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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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成長しても本質は変わらないのだよ


そうやって成長してきたし、そうやって戻れなくなった





先日、また大人の階段を上ったのだけれど。


思い立ったが吉日の考えにより、唐突に埼玉県川越市の観光に行ってきた。特に大きな問題も無く、川越という街を楽しめたのだが、帰って来てそれは起きた。


地元の市に帰って来て、お昼に鰻を食べようとしていたんだけど、残念ながら定休日で。でも、どうしても今日は鰻の気分が捨てられなくて。友人と二人、お高いお店に足を運んだ。


結果として、そこまで高くつかなかったし、この贅沢を味わえるなら馬鹿みたいに飲みまくる事もないなと思ってしまった。また老けたなと思った瞬間だった。


完全個室のお座敷を見て、第一声で私達が言ったのは、「あ、芸能人の密会デートとかで見るやつや!」だった。それほどまでに落ち着いたプライベート空間で、美味しい料理とお酒を堪能してお腹も心もいっぱいになった。まあ、女将さんらしき人に言われた、若い子が来たから珍しいなと思ってという言葉に、あ、ほんま場違いですみませんと思った。それはもう、向こうが悪気無くても、こっちが申し訳ないと思ってしまった。ほんま、すみませんでした。


ただ、店を出た後、思った事がある。

いつの間に、こんなお店で食事する作法が付いていた。いつの間にか、それほどの値段を払えるようになった。いつの間にか、この静寂に、耐えられるようになった。

一年前より、数か月前より、昨日より。いつの間にか自分は成長していて、いつの間にか手の届かないと思っていた空間に、簡単に手が届くようになっていた。


それに嬉しいと思う反面、悲しいと思う事もある。だって、1LDKの古びたアパートの駐車場で、兄と二人で遊んでいた自分はもうどこにもいないからだ。

あの頃の自分が思うよりもずっと、遠くに来てしまった。子供の想像なんて、大人は簡単に越えられると知ってしまった。こうして現実を知って、俗世に染まっていくのだと。二度と真っ白には戻れないと。


成長するってこういう事だ。ただ、嬉しいだけじゃない。惜しむ事もある。大事なものを取りこぼす時もある。いつの間にか落としていて。気付かないまま、僕らは大人になる。それを考えさせられた日だった。



その時、友人に言われた言葉をとても憶えている。


「歩いてきた道全てが全て繋がって今があるって、何だか君の人生は運命的だね」


僕は運命という言葉が好きだけど、嫌いでもある。だって、運命って言葉で片付けてしまえば、何でもそれのせいに出来るだろう。それが嫌だった。

どうしようもなく抗えない事もある。だけど、今僕がこれを書いている事も運命のせいと言ってしまえば片付いてしまう事が悲しい。


僕が書くのは今も昔も変わらずに、一つの後悔から始まった世界だ。この後悔を、うなされるまで泣いた失態を、他の人も同じ思いをしないように書き始めたのだ。たった一人の悲しみを、無かったことにはしたくなかった。意味のないものにしたくなかった。だから書いた。そこから全てが始まったなんて、笑えるけれど本当の事だ。嘘だと言えたなら良いのだけれど、残念ながら本当だ。


確かに、友人が言った運命的だと言う言葉はとても分かるんだ。だって僕も心のどこかでそう思っているから。それ以外の表現に、会った事もないんだ。




二年前の僕が勇気を出して書いたお話が全ての始まりで、今ここに繋がっているのが運命的だと思う。多くの人に会えて、新しい世界を見たのも。確かに運命的だ。でも、それですませたくない。これは僕が作ってきた道だ。


僕の人生を運命的だという人もいるだろう。けれど、僕はただの人間だ。さらに言わせてもらえば共感覚持ちという事で、最近自分をヒトモドキとも言うようになったから、ヒトモドキと言うようにしよう。


本当にそこら辺に転がっているヒトモドキだ。神に愛されているわけでもなく、特別運がいいわけでもない。

それでも僕の人生が運命的に見えるのは、それはきっと、僕が歩いて掴み取ってきたからだ。運命は掴み取るものだし、歩いてきた道が君の代名詞になる。努力した証が、運命で神様に愛されたからラッキーでこうなったと言われるだけだ。そんなもん。



これから先、僕はまた新たな世界を見るだろう。新たな世界を見て、また泣いて悲しんで後悔して。それでも這いつくばって地に立つだろう。そんな確証がどこかにある。ボロボロになっても立ち上がるのが、僕という人間だと、これまでの人生で学んだから。



どれだけ成長しても、純真を失くしても、運命だと言われても、それでも僕は自分が地を這いつくばってボロボロになったから立ち上がれる事を忘れないだろう。

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