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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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その先の事


遠くへ、それでも近くへ。



今日が終わって明日が来る。何度も言っているけれど、息をしている限り、命が続く限り、太陽は昇って沈み、夜が来て星が輝きまた明ける。24時間という短い時間は過ぎて、一秒でも同じ時間はやって来ない。だから何だと思う。そんな事を言ったって日常が大きく変わるわけでもないし、僕が僕である限り、君が君である限り、時間は進んでいくのだろう。けれど、不意に、二度とない巻き戻す事さえ出来ない時間に気づく。



冬が嫌いだった。寒いのが苦手。暑いのも苦手だけれど、寒い方が嫌いだ。

けれど冬の夜空だけは好きだった。空気が澄んでいて星が見えるから。


19の冬、大嫌いな冬の夜を歩いている時にふと気が付く。

僕の命は多分、あと60年も持てばいい方だろう。ただでさえ身体があまり強くないから、余計にそう思った。

例えばあと60年。僕は何が出来るだろうと考えた。何だって出来るとも思った。僕がどう生きて行くかによって、選択肢は無限に現れるのだからと。けれど同時に気づいた。僕はあと60回しか冬と出逢えない。


それがどうしようもないくらい悲しかった。積もる白銀も、冬の夜空も、星も、白い息も、帰り道誰かと一緒に食べるあんまんも、マフラーに鼻を隠す動作も、誰かの手が温もりが恋しくなる季節が、僕はあと60回も越せない。100回も体感できない。

その時、ようやく人間の限界を知った。永遠に四季を感じる事は出来ないだろう。日本にいるとも考えられない。一年中、気候の変わらない場所へ引っ越すかもしれない。もしかしたら60回以下になるかもしれない。


大嫌いだった冬が、大嫌いだった寒さが、ほんの少しだけ好きになった。


あと何回見れるか分からない光景を、大切にしようと思った。いつか、必ず色褪せてしまう日が来るだろうから。


外に出かけるのが嫌いではないけれど、家にいる事の方が好きだった。けれど、外に出ないと誰かに会えない事に気が付いた。新しいものに出会えない事に気づいた。触れ合えない事に気づいた。だから、誰かとどこかへ行くという予定を沢山増やした。おかげで疲労は溜まったけれど、心は充実した。知らない世界を沢山見た。


見知らぬ土地で。知っていたはずの土地で。新しい発見を沢山した。


他人の目線を気にしていた。身長が高い事がコンプレックスだった。今でもそう。けれど、僕が思っているよりも、世間は他人に興味がない事に気づいた。

だから、敢えて綺麗な格好をして堂々と歩くようにした。背筋を伸ばして誇らしく。下を見ていた自分はもうどこにもいない。

どうしたって身長は変わらない。顔も、変えられないものもある。それを隠すよりも釈然として堂々としていた方が綺麗だった事に気が付いたからだ。沢山の人に声をかけられた。沢山の人と知り合った。容姿を褒めてもらう事が多くなった。今でも背が高いのはコンプレックスだし容姿だって到底褒められたものではないと思っている。けれど、心の余裕は外に出る。自身は顕著に現れる。


誰かに教えてあげたい。君が思っている程世界は腐ってはいないし、僕が思っている程綺麗なわけでもない。けれど、どんな姿でも、堂々と歩く人は美しいと。


きっとこの先も沢山の事が起きて。また裏切られて悲しい思いをして。誰かに恋をして。そんな下らない短編小説にもならない物語が僕の生き様だ。

けれど、その良さは自分だけが知っていればいい。僕の物語だ。

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