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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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将来の夢

それでもやっぱり、口にする事は出来ないけれど。


将来の夢を言えなくなったのはいつから。



将来の夢と聞かれると、日本人はなりたい職業を口にする。けれど欧米の子供たちはどうやって暮らしたいかを言う。この違いは一目瞭然。さすが日本。恐るべし。


ところで、将来の夢を口に出す事が出来たのは何歳までだったか。


私自身は小学校の時点で、将来の夢を口にするのが嫌だった。


『今日は将来の夢を書きましょう』


この言葉に、周りのクラスメイトは嬉しそうに書き出すけれど、この手は一ミリも動かなかった。

当時の自分に、将来の夢はどう暮らしたいかで良いんだよと言えば、鉛筆を持つ手が震えなかったかもしれない。


否定された。

小さな頃、物心ついた時に言われた言葉は、大人になっても自分達を縛る。


まだ夢を見ていた小さな子供の頃、私はアイドルになりたかった。

テレビの中でキラキラ輝いて、歌って踊るその姿に心を惹かれた。いつか、自分もああいう風になってみたいと、子供ながらに思った。

それを両親に言った事がある。大きくなったらアイドルになりたいと。沢山の人に笑顔を与えて、自分も笑顔でいられる、そんな夢を叶えたいと。


しかし、現実は残酷だ。

当時3、4歳の子供に言われた言葉は、『お前はブスだからなれる訳ないだろ』。

この瞬間から、私は将来の夢を口にする事を止めた。


どれだけ大人になっても、潜在意識が働いてしまう。

憧れた世界の人にも、誰かを助けるヒーローにも、何かを極める職人にも、自分はなれないのだと。

口にしたら『出来る訳ない』、『現実を見ろ』、『お前は馬鹿だから無理だ』。

きっとその言葉に心が折れてしまったのだと思う。

正直、テレビの中で笑顔を振りまいている女の子のように可愛くはないし、異性の歓声を浴びる男の子のように格好良くは無い。残念ながら、それは事実だ。けれど、夢を見る事だけは、平等に自由だと思っていた。


大人になった今でも、私は将来の夢を、なりたい職業を、親の前で口にする事は出来ない。

否定される恐怖から逃げている。


だから、どんな事も確実になるまでは周りに言わないようになった。

例えば部活の選抜に入っても、試合当日になるまで両親には言わなかったし、中学の部活、演劇部でもそれは同じだった。

反対されていた部活に自分の意志で入った。その選択は今でも後悔していないけれど、応援される事はなかった。

自分が舞台に立つ機会があっても、私は両親にそれを言わなかった。役を得た時も、大会当日も。

分からないのにここが駄目だと言われる。やっぱり向いていないと言われる。いつだってそうだったから。


そうやって大人になって、かわし方を学んだ。一番大切な所に触れられないようにする術を学んだ。笑顔という仮面を被った。いつしかそれが自然になった。


自分をよく知る人達は言う。そんなに明るかったっけ?笑っていたっけ?

けれどこれが、私が学んだ自分を守り隠す術だった。


そしてついこの間、行った占いで本性を当てられた。


『貴方は自分の事を話さない。話すのが苦手なんじゃない。意図的に隠してる。努力している事も、確定的になるまで絶対他人に言わない』


さすがに声を上げた。え、怖いと。

けれどそれを言われた時、少しだけ心が軽くなった。

多分、隠していた本性を誰かに見て欲しかっただけなのだと思う。


未だに親には将来の夢を口にする事は出来ないし、それはこの先の未来でも変わる事はないだろう。


けれど、今、私は思う。


向いていても、向いていなくても、夢を見る事は自由だ。それが報われなかったとしても、誰かがその過程を見ていてくれる。それでも見ていてくれなかったら、その分を私が見よう。


人生の価値観は色々な事で変わる。変わらない意思もある。けれど、思想の自由は誰にも制限されない。


将来の夢を声高く言わなくたっていいんだ。言えなくたっていいんだ。


もし、同じ事で迷っている人がいたら言いたい。どんな人でもいいから、自分を肯定してくれる人を探せと。

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