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7 失言

「それなら友達になるのに何も問題はないだろう?こう見えてホノカは同性の友達が本当に少ないんだ。私も義妹と友達になって欲しいと嬉しいな」

「有難うレナート兄さん、ナイスフォロー」

 ええーっ!?

 まさかの義妹の援護にレナート様から私へお願いをしてきた!嘘でしょう!?

 ずっと年上の男の人からこうやって頼まれたことなど一度もない。

「えっと、えっと」

 ・・・困った。嫌ではないのだから、エマは尚困った。


 エマは夫候補と会う為に塞ぎ込んで新年祝賀行事へ参加していたはずが、高爵位で有名な人達と知り合いになったばかりか、同性のホノカさんには友達になってと乞われるわ、予想外の出来事が多すぎてもういっぱいいっぱいだ。おろおろするしか出来なかった。


「ホノカ、今のは全然ナイスフォローじゃないです。友達が少ないと暴露されてるんですから、どちらかと言えば貶されてます」

 セオドール様は的確な突っ込みを入れると、妻を想い義兄を睨んだ。

「あれ?そう?でも、いいの。友達が少ないのは事実だし。一応レナート兄さんは応援してくれてるから」

 周りに人はいなくなっているので、漏洩されたくない事実は他人には聞こえていないだろうが、エマはさっきからおろおろはらはらし通しだ。

「という訳で、エマさんと友達になりたいです。駄目ですか?」

「私からもお願いします」

 今度は夫婦そろってのお願いだ。

「あ、う、・・・こ、こちらこそ、・・・お願いします」

 再度弱い仕草を見せられてエマは簡単に陥落した。元々本心では友達になりたかったというのも大きい。エマは深々と友達となったホノカさんにお辞儀をした。


「もー、友達になるのにそんお辞儀なんて必要ないんだから、頭を上げて?」

 願いを聞き入れられたホノカさんはにこーっと、太陽みたいな笑みを見せた。

「あ、そうですね」

 家族に対してもいつもしている事だったから、つい普段からの癖が出てしまった。


 私達四人は壁に背を預けるようにして、左からレナート様、私、ホノカさん、セオドール様と並んでいる。立っているだけならあまり足に負担はかからない。

 場違いなのは分かっていても他に行くことが出来ない。それに三人が三人ともそれぞれ人目を惹く容姿をしているので、肩身が狭い思いを抱きつつ、直接見てはいけない気にもさせられる。取り敢えず視線を合わないように微妙にずらしてホノカさんの方へ顔を向けた。同性で近い年齢ならばまだ緊張の度合いが少ない。大人の男性の顔をあまりじろじろ見るのは憚られる。というより気後れ感がとんでもない。


「でも、意外です。ホノカさんが、その友達が少ないという事が。私みたいに家に閉じこもってばかりなら分かりますが」

 エマは引きこもってばかりというより、閉じこもっていると言っていい。

 本邸脇の離れである小さな建物に家族が遊びに来ることはまずないし、エマが外へ出るといえば長年一緒に暮らしている老女と一緒に聖獣の為にマレサの実を採りに行く事と、裏手にある畑の世話をする以外はほぼ外出することがない。

「ああ、それはマギ課は男の人ばかりだし、連れてる聖獣はこんな見た目だし、外出するのに毎回護衛が付いてるし、こっちに落ちてからまだ二ヶ月も経ってないしまあ仕方ないかなって」

 ?

 落ちてから?

「ホノカ」

 レナート様から低く名前を呼ばれたホノカさんはさっと口に手を当てた。

「あーっっっと、今のは言い間違い。ここに来ての間違いでした」

 拙い、うっかり言ってしまったと顔には出ていたのと、わざとらしく言いなおししたことにも疑問を感じなかった訳ではないが、エマは何も気づかなかったことにした。

 もし落ちてきたというのが、本当だとしてどこから落ちてきたと言うのか。木の上からか、建物の上からか。どちらにせよ危ない場所から落ちて怪我がなかったのであれば、それでいいと思う。

 実際自分は木から落ちてこのように傷跡や後遺症が残ったのだから。自業自得で負った怪我とは言え、今でも悔やむことがある。

 それにしても、この国へ来て二ヶ月足らずでシルヴィオ家の養女となって、結婚をなさったという事は随分と急を要したのではないだろうか。それなら自由な時間も満足に取れず友達が作れなかった言う事も頷けた。おまけにマギ課に所属し、働いているというのだから毎日が忙しいだろう。


「ホノカさんはこの後は踊られないのですか?」

 エマは話題を変えようと試みた。

「ね、エマさん、もうちょっと砕けた感じで話してもいい?」

「構いませんけど」

「エマさんも気楽に話してね。うん、一応今日のノルマはもうこなしたからね。咽喉が渇いたから休憩がてら飲み物でも飲もうかなぁって思ってセオドールとこっちに来たんだぁ」

 もー、練習いっぱいしたけど、間違えないかすっごい緊張したんだからぁ。と続けられて、急に話し言葉が随分と砕けて、こういうのが友達というものなんだなぁと感慨深い気持ちを感じた。

「そうだったんですね」

 私には随分と楽しく余裕で踊っている様にしか見えていなかったけれど。一度も踊ったことがないからその辺りは分からない苦労だった。

「もー、エマさんも楽に話してって言ってるのに~」

「ごめんなさい。無理です。私はこれで普通ですので、これからもこのままだと思います」

 私の言葉にむうと膨れた彼女の顔が何とも可愛らしい。私には無いものだ。

「ホノカ、急に言葉を変えるのは大変な事ですよ。俺だって今でもこうでしょう?」

 どうやら結婚した今でも夫婦の間では夫の口調の丁寧が続いているらしい。

「そうだね。セオドールもそうだもんね。急には無理かぁ」

 急どころか今後も変わることはないと思うのですけど。エマの心の中だけで思った。

「エマさんはこの後誰かと踊るの?っと、・・・ごめんなさい、無神経でした」

 言った本人が傷ついたような顔をしてすかさずホノカさんは謝ってくれた。


「気にしないでください」

 私が足に痛みを感じている事を言った後で思い出したのだろう。首を振って気にしないでと言ったところに、ホノカさんからもう一度ごめんなさいと謝られた。

「私ここへは父と一緒に夫となる方との顔合わせの為に連れて来られたのです。まだお会いしたことがないのでちょっと緊張していたのです。でも、ホノカさんとこうやって友達としてもらえて本当に嬉しいです」

 お陰で緊張が解れている。

「エマさん、それ違うから。『友達にしてもらえた』んじゃなくて、私がなってってお願いしたの。エマさんはずっと自己評価低いけど、自分で思っているよりずっとずっと優しくて、素敵な人だからね。だからこそ私は友達になりたいと思ったの。そんなに自分を卑下しないで」

 ホノカさんは私に対して明らかに怒りを表しながら、きっぱりと言い切った。

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