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49 溺愛

 時々、起きる時間が遅く結局みんなと朝ご飯を食べることが出来なくても、何があった?体調が悪い?と聞かれることもないまま、昼頃になって温かな眼差しを受けることを数回。エマは何度回数を重ねても恥ずかしさに俯き加減になってしまうのはどうしようもないこととして諦めることにした。

 だって、そうでもしないと部屋から出ることも敵わなくなりそうだったから。

 出会ってからレナート様がとても優しいということは知っていたが、最近ではさらに磨きがかかってきたというか。・・・はい、確実にグレードアップしてます。


 レナート様が仕事に行っている間は、レース編みをしたり、庭に出て花を摘んだり、少しだけ料理をさせてもらったりしながら過ごすことが多い。テーブルマナーもアンナ様に指導は受けたが概ね問題は無いらしく、ほっとしている。

 仕事帰りにお土産として、レナート様からは花の差し入れや菓子を頂くようになったし、人目がない自室では膝上にのせられたりすることも多いし、追加で「あーん」と買ってきた菓子を口に運ばれることもしばしば。

 最初は恥ずかしさに抵抗もあったが、数日もすれば慣れ始めた自分もどうなのと思わないでもなかったが、それでもやっぱり嬉しさの方が勝ったから呼ばれると駄目とは言えない。

 小さな子供扱いをされているような気もしないでもないが、それだけでないことは自分が一番よく分かっている。足の事も考えたうえで外出の時はちゃんと大人の女性としてエスコートしてくれて、公共の場では問題は全くない。 それに夜は新婚というのも踏まえて、それなりに―――して、いるし///・・・。


「エマ。おいで」

 毎日じゃなく、体調を見ながらというか。体力の差があるのは当然だけど、経験の差もあるのだと思う。自分はキスだけでもいっぱいいっぱいと言うか。

 それでも一人分が入るのを想定して持ち上げられたシーツの隙間を断ることなんてエマには出来ない。はにかみながら隙間に入る。すぐに逞しい腕と温かな温もりにすっぽりと包まれる。そして、軽くキス。至福に思える瞬間だ。

 ただ、そつない流れにちょっとばかり嫉妬も感じたりして。気持ちに余裕が全くない自分とは違い、余裕があるレナート様に少しもやもや感じた気持ちは立派な嫉妬だと思う。

 レナート様の年齢や、階級、外見といったものを総合的に考えて、今まできっといろんな人とあったんだろうなと予想は出来る。多分、こんな子供っぽい体つきじゃなくて、もっとグラマーな人もいたんじゃないかなあとも思う。おそらく。


 今でも嫉妬する気持ちが全く無くなったわけじゃないけれど、レナート様の言葉を信じる気持ちがあるから大丈夫だと思えるくらいにはなっている。


 いつだったか、こんな風に同じ寝台に横になって、穏やかな時間を過ごしていた時の事。仕事では無理だけれど、家ではこんな私でも少しはくつろげるようレナート様のお役に立っているようで嬉しいです。エマはそういうようなことをぽろっと声に出してしまっていた。

 ホノカさんみたいに魔法の力が強いとか、何か自分にも特別に他人より優れたところがあれば良かったのにな、そう考えていたのだと思う。

「エマはまたそんなことを言う。お役に立てるとか、そういうことじゃない。エマとこうして抱き合っているのは、夫婦としての仕事だからじゃない。エマが自分の役に立つからという理由で結婚した訳でもない。好きだと思ったからだ。この先の長い人生、ずっと一緒に居たいと思えたのは他の誰でもない、エマだからだ」

 別に怒り口調で窘められたわけじゃない。レナート様は自分の気持ちを丁寧に伝えてくれているのは、エマにも分かった。

 ここで素直に有難うございますと言えればいいのは分かっていたけれど、やっぱり真正面から言われてしまうとどんな顔をして言えばいいのかと俯き加減になったのがいけなかったらしい。

 互いに抱き合うような形に横になっていたはずが、ころりと向きを変えられ上を向かされたエマにレナート様は覆いかぶさってきた。

「今まで言葉で十分伝えていたつもりだけれど、足りなかったらしい。なら、次は行動しかないな」

「はい?」

 なんだか、雲行きが怪しくなってきたような?

 レナート様は一見にこやかな笑みを浮かべていたが、何かが違うとエマは思った。どこが違うんだろう。そう考える暇は与えられなかった。


「今日は俺がどれだけエマに溺れているのか理解出来るまで付き合ってもらう」

「えっ?」

 どういうことですか?と言いかけようとしたが、言えなかった。唇を塞がれて。


 ―――この日初めてエマはいつもは手加減されていたということをようやく知り、同時にレナート様の本気というものを教えられたのだった。


***


 エマとホノカさんのお披露目のいよいよ本番当日となった。


「レナート様が迎えに来られたみたいですね」

「はい」

 エマは自室でイレーネと他の侍女にも手伝ってもらい着替えをしていた。その間、レナート様は別室へと行って貰っていた。準備が整ったことを聞いてエマを迎えに来てくれたのだろう、廊下からエマを呼ぶレナート様の声が微かに聞こえた。


 昼頃から着付けや化粧に追われたエマは、始まってもいないというのに疲れを感じた。

 いけない、いけない。シャキッとしなくちゃ。失敗は出来ないのだから。


 エマは気合を入れると腰かけていた椅子からゆっくりと立ち上がり、ホノカさんとデザインが少しだけ違うお揃いのドレスをもう一度鏡で見直した。胸元があまり開いていないデザインで、スカート部分は何枚もの薄い生地を重ね合わせされたシンプルなドレスだ。エマが若芽色で、ホノカさんは赤香色だ。ウエストに結ばれたリボンは差し色として二人とも生成り色を使用している。ドレスはシンプルだが、あえてジュエリーもシンプルにし、髪に生花をふんだんに使用した。

 一カ月ほど前に来たお古の白いドレスとは全然違う。生地もさらさらと艶があり、今のエマの体にぴったりと合っている。どこにも染みなんてない。

 以前より少し体重が増え、睡眠も十分にとっている。だから、顔の色も青くなんてないし、髪にも艶が出て違って見える。

 そして何より傷跡がない。

 鏡に映る自分の顔は笑みが浮かんでいるのが見えた。


 お披露目にはマクレーン家から父と母も来ると聞いたけれど、今の私なら大丈夫。下を向かないこと、卑屈にならないこと。大丈夫、絶対に出来る。

 エマはそう心の中で念じた。


「綺麗だよ、エマ。まるで早春の花の妖精のようだね。他の目に触れさせるのが実に腹立たしい」

 いつの間にかレナート様はエマのすぐ傍まで来ていた。目を細め眩しそうにしながら、レナート様にさらりと誉め言葉と独占欲を告げられると、左腕をさしだされた。

「レナート様こそ、素敵です・・・。あの、今日はずっと一緒に居てくださいね?」

 エマは右手をそっと添えた。

 いくら大丈夫だと自分を鼓舞していても、レナート様が傍にいてくれてこそだと思う。

 鈍色のフロックコート姿のレナート様にエマはドキドキしていた。丁寧に整えられた鈍色の髪がまた素敵だなって思う。長い髪を縛っているリボンはエマのドレスと同じ色だ。そんな小さなことも嬉しい。


「ああもう全くエマは。これからお披露目だっていうのにそんなこと言って。素なのは知ってるが、こっちの身も少しは考えてくれ。・・・今晩は覚悟しとくように」

「えっ!?」

 

 イレーネと侍女に微笑ましく見守られる中、未だにレナート様のスイッチ箇所が分からないエマだった。

 

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