存在しない効能
人間はいつだって永遠を欲しがる。
存在しない土地、目に映らない人、咲くはずもない花、存在しない効能。僕らは生き続けている限り、そういった幻を信じ続けている。
実際自分の目で見た事すらないのに、僕らはそういったものを愛し続ける。信じ続ける。永遠を欲しがる。
永遠なんてない。永遠の命はないし、永遠の愛なんてものもない。永遠なんてどこにもない。そういった幻。けれど僕はそんな幻を愛してやまない。
創るって事は、嘘をつく事だと思っている。
創れる人は、大体嘘が上手だ。有り得ない事情を、有り得るように書いてしまうのだから天才的な嘘つきで詐欺師だ。
嘘が好き。誰かを騙すためとか、そういう類のものではなくて。
傷つけないためについた嘘とか幻を見せてくれるためについた嘘とか、そんなものは世界一美しいと思っている。
そうして僕もまた、嘘つきの一人。
新しい物語は、有り得るはずもない世界。信じられない幻の世界を創り出して、存在しない人々を創り出し、存在しない誰かの人生を始めて終わらせる。
アルラウネは咲かないんだ。それこそ永遠に。
不死の名を冠したものはどこにもない。それこそ、永遠の命はどこにもないように、始まってしまえば後は終わりを迎えるだけだ。そこには誰一人介入出来ない法則がある。
アルラウネの憂鬱は、永遠なんてどこにもない事。世界は美しくなくて薄汚れて汚い事。理不尽はどこにでもある事。それでも最後は美しく輝く事。そんなテーマを凝縮した、僕の大好きな世界だ。
全くもって新しい世界で、全くもって新しい物語で。
それでも僕の世界は変わらない。僕の愛する終焉は変わらない。
泥臭くて汚くてどうしようもなくボロボロで。それでもどこか美しい。
薄汚れた紙束から始まった物語が、誰かの世界を変える。
365日を共に駆けた君たちに、また新しい世界を駆けてほしい。今度は駆けるというよりかは、共に手記を読んで追体験をしてほしい。
存在しない効能に意味は無い。
花は咲かない。鯉は跳ねない。恋が落ちるだけ。
それでも僕は、そのありえない事象を愛してやまないのだ。




