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9 血縁

 突然現れた女性は二匹の聖獣も特段気にすることなく、ホノカさんの前に近寄ってきた。エマの鼻腔にはふわりと甘い香水の香りが漂ってきた。容姿と相まって大輪の花がそこに咲いているかのようだった。


「全く、簡単なお使いなのにどこで油を売ってるのかしら。セオドールさん、もしレナートを見つけたら私が探していたって伝えてくれるかしら?」

 苛立ちを滲ませている声すらも艶やかだ。

「レナートなら直ぐにでも来ますよ。お使いを果たしに行ってますから。あ、噂をすれば来ましたよ」

 セオドール様も親しいらしく、女性に対し和やかな笑みを浮かべている。

「遅いわよ、レナート」

「済みません、忘れていましたので」

 濃緑のドレスの女性は腕を組み直立しながら軽くなじられたレナート様は、軽く肩を竦めながら手に持っていたグラスを渡していた。

「物忘れをするにはまだ早いわよ、しっかりしなさい。ところで、ホノカさん。こちらの若くて可愛い方はどちら様かしら?私にも紹介してもらえるかしら?」

 ワインが入ったグラスを受け取った女性はエマより背が高かった。見下ろされる形だが、エマを優しい眼差しで見つめてくれている。


「こちら、エマ・マクレーンさんとおっしゃって、新しい私のお友達です」

「初めまして。私はバシリー・マクレーン男爵の嫡女、エマ・マクレーンです。」

 ホノカさんの紹介の後、自分でも自己紹介をし、緊張しながら足が痛まない様慎重に礼を取った。

「エマさん、こちらアンナ・シルヴィオさん。ボードワン・シルヴィオ子爵婦人で、私のお義母さんです」

「初めまして。アンナ・シルヴィオです。ホノカさんと仲良くしてくれてありがとう」

 ええっ、お義母さん!?

「ホノカさんのお義母さんですか!?いえ、そんな。こちらこそ恐れ多くもホノカ様には友達とさせて頂き恐縮です」

「あ、またエマさんたらそんなこと言って!私から友達になりたいって言ったのにっ」

「あらあら。ホノカさんは随分エマさんの事が好きなのね?」

「はいっ。物凄く控えめで、自己評価が低すぎる所が気になりますが、とっても優しいのです。それに私やこの子達を見ても偏見な目で見ませんでしたから」

 そう言うとホノカさんは私の右腕に寄り添った。

「まあ。それは貴重ね。エマさん、これからもホノカさんと仲良くしていただけると私も嬉しいわ」

「母上、その言い方、まるで私と一緒です」

「あら、そうなの?レナートもエマさんに同じことを言ったの?」

「ええ、似たようなことを」


「ははうえ?」

 ははうえって、母上?

 エマはレナート様が発した一言が引っかかった。


「エマさん、どうしたの?」

 ホノカさんがまたもや可愛く首を傾げている。が、それすら全くエマの意識に上がらなかった。

「アンナ様が、レナート様のお母さま?」

 繰り返し呟くエマに、ホノカ達の視線が集中した。


 エマは狼狽えていた。

 ホノカさんのお義母さんであると紹介された。レナート様とホノカさんが義兄妹という事も分かっていた。だが、この美しく若さある女性がレナート様の母であることに何故か結びつかなかった。

「ホノカさんから、きちんとお義母様だとご紹介を受けたのに、私ってば、レナート様の夫人となられる方だとばかり思ってました・・・。だって、こんなにお若くて、綺麗な方だから、親子だなんて思えなくて。てっきりレナート様と同じくらいの年齢の---

 エマは最後まで言うことが出来なかった。

「もーぅ、エマさんたら、なんて素直で可愛いのかしら」

 きゅっとアンナ様に抱き寄せられ、ボリュームたっぷりで、ふわふわな谷間に顔を埋めさせられていたからだ。

「!?!?!?」

 アンナ様は胸元が大きく空いたドレスを着ている為に、肌が直接触れ合った。

 何!?何!?何ーっっっっっ!?

 突然の人の肌の感触と、先ほど感じた香水の匂いにエマには何がどうなっているのか理解できず、パニックを起こした。

 腕をバタバタし始めたところで、運悪く足元が滑った。息苦しさを感じ始めていた呼吸が楽になったと思ったところに、グラついた体を立て直すことなど出来る筈もなかった。

 ---!!倒れるっ!


「危ないっ!」

 今日何度助けられたのか、数えるのも怖い位の、レナート様の腕にまたもや助けられた。

「あ、有難うございます、レナート様。何度も助けて頂いて」

 エマは恥ずかしくて、申し訳なくて、腕の持ち主の顔を見ることが出来ない。

 頬を羞恥で染めながらも出来れば1人で体を立て直したがったが、アンナ様の胸ぱふの威力が強すぎだのか足の力が抜けてしまったらしく、レナート様に手を貸してもらいながら一応立ったもののその足元は怪しくふらついた。

「エマさん、大丈夫?私の手に捕まって」

 慌ててホノカさんが手を差し伸べて助けてくれた。支えが出来たことでなんとか壁に寄り添い立つことが出来た。もう一人で立てるから大丈夫だと手を離そうとしたが、ホノカさんは心配だから繋いだまま傍にいてくれた。

 小さくて温かな手の温もりが、心に染みわたってくるのを感じた。


「母上、危ないですから、止めてください。エマさんは足が余り丈夫ではないのです。いきなりそんなことをされると彼女が怪我をしてしまいます」

「ごめんなさい。エマさんをもう少しで怪我をさせてしまう所だったわ。これからは気を付けます。許してもらえるかしら?」

 息子から窘められた母は後悔を滲ませた顔つきで、私に謝ってくれた。

「許すも何も、私は怪我をしなかったのですから。アンナ様が謝まる必要などどこにもありません」

 こんな年下の小娘で、身分が低い私相手に頭を下げられそうになり、かなり慌てた。

「有難う。却って気を遣わせてしまったみたいでごめんなさい。今ので怪我はしなかったかしら?」


 エマは嘘を言っていないことを分かって貰う為に真っすぐ顔を上げ、視線を合わせた。怪我はしていない。倒れかかっただけだ。壁に寄りかかりながら立っているが、痛みは感じていない。

「はい、大丈夫です」

 にこりと笑みも加えた。

「良かったわ」

 安心してくれたらしくアンナ様ほっと力を抜いて微笑んでくれた。


「エマ、お前は何をしているんだ」


 穏やかな空気を一層する低い声が前方から放たれた。重そうな足取りと不機嫌を含ませた鋭い目つきで現れたのは、父、バシリー・マクレーンだった。

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