフェニックスに乗って、ただひたすらに、気が晴れるまで世界を旅するのだ。

心行くまでモフモフを味わったら、コントローラーを置いて惰眠を貪る。これが僕の最終生命ライン。


それを母に言ったら、病んでると言われたんだけど、病んでても良いだろう。それで救われるなら安いものだ。


どこにも行けるようでどこにも行けない。偽の自由に囚われた僕達は、広大な世界を走りたいと願う。お金も地位も暮らしも、何もかも気にする事のないまま旅に出たいと願う。本当の自由を手に入れたいと思う。


恵まれすぎているのだ。そう何度も言われた。けれど、恵まれているって何だろう。誰を基準に物事を言っているのだろう。この押しつぶされそうな虚無感を、恵まれていると言って片付けるのだろうか。そんな事を言うから、日本人の自殺は止まらないのだ。誰かと比べるんじゃない。僕には僕の悩みがあって君には君の悲しみがあるんだから一緒にするな。


僕はここに吐き出す事で自我を保っているようなものだ。君には分かるまいて。なんて言いそうになって止めた。分からなくていい。これは僕の感情だ。君に共有する気は一ミリも持ち合わせていない。


きっと今日も誰かが眠れない夜を過ごすのだろう。月を見上げれば良いのだけれど、雲が遮って何もかもを奪ってしまうかもしれない。

けれど、僕等は一人で立たなくちゃいけないんだ。ひとしきり泣いたら、不満の一つでも口にしてくれ。それでもまだ、死ぬには程遠いから。

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