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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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映画は見ますか


誰かが創り出す世界に憧れて、その世界に入れない事を痛いほど知る













映画が好きだ。もしかしたら小説を書く事よりも好きかもしれない。誰かと一緒に映画館へ行く、一人でも行く、真っ暗闇の中、映像が流れるスクリーンだけを眺め続ける。その瞬間、世界には自分一人だけなのだと錯覚できるから。


映画という娯楽を作り出した人間が、第一人者がどんな人物かは知らないが、私はその人に酷く感謝している。ありがとう、こんな素晴らしい文明を作ってくれて。ありがとう、一人でも行ける空間にしてくれて。ありがとう、一時の夢を見せてくれて。


だれかが創り出した世界が、目の前で、映像が流れていて、雑音は声にかき消されて、たった一人、世界に取り残されるあの感覚が好きだ。だから、映画館はいつも人の少ない場所に行く。その世界を壊されたくないから。


きっと、映画という世界に憧れているのだ。誰かが創り出した、現実にはない世界が。入ってみたいと思う。入れたらいいのに、登場人物であったら良かったのに、そしたら私でも誰かに見てもらえるから、一瞬でも大きな物語の中で、脚光を浴びれるから。けれど、それが出来ない事も充分、分かっている。

だから一人になる為に、映画館に行くのだ。一瞬だけでも、彼らと同じ世界に行こうとして。


映画が完成するまでに、それは長い長い時間がかかる。けれど出来上がった作品は、僅か二時間弱。何だか悲しいと思う。だって演者以外、その二時間、画面に映る事が出来ないのだから。

けれど、こうも思う。長い長い時間をかけて作られた作品が、沢山の人の手によって作られた二時間弱が、多くの人の目に入り、何度も何度も上映され瞼に焼き付くのなら。

それは永遠に近い時間を生き続ける事が出来る。


音楽と同じだ。何度も何度も、沢山の人に聴かれれば。完成するまでの時間をいともたやすく越えるだろう。

記憶に残り続ける事が出来る。それが堪らなく羨ましいのだろう。あの時の俳優さん、彼が演じた役、あの輝かしい衣装、建物、背景、全て、全て、この脳内に残る。

けれど時間が経てばやがて過去のものになり、記憶から少しずつ抜けていく。あの時の俳優さんは誰だっけ。彼が演じた役は。衣装はどんな色をしていた、建物は、背景は、どんな物語だった。

それが堪らなく悲しくて切なくて、恋しい。


エンドロールで書かれた名前たちは、数秒後脳内から消え去るだろう。

私の名前も君の名前も彼の名前も彼女の名前も。まるで人生のように、どんどん消えていくだろう。


それでも忘れたくはないと思う。ここまで書いて気が付く。

ああ、私は多分、映画は人生をなぞっているようだから好きなのだ。

幾度なく産まれ死んでいく感覚が、たまらなく好きなのだ。悲しいのだ。辛いのだ。切ないのだ。恋しいのだ。


エンドロールに名前を残すような人間に、私はなりたい。

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