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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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大人にはなれない

誕生日でした


夢見ていた大人にはまだなれない
















20歳を越えたら物理的に大人になる。誰からの意思も関係なく、ただ歳をとる事で大人になる。

お酒は飲めるようになるし煙草も吸える。人によっては仕事をして結婚だってしている。そんな歳。


歳をとった。今日。大人になった。でも憧れた大人には程遠い。

幼い頃、20歳を越えれば大人になれると思っていた。一人で暮らして、働いて、一人で生きて行けるような、そんな自立した人間に。

早く大人になりたいと願った。親の庇護下から逃げて、逃げて逃げて一人でもやっていけるんだって言えるようにと。だが、現実はどうだろう。いくつ歳をとっても、僕はまだ子供のままだ。


きっと大人なんて社会が作り出した仕組みの一つで。本当は大人なんてどこにもいないのだ。大人の振りが上手いだけの子供しかいない。

親から見れば、どれだけ歳をとろうとも自分の子供は子供のままなのだ。そして、僕らがお父さん、お母さんと呼んでいる人達も誰かの子供なのだ。


大人なんてどこにもいない。ただ、我慢が出来るようになっただけ。周りを見れるようになっただけ。理不尽に耐えられるようになっただけ。やりたい事とやらなければいけない事の優先順位をつけられるようになっただけ。辛い事があっても、隠せるようになっただけ。誰かに泣きついていた姿が、アルコールを飲んでくだを巻く姿に変わっただけ。感情をそのまま表に出さなくなっただけ。ただそれだけ。


ここ最近、思っていた事がある。自分が憧れていた大人はどこにもいなかったと。自立した大人になりたかったのは、ただ家から出たかっただけ。それを理由にしていただけ。実際、一人暮らしは自由と引き換えに愛を失ったようなものだ。


憧れていた人にはまだまだなれないから、僕はまだ子供のままでいようと思う。大人の権利だけ持った、我儘し放題の子供のままでいい。だから、自分で稼いだお金も好きに使おうと思う。


誕生日の前日に自分への投資をするようになったのはいつからだろう。恋人がいなくなってからのような気がする。自分が欲しかったアクセサリー、話題のコスメ、ずっと欲しかった本、期間限定の香水、沢山沢山揃えてきた。普段より少し奮発して、長く使い続けたい物を自分のお金で買う。

世間から見れば「悲しい子だね」と言われるだろう。確かに、それもそう。買っているのは恋人に買ってもらうようなものばかりだから。

「恋人がいないから自分で買ってるって悲しくない?」

と母に言われた事がある。まあ他者から見ればそうだろう。でも、自分にとってはそうじゃない。


自分で稼いで、自分で貯めて、自分の為に、自分で買う。この事に意味があるのだ。それが安いものであっても、この事実が自分を突き動かしている。

自分への投資は一番の投資先だ。だって誰かに投資しても、返ってこない方が多いから。その点、自分への投資は必ず返ってくる。そして大事に使い続ける。人からもらったものではないから、使うのがもったいなくなる事も無い。趣味じゃないからなんて事も無い。

誰かに貰うのは嬉しい。とても嬉しい。それが大切な人で、自分の欲しいものを買ってくれた時とか。サプライズされた時とか。何だったらチロルチョコ一粒でも嬉しい。でも、この行為は嬉しいとは違う。



自分へのプレゼントを買う事で、この先も頑張って働こうと思える。これが買えるくらい稼げるようになったんだよって、自分に言い聞かせている事もある。だから年々少しずつ高くしている。まだ頑張れるよって、言えるように思えるように。大事に使おうって、思えるように。

もし、自分への投資を止めた歳には、私は多分結婚して家庭がカツカツか、それか廃人になっているかの二択だろう。それ程までに、この行為は大事である。


恥ずかしい、可哀想、いくらでも言うが良い。けれど、自分で買うアクセサリーは幸福感がある。自分で食べるお寿司も、ステーキも。人の手なんて借りず、手に入れるものの幸福感を知らないなんて。その方が可哀想だ。

むしろ自分でアクセサリーを買えない人の方がよっぽど可哀想だ。誰かに依存する事でしか生きて行けないのだから。


この先、どんなに環境が変わっても。私が私である限りこの投資は止めないだろう。憧れた大人は程遠いけれど、まだそうならなくてもいいと思っている。

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