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6 髪飾

「いえ、私なんてあちこちに傷があって醜いですから」

 可愛らしいなんて褒められたのは初めてで嬉しく思ったが、本気で喜んではいけないことは分かっている。

 傷持ちで、おさがりのドレス。足に障害まであるのだから、誰だってあまり親しくなりたいとは思わない筈だ。


「エマさん、自己評価低すぎです。本当に可愛いのに。それに私達と一緒にいるからって、エマさんが変な目で見られてるんじゃないですよ。私がいるからそう見られてるだけなんです。普通なら体に入れてしまう聖獣をこうして二匹も連れて歩いているから。ここにいるんですけどね」

 ホノカさんは藍色のスカート部分に縫い付けられている浅縹色のコサージュ横に目立たない様作られているポケットに手を遣り、中に納まっている聖獣の頭を撫でた。


 エマはつられるようにしてポケットを見た。中には彼女が言うように、先程踊っている時にも遠めにちらりと見えた聖獣が大人しく収まっていた。子猫と呼べるほどの大きさの聖獣と、20cm程の大きさの蛇の聖獣が確かに入っていた。

「しかも、片方の猫は魔獣特有の黒色が混じっている異質の聖獣だし。もう片方は魔力がかなり大きい蛇だし。もし、周りから変な目で見られてるとしたらそれは私が異質な聖獣と二匹も連れているから、ですよ。ほら、おいで」

 ホノカさんは二匹の聖獣を手に乗せ、自分の肩の上へと乗せた。

 聖獣の体の色は白、目の色は紫と決まっている。反対に魔獣と呼ばれるモノは体の色は黒で、目の色は赤とされている。

 確かに小さい猫の聖獣は両耳、前足、尻尾の部分が黒く、目の色は紫がかった赤色をしている。


 あるじに甘えてすり寄る聖獣の頭を指先でよしよしと撫でると、それまで微笑んでいた表情を一変させ、無表情になった。

 突然変化にエマは驚いた。

 ホノカさんはそのまま視線を聞き耳をたてている周りの人達へと順にゆっくりと一人一人の顔を覚えるかのように眺めていった。

 すると、こちらを見ていた人たちは焦ったように顔を背ける人や、扇で顔を隠しその場から逃げるようにしていく人が続いた。おかけでエマ達の傍には人がいなくなり広い空間が出来た。


 エマは唖然としてその様子を眺めた。

 確かにホノカさんが言うように、異質な聖獣を連れているからって、ここまで過剰反応しなくてもいいのではないかと思った。

 二匹の聖獣は主にとても懐いてして、見境なしに襲うような風には全く見えない。エマもこんなに傍にいても全く怖くなかった。

「ほら、ね?だからエマさんがそこまで必死になって私を周りから庇わなくてもいいんです。むしろ私せいでエマさんが巻き込まれているんです」

「そんなことはないと思いますけど」

 聖獣のこともあるかも知れない。けれど私の見た目で判断してみていた人も中にはいた筈だ。


「むう。エマさん以外に頑固」

「ええ?頑固、ですか?」

 今までの経験から基づいた答えだったんだけど。ホノカさんは納得してくれなかったらしい。

 でも、唇を尖らせて怒ったような口調で責められいても、本気で怒っているわけではないのはなんとなく分かった。

「確かにエマさんのお顔に傷は残ってるけど、自分のことをそんなに卑下することないと思います。エマさんはとっても可愛いですよ?どうしても傷の事が気になるのなら、こうすればいいと思います」

 ホノカさんはそう言って自分の耳横に飾っている白い花を一つ引き抜き、私の左側の髪へと飾った。

「ほら、こうすると丁度隠れてしまうから。ふふ、これでエマさんと私、お揃いですね」

 位置を丁寧に整えながら、いい仕事をしたとばかりに満足げにホノカさんは笑った。

「あ、有難うございます・・・」

 舞踏会だからと侍女のメレーヌ・ポズナーに髪を結い上げられたので、薄い化粧を施されたとはいえ、こめかみの傷は露になっていた。それを髪飾で目立つことの無いように隠してくれた。自分には思いつかない方法だった。

 エマは似た年頃の女の子とこういうやりとりも初めてで、心に温かいものと非常にくすぐったさを感じていた。お礼の言葉が、はにかんでしまい小さなものになってしまった。


 私の髪へと飾られた大振りの白い花は、今が開花時期のアングレカムだった。白色といっても薄緑色をしていて、星型の蘭の形を連想させるその花は夜になると非常に強い芳香を放つ花で、樹木や岩などにくっついて生育する花として知られている。

 白い大きな花びらは丁度エマのこめかみの傷跡を隠すの適した大きさだった。

 私といれば嫌な思いをすると伝えたのに、知り合ったばかりの私にどうしてこんなにも良くしてくれるのだろう。血が繋がっている父さえしかめっ面をするというのに。

 それなのにホノカさんは自分の髪に飾られていた花を一つくれたばかりか、お揃いになったといって喜んでいる。


「そうしてお揃いの花をつけて並んでいると、ホノカの黒髪と、エマさんの銀髪が対になって見えて仲の良い友達に見えますね」

 私達を傍で優し気に見守っていたくれていたセオドール様が、私とホノカさんに向けてそんなことを言ってくれた。夫からの言葉に妻であるホノカさんは喜んだが、私にはひたすら恐縮するしかない過度な言葉だった。

 しかも、レナートさんまで同意するかのように頷いている。

「ほんと!?嬉しいっ。ね、エマさん、見えるだけじゃなくて、私と友達になってくださいっ!」

「ええっ!?と、友達ですか!?」

 エマは慄いて本気で言ってるんですか、と言いそうになったが、彼女はとても冗談を言っているようではなかった。

「駄目?」

 しゅんとして、またもや首を傾げられた。

 うぐっ。そ、その仕草は・・・。

 どうもエマはその仕草に弱いらしかった。

 友達などいたことがないから、直ぐにも頷きたかったし、それ以上に本心から友達になりたいと思った。

「でも、やっぱり無理ですっ、私が友達なんて。それに身分が・・・」

 向こうは子爵家の娘で、こちらは男爵位。身分が違いがありすぎる。

「身分なんて気にしないで。エマさんはやっぱりこの子達が怖い?それとも私が嫌い?」

「ホノカさんを嫌いだなんて、そんなことあるわけないじゃないですか。私とこうして話してくれてることだけでもありがたいと思いますし、とても嬉しいです。それに聖獣も怖いとは思いません」

 友達云々はともかく、これが正直な所だった。

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