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46 食過

 レナート様のご兄弟のカルヴィン様、ブノワ様夫婦は、二日間の短い滞在で帰られてから、シルヴィオ家のダイニングルームはまた少し静かな夕食風景へと戻っていた。


 今日の夕食はホノカさんの国で冬の定番だという「鍋料理」が振る舞われた。一つの鍋をみんなで突くという発想が凄い。すき焼きと呼ぶそのお鍋は、薄いお肉がとても柔らかく、キノコや野菜も沢山でとても美味しかった。勧められるまま、お代わりまでしてしまった・・・。(誰もが三回以上お代わりしていたけれど・・・)

 割り下と呼ぶ出汁というのも初めてで、豆腐というものもあった。それらを卵を生で食べるというのも驚いた。

 なんでもホノカさんから異世界から材料を取り寄せたのだと聞いた。時々、元の世界へと里帰りをしていると聞いて、エマは言葉が返せなかった。

 ホノカさんの魔法は凄いとは聞いていたけれど、予想を遥かに超えいた。今度一緒に連れて行ってあげるねと案外軽く言われ、一応頷いたのだけれど・・・。

 もしかして、冗談だったのかも知れない。


 ゆっくりとした夕食を終え、少々食べ過ぎのお腹を休めながらいつものようにリビングルームでアンナさんと二人でまったりとお茶を頂いていると、来月上旬にシルヴィオ家で夜会を催すことを伝えられた。


「元々ホノカさん達をお披露目することは決めていたのよ。だからその日に、エマさんも合わせてお披露目をしようと思って。親族は多少多いと思うけど、その他はなるべく少なくなるよう手配するわ。いいかしら?」

「・・・はい」

 ここでエマが否定することなんて出来るはずもない。子爵家に嫁いできたのだから、今後何かしら人前に出なければいけない場合は増えるはずだ。

 レナート様はマギ課室長という立場だから、社交が重要だというのも分かっている。ある程度の夜会やお茶会に参加することが望ましいと分かっている。ただ、今まであまり人前に出ることが無かったから、若干腰が引き気味に感じてしまうのは性格的だと思う。

 それとは別に傷のことがある。レナート様と一緒に居ることで、爵位も低くて、見た目にも問題がある妻のせいで今まで築いてきた評判を下げることになりはしないかと思ってしまう。

 エマは夜会にも参加をしたことは無い。成人したばかりということもあるし、先日の新年祝賀会がそもそも公式行事初参加だったのだから。

 ああ、どうしよう、想像しただけで緊張してきた。


「大丈夫よ、エマさん。そんなに固くならないで。レナートにすべて任せればいいわ。息子はそれくらいの甲斐性は持ってるわよ」

 身を固まらせたことに気づいてくれたアンナ様は、優しく助言をくれた。

 レナート様の甲斐性については何も心配はしていない。頼りがいのある旦那様だからと信用している。アンナ様の言葉にエマは頷いたが、緊張した理由はそれではなく、別のものだ。

「レナート様のことは信用してます。そうではなくて、夜会と言ったら・・・ダンスがあるんですよね?」

 思いがけず低い沈んだ声が出てしまった。


 夜会にダンスはつきものだ。それくらいはエマでも知っている。でも、エマは今まで一度も躍ったことが無い。練習すらしたこともない。それが一カ月ほどで踊れるようになるとは思えないし、そもそも自分の足ではステップに付いていけるとも思えない。

「そのことなんだけれど、エマさんの足の後遺症のことは隠さずに公にしようと考えているの。そうすればダンスに参加出来ない正当な理由になるのだから」

 ああ、アンナ様はちゃんと考えてくださっていたんだ。

 エマの肩から力が抜けた。

「でも、結局はエマさんには辛いことを押し付ける形になってしまうのかしら・・・。却ってじろじろ見られてしまうかもしれないわ」

 傷が目立つ上に足が悪いと、他人から可哀想にと哀れまれる可能性が十分にあると言いたいのだろう。

「それくらいは大丈夫です」

 慣れてますから。とは続けられなかったが。


 話が丁度一段落したところへ、リビングに入ってきたホノカさんから声を掛けられた。

「エマさーん。この後ちょっと時間もらえないかなぁ」

 にこにこーと明るい笑顔と一緒に。


「いいですよ」

 夕食が終わってしまえば後は特にすることもない。お風呂に入って、寝るだけだ。エマはホノカさんに向って微笑んだ。

「良かった。じゃあ私の部屋に来てくれる?」

「ホノカさんのお部屋に?」

 お邪魔してもいいのだろうか。ホノカさんのお部屋にはまだ行ったことはない。セオドール様に許可を貰わなくていいのかしら?と首を傾げたエマに、ホノカさんの横にいたセオドール様は同意していると頷いてくれた。


***


「入って、入って」

 ホノカさんに促され、エマはおずおずしながら室内へと入った。

「お邪魔させていただきます」

 ドアに手を掛けて、そろりと周りを見渡した。レナート様の私室と同じつくりのようだが、雰囲気は全然違う。壁紙は女性が好むような明るくて柔らかな植物と花が描かれていて、本棚はあるにはあるがそれほど大きなものではない。(レナート様の私室にある本棚は天井まである大きなもので、ぎっしりと隙間なく詰まっている)

 手前にソファセットがあり、奥の方には一段高く板を引いた箇所があり、四角い何かがあった。多分家具の一部だとは思うが、エマには知らないものだった。


「もう、そんなに恐縮しなくていいってば。もっと気楽にして。そのほうが私も魔法をかけやすいから」

 えっ!?

「魔法・・・ですか?」

 私に!?一体どんな魔法をかけるというのだろうか。まさか、今異世界に行くというのではないとは思うけれど。


 不安な顔をするエマに、ホノカさんは安心させるように明るく微笑んでくれた。


「エマさんの傷跡を消す魔法をね!」


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