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52 謀略

本日二話更新です。次が最終話となります。

 きょろきょろと周りを見渡したものの、三人の姿は見えなかった。招待客も残り少ないから見落としているわけでもないと思う。

 どこ行ったんだろう?そう思いながらもう一度ぐるりと見渡していると、廊下へと繋がる入り口のところに見覚えのある丸い父バシリー・マクレーンの背中が見えた。

 あ。いた。

 父を見つけたと思ったら、廊下から義母と義妹の姿も現れた。父に近寄った義母のラモーナはなんだか満足げな顔をしていて、オルガは対照的にやたらと周りの視線を気にしているように見えた。何度も首を回し人がいないか確かめているようだ。その視線がはたとエマと合った。

 

 瞬間、オルガの顔色はざっと急激に青ざめた。訳が分からないエマはパチパチと瞬きを繰り返し、首を傾げオルガを見続けた。すると妻の様子がおかしいことに気づいたレナート様は、「どうした?やっぱり具合が悪いのか?」と尋ねてきた。

「いえ、そうじゃなくて、ですね。オルガがなんだか具合が悪いみたいで・・・」

 そうエマが説明している間も、ぶるぶると震えながら義母にしがみ付いているオルガを見ていた。娘が震えながら縋り付いてきたことで、エマが見ていることに義母は気づいた。すると、父を促し三人は慌てて帰り支度を始めた。


「ああ・・・あれか」

 震える様子のオルガを見て、何故かレナート様はピンとくるものがあったらしい。

「レナート様は何か知ってるんですか?」

「ん?知っているといえば知ってるけどエマにはまだ内緒。そのうち結果がでたら必ず教える。それまで待っててもらえないか?」

 何か企みがあってのことらしい。気にはなる。だけれど、後で教えてくれると言ってくれているのだから、我がままを言うのは止めておくことにした。レナート様を信用している。

「分かりました」

 ごねずに素直に頷いたエマを、レナート様はご褒美のつもりなのか頭を軽く撫でてくれた。・・・ちょっと嬉しかったのは秘密。 


***


 お披露目の夜会を終えて五日後のこと。


 何故か城へと連れられてやってきたのは見覚えのある一室で、以前新年祝賀行事の夜に通されたことのある応接室だった。

 シルヴィオ家でも食べたことのあるホノカさん特性のシフォンケーキてもてなされている。


「頂きます」

 エマの他に同席しているのはレナート様、アルベルト様、セオドール様、ホノカさん、そしてフルメヴィーラ王の合計六人だ。

 また王様にお会いする日が来るなんて思ってもいなかったエマは、凄すぎる顔ぶれに緊張しながら侍女さんにサーブされたケーキ皿を手に取った。エマが入籍した時の晩に食べた時と同じくアイスと生クリームも添えられている。まずは溶けやすいアイスから先に食べた。

 うーん、やっぱり美味しい~。

 緊張も忘れてしまい、頬が緩む美味しさについつい食が進んだ。

「相変わらずホノカ殿の菓子はどれを食べても美味いな」

 皆も表情を緩めて頷いている。

「有難うございます。気に入っていただけて嬉しいです」

 フルメヴィーラ王の満足そうな感想にホノカさんは嬉しそうだ。


「夜会に出されたウエディングケーキと同じものとは思えないな。アレンジが変わると全くの別物に思える」

 エマよりも早くにアイスを食べ終え、シフォンケーキもほぼ食べ終わろうかとしているレナート様から意外なことを聞かされた。

「そう、夜会の時はこれより大きく焼いたシフォンケーキを三段重ねて中の空洞に硬めの生クリームと果物をいっぱい詰めて、側面に生クリームで細かなデコレーションしたものをウエディングケーキとして出したの。基本はこれと一緒だよ」

 ホノカさんの説明に、ええっと驚いたエマはまだ食べ終えていない手元のシフォンケーキをじいっと見つめたが、とても一緒なものだとは思えなかった。

「だからこそ、向こうが罠にかかってくれたということだが」

 くすっと小さな笑い声を響かせたのは、フルメヴィーラ王だった。


「罠?」

 今この場に相応しいとは思えない言葉にエマは思わずつぶやいてしまった。ホノカさんも同じように驚いているようだ。目をぱちぱちとさせている。

 この美味しいシフォンケーキが一体誰に対して何の罠を仕掛けたのだろうか。

 考えても全然分からない。けど直接王様に聞くことも憚られ、顔に沢山の疑問を浮かべているエマに代わりにレナート様が教えてくれた。

「夜会の日にエマに約束したことに繋がるんだ。義妹のオルガが怯えていただろう?あれはマクレーン婦人を手伝って家からシフォンケーキのレシピを盗み出したから怯えていたんだ」

「盗みを働いた!?」

 エマは思わず大きな声を出してしまった。

 そんな、まさか犯罪をおかしていたなんて。しかも自分がその場近くにいながら。


 大丈夫か?と言葉ではなく態度で分かるようにレナート様は身内の犯罪を聞き震えるエマの肩をやんわりと抱き寄せてくれた。触れ合っている箇所からの体温の暖かさに少しずつエマの震えは止まっていった。


「叔母達に渡すレシピ用はわざと目立つところに用意して、まだ一般公開されていないシフォンケーキのレシピもさりげなく傍にしておいた。パンやプリンのレシピは複数枚用意しておいたから、シフォンケーキも誰にでも配布しているものと勘違いしたんだろうな。夜会ではウエディングケーキと言っていたし、レシピに書かれているのはシフォンケーキと違う名前だったのも勘違いした一因だろう。だから見張りとしてオルガを使い、マクレーン婦人は不完全なレシピを持ち去った。こちらの罠と知らずに」

 にやりとするレナート様に残り男性三名も驚く様子もない。知らなかったのはホノカさんとエマだけだったようだ。

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