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44 茫然

「ごめんなさい、以降今のことは絶対に喋りません」

 暫くして落ち着いたらしいホノカさんは、片手をあげて静かなダイニングルームにいた全員に謝罪と同時に宣言をした。

「ああ、そうしてくれ」

 レナート様は神妙な顔つきでホノカさんに答えていた。


「ごめんね、エマさん驚かしちゃったみたいで」

 ホノカさんはまだぼうっとしていたエマに気づいてくれると、バツが悪そうにして謝ってくれたが、彼女に何かされたわけじゃない。凄いことを知っているんだなぁと思っていただけだ。

「いえ、私は別に・・・」

 謝ってもらうようなことは無いと続けようとして言葉尻を濁した。


「・・・ねえ、レナート兄さん。エマさんに全部話しても構わないかな?」

 何かを決意したようにホノカさんは神妙な顔つきでレナート様に告げた。

「今か?」

「うん、今。お義父さん、お義母さん、駄目でしょうか?」

「・・・まあ、いいだろう。エマさんもシルヴィオ家の一人となったのだし。アンナもいいな?」

「はい」

 意味が分からない会話が続いたが、ボードワン様とアンナ様からも何かの許可が出た。内容について分かっていないのはエマだけみたいで、会話に参加していないセオドール様も中身については理解している風だ。


「少し長い話になるけれど、聞いてもらえる?」

「はい」

 ホノカさんに前置きをされ、エマは諾の返事をした。片付けもあることだからと場所をダイニングルームから、同じく一階にある応接室へと場所を変えることになった。移動したのはエマ、ホノカさん、レナート様、セオドール様の四人だった。


 落ち着きのある、広い部屋に案内された。まだ温まっていない部屋に、体を冷やさないようにと侍女のバディアさんが暖かい飲み物を持ってきてくれた。四人に配り終えるとバディアさんは静かに退出していった。

 テーブルに置かれたカップの中の液体はエマが知っている紅茶色とは違い、薄い黄色をしていた。

「これはハーブティーと言って、ここで私が育てている植物を使った飲み物なの。今日はカモミールとレモングラスを使ったんだけど、消化促進を助けてくれるの」

 向かいの席からホノカさんが教えてくれた。爽やかな不思議な香りがするハーブティーを飲みながら、エマは静かに聞き手役となった。

 

「どこから話せばいいかな」

 悩みながら始まったホノカさんの話は、どれもこれも驚くような話ばかりだった。


 ホノカさんは、この国どころか、違う世界から来たこと。

 この世界に来る前は、ハーブティーを淹れたりする仕事に就いていたこと。

 生まれた時から掌にあったクローバーの痣には魔法がかけられていて、それが元でこの世界へと来たこと。

 何故か空に魔法陣が出てしまい、地上から数メートル上から落ちてこの世界へ来たこと。

 魔法陣の丁度真下にいたセオドール様に受け止められて助かったこと。

 助けてくれたセオドール様の手に同じ痣があったこと。

 魔法がない世界から来たこと。


 この出来事が大体二か月ほど前の事らしい。

 エマは、今自分がいるこの世界の他にも世界があるなんて想像もしていなかった。随分いろんなことを知っている凄い人だとは感じてはいたが、ホノカさんがまさか違う世界から来た人なんて、誰が想像できるだろう。


「ここまでは、いい?」

 ホノカさんの問いに、エマはやや遅れて頷いた。驚きの連続でそれ以外に出来なかったともいう。


 続いてホノカさんが使える魔法が五種類もあることや、ホノカさんとセオドールさんの二人はこの世界での大昔、前世で恋人同士だったが結婚の約束をしたまま死別したことなどを聞いた。


 途中でレナート様が説明役に変わった。

 この世界へきて、前世での約束を果たし結婚をした二人の手からは痣が消え、シルヴィオ家の家族として迎えられたこと。

 結婚式の帰り道で、ホノカさんがどこかの貴族の一員に襲われそうになって、反対にその一味の聖獣を自分のものにしたことなども聞いた。

 その頃、エマが住んでいた地域ではなかったらしいが、辺境辺りでマレサの実が極端に小さかったり、生らないという現象が続いていたらしい。専門家の話では最初病気だろうということになった。

 あっという間に病気は範囲を広げ始め、魔獣が沢山棲みついている森にまで進行してしまったらしい。当然マレサの実が少なくなって、森の外へと実を探しに魔獣が村近くまでうろつくようになってきていたらしい。そうなれば人かせ襲われるようになってしまう。

 そこでシルヴィオ子爵邸があるシシリアーム辺境まで、騎士隊の中から闇魔法が使えるセオドール様を含めた数人の討伐隊が急遽編成され、夜間警戒任務に当たったらしい。


 だが、たまたま討伐隊と同行し、シルヴィオ家に滞在していたホノカさんが魔法を使えるようになって、新しい高度な魔法を展開して病気のマレサの木を回復させただけでなく、不可能と言われていたマレサの実を魔法によって成長させることにも成功したと聞かされた。

 その時の自分の聖獣とした二匹の力で育てたマレサの木に生った実は、通常なら銀色をしている筈が金色と変化していて、魔力も大幅に強くなる代物となったらしい。

 最初はマレサの木が自然に発生した病気だと思われていたが、実はホノカを襲った犯人達が作った魔法によって病気にされられていたことを聞いた。


 つくづく想像の範囲を超える話に、エマは唖然としたままだった。テーブルに置かれたハーブティーは半分以上残ったままとうに冷たくなっていた。結局最後まで、エマはただひたすら聞き手役に徹していた。


「ホノカは世間体には異世界から来たこと知られるわけにはいかないから、遠い国から来た親類ということになっている。聖獣の名前さえわかれば、どの聖獣も寄って来ることも秘匿としている。このことを知っているのは、兄達の子供を除くシルヴィオ一家全員、セオドールの母上のシェリー殿、侍女のバディア、クロード宰相とアルベルト。そして、フルメヴィーラ陛下と王妃だ。エマに教えた今の話の全ては他言無用。出来るね?」


 まだ頭が混乱していたがエマはぎこちなく頷いた。

「出来ます。必ず守ります」


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