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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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尊敬する人

一番近くにいた尊敬している人


変わらない関係と、変わっていく成長を受け入れている








どうもこんばんは。私事ではありますが、本日高校時代の先輩と会い、ご飯を食べて奢ってもらいました。慣れ親しんだ人のお金で食べるご飯は美味しいですね!大丈夫、一応お礼はしました。


現在乃木坂46が主演を務めている事で有名な「あさひなぐ」。私はそれに深く関係がありました。

高校時代、私はなぎなた部でした。しかし、なぎなたの総人口は少なく、県下でも数校しかありませんでした。

中等部からある学校ばかりの中、うちの学校は高校からある、まさに「あさひなぐ」のようでした。

そんな中、一つ上の先輩と出逢えた事は、この先ずっと誇れるくらい良かった事。


先輩の代は、先輩たった一人でした。コーチの厳しさに耐えられず、辞めるか幽霊部員になる人ばかり。そんな中、先輩だけ、たった一人残ったそうで。

さらに私の代も、同じくコーチの厳しさに耐えられず、私は一人ぼっちになりました。

たった二人で過ごした青春時代はとても濃厚で。

始めはぶつかる事しか出来なかった。言い合って、ムカついて反抗してサボったりして。色々あって腹を割って話すまで、少し時間が必要でした。

お互いに一人になって、お互いに互いしかいなくなって、私は初めて先輩と向き合いました。


まあ、この先輩よく出来た人間で。

抜けていていじられる。そんなキャラなのに、やる事はちゃんとやって話も上手、聞くのも上手、人との距離感の取り方も上手。そんな人だったからこそ、私はよく軽口を叩いてました。




二人しかいないから。二人しかいなかったから。砕けた敬語でも、先輩は何も怒らなかった。「ちゃんとした場ではちゃんとしてくれるから、普段はそれでも良いよ」。なんて言うような人。


何度助けられたか分からない。何度ぶつかって、何度言い合って、何度隣を歩いたかは分からない。

それほどまでに自分にとって、先輩は大切な存在だった。


卒業して連絡をしなくなって数年。たまたま連絡を取り合う事になり、冗談で言った「ご飯奢ってください」は実現してしまった。もう社会人の先輩の休みに合わせ、二人でディナー。

久々に会える。その嬉しさと共に、少しだけ不安もあった。

私の知っている先輩はそこにいるのだろうか。もしかしたら変わってしまっているのかもしれない。年月が経って、環境が変わって、違う先輩がいるかもしれない。


しかし、そんな不安を一蹴してくれるのもまた、先輩なのだ。


今月誕生日を迎えた先輩の為に、おごってもらうからそれのお礼と兼ねてチョコレートを買った。ちょっとお高い、いわゆるブランドチョコ。

待ち合わせ場所、遠くから歩いてくる人が見えなくて、私は目を凝らした。すると、先輩の第一声はこれだった。


「え、めっちゃ不機嫌そうな顔じゃん。遅れてごめんって」


そう笑いながら近づいてくる先輩に、私は思わず笑ってしまった。

いや、見えなかっただけですよ。別に不機嫌じゃないです。そう笑いながら、心はとても安堵していた。

最後に会った時よりも大人っぽくなっていた見かけ。けれど話す声も、その軽い口調も、すぐ笑う癖も、すぐ謝る癖も、私の知っている先輩のままだった。


二人久しぶりに隣を歩く。馬鹿な話をしながら。会ってすぐ渡したブランドチョコレート。先輩は相変わらずのオーバーリアクションで喜んでいた。しかし、嬉しかったのはこのすぐあと。


「もうすぐ誕生日でしょ?はい、プレゼント交換みたいになったわ」


なんて言いながら紙袋を渡されるから。先輩誕生日憶えてたんですねって憎まれ口を叩く。当たり前だろ、あんたの先輩よなんてどや顔が返って来る。私はまた、嬉しくなって笑った。


用意周到な先輩はお店を予約していた。さすがと言いながら店に入って、煌びやかでお洒落な料理を堪能する。ここ数年であった事、先輩がいなくなってストレスで死にそうになった事、上手く行かなかった事、先輩の偉大さを何度も噛み締めた事。


数年振りに会ったから。あの頃よりずっと大人になったから。世間から見ればまだ若いと言われるけれど。当時照れて言えなかった言葉を、素直に言えた。「先輩の事尊敬してたから、だからいじれたんですよ。尊敬してなかったらそんな事出来なかった」。なんて。先輩は嬉しそうに、私の呟く言葉全てに相槌を打っていた。


高校時代、私はよく先輩をいじっていた。尊敬してますなんて、口に出せなかった。先輩と後輩、その関係は変わらなかったけれど、友達の沿線上のようにもなっていたから。何より、当時の私に、そんな事を臆せず言える勇気はなかった。

先輩がいなくなって、後輩が沢山入って来て。自分が指導、怒らなくてはいけない立場になって。私は改めて先輩の大きさに気が付いたのだ。だって全然上手くできない。先輩ならどうしてた?先輩ならもっと上手く立ち回れていた、こんな風になってなかった。

コーチは愛はあるけれど厳しい。顧問の先生はあまり来ない。もう一人の顧問は基本的に後輩の味方。そんな中で誰にも愚痴すら言えなくて、でも先輩に頼る事すら出来なくて、心身ともにボロボロになった事を憶えている。


そんな事があったんですよって、今なら笑いながら言えた。でも先輩は「お前はそういう所あるからな。聞いてあげられなくてごめんな」と言った。


「もう充分ですよ。沢山、聞いてもらいました」


これは本心だったと思う。あれを乗り越えたからこそ今があって、あれを乗り越えたからこそ今、先輩と二人でご飯を食べている。

関係性は変わらない。私はいつまでも後輩で、先輩はいつまでも先輩だ。それでも、成長して分かった事がある。何も言えなかった愚痴を、本音を、尊敬を、口に出せるようになったのは変わった所。


私はいつだって思う。自分より目上の人に恵まれていると。中学校の一個上の先輩、二年間担任だった教師。高校の三年間担任だった教師、兄、先輩。

皆が皆、自分を否定する事はなかった。軽口を叩いても、むしろその軽口を笑いながら受け止める人達ばかりだった。きっと、皆分かっているのだと思う。先輩にも言われた。


「君の軽口が、本当に罵倒だったら、きっと今頃仲良くしてないよ」なんて。


「照れ隠しって言うのも分かっていたし、その軽口があったから仲良くなれたんだよ」なんて。


ああ、沢山の素敵な人に恵まれたと思う。前に母に言った事がある。自分より年上の人に恵まれると。すると母は言った。


「それは君が作り上げてきた人脈なんだよ。君の周りにはそういう人が集まるのかもしれないね。そういうオーラがあるのかもしれないけれど、それでも今までその関係が続いているって言うのは、君が色んな人と会って作り上げてきた関係なんだよ」


愛されていると思う。決して恋人はいなくとも。愛は意外な所から実感する。

沢山傷ついて沢山辛い思いをして、悲しくて泣いてしまいたくて消えてしまいたいとも思った。けれど、自分をちゃんと見ていてくれる人が存在する。離れても、会おうと言って会ってくれる人がいる。



尊敬している人がいる。それは歴史に名を残すような偉人ではないけれど、私という人間を本にした時に、必ず先輩は現れるだろう。現れて笑いながら、「ごめんごめん」と気持ちのこもっていない謝罪を笑いながら言うだろう。だから私も言うのだ。


「先輩、調子乗んないでください」

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