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40 補充

 ―――何故私はこんな格好で座っているんでしょうか。


 行きと同じ人数だが、帰りは顔ぶれが一人代わったシルヴィオ家の馬車の中。人数的にも広さに十分な余裕があり、振動もあまりなく、座り心地も抜群の座席なのに、どうしてなのかエマはレナート様の足の間に座らせられている。

 「お願いがあるんだが」と一応の前置きはされたのだが、内容を聞かされる前にもうこの態勢を取らされた。エマの小さな悲鳴が上がったが、そのままレナート様の前に座らされることが決定されていた。

 ホノカさんから品行が悪いと注意してほしいのに、一向にそんな様子はない。それどころか前の座席にいるホノカさんとイレーネからは生暖かい視線を送られている。

 エマは恥ずかしくて居たたまれない。

 結婚することが決定している男女の間ではこれくらいなら、身内がいても馬車の中では普通(あたりまえ)なのだろうか?

 どう振る舞っていいのか分からないから、ただただ体を硬くして恥ずかしさと緊張に耐えていた。


 エマが羞恥に戸惑っている間に、簡単な自己紹介がされた。

 レナート様から始まり、ホノカさんが続いた。流石にレナート様がマギ課に勤めている魔法使いということはイレーネも知っていた。ただ、一緒にいる小柄でエマとさほど年が違わないホノカさんがレナート様を上回る魔法使いと聞くと、信じられないと茫然としていた。

 ホノカさんは横に置いていたバッグの中に入っていた聖獣二匹を膝上に出すと、見た目が魔獣っぽく見える猫の聖獣にもイレーネは驚いていた。


 シルヴィオ家の家族構成、護衛として外に就いてくれているセオドール様の説明が終わると、イレーネの自己紹介となった。

 亡くなった母に就いてからずっと独身を貫いていること、ずっとエマと二人で粗末な別邸で暮らしていたこと、それでも二人でいれば本邸で暮らすよりは幸せだったこと、今日エマに会うことが無ければ、母の形見等纏めたものをいつかエマの所へ届けようと考えていたことを話した。


 エマもレナート様の足の間に座らされていても、背中越しに直接響くレナート様の低い声にも、自己紹介ならなんとか聞いていられた。

 だが、昨夜の新年祝賀会での記念すべき出会いから、レナート様からの求婚話をホノカさんに楽し気に説明されるともう駄目だった。

 自分で思い出すだけでもあっという間に体温が上がるのに、人に説明されるとより格段に体温上昇に繋がることを初めて知った。

「旦那様からエマ様のお相手がレイエス男爵の後妻だと聞いたときは、どうなることかと思い悩みましたけど、こんなよいご縁に恵まれて・・・」

 話を聞いたイレーネは、涙を流す勢いで感動していた。


 マクレーン家を出発して30分近く経っている筈だ。

 怒気をまき散らしていたレナート様が、馬車乗り込んで直ぐにこの態勢を取らされているから、ただ座っているだけだけど、緊張しながらの姿勢に疲れてきた。

「あの、レナート様、そろそろ放してもらえませんか?」

 後ろを振り返り直接レナート様と顔を会わせる勇気が持てないエマは、前を向いたまま俯き加減で控えめに願い出てみた。

「まだ補充途中。だから、駄目」

 補充って何をでしょうか。

 よく分からない理由を告げられると、後ろからレナート様の両腕が何故かエマのお腹にまわってきて、手を組まれてしまい、更にレナート様との密着度が上がった。背中の生地越しに伝わる温かな体温と、ふわりと漂う香水の香りにくらくらした。


「あああああ、あのっ、あのっ、れ、れ、レナート様!?」

 どうしてこんなことをっ!?と叫びたいのに、どもって言葉にならない。せめて体の間に隙間を開けようとエマは上半身を前に倒そうとしたのだが、一瞬早く右肩にずしりとした重みが加えられて敵わなかった。

 何?と思い横に首を捻ると、レナート様の端正な顔が自分の肩に乗せられていた。しかも、捻ったことによってエマの右頬と、レナート様の左頬が触れ合ってしまった。

 ―――っっっ!!

 余りにも近すぎる距離に悲鳴を上げかかったのだが、偶然の肌の触れ合いに思わず身を固まらせると声も固まってしまった。

 結果狭い空間で叫ばなくてすんだ。

「いい匂いがする」

 重みを感じている肩に鼻をつけたレナート様は、どうもエマの匂いを嗅いでいるらしい。

 いやーっっっっ、嘘-っっっっ!!

 予想範囲以外の出来事に、エマの心の中でいくつもの大絶叫が繰り広げられた。


「あー、すっげー幸せ・・・」

 耳元でうっとりと囁かれるようにして呟いたレナート様の言葉に、エマは声が出なかった。そうですか良かったですねと言い返すなんて芸当は全く出来きそうにない。

 自分の体臭を嗅がれる恥ずかしさに止めてくださいと言いたいのに、幸せを感じられては拒絶してもいいものなのかが分からない。

 触れ合い自体は嫌な訳じゃないから、困った。


 結局、シルヴィオ邸へと帰るまで、途中広い草原に休憩を取り、イレーネに渡す予定だったお菓子と、サンドイッチなるものをお昼ごはんに頂いた時間以外は、ずっとこんな調子でレナート様にくっつかれたまま(束縛されたまま?)馬車に揺られていたエマだった。


よ、ようやく甘い方向に話の流れを持って行ける兆しが出てきました・・・!

長かったっ!

これでレナートのデレデレ具合がいっぱい書けますっ(^-^)

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