3 驚愕
舞踏会はまだ始まったばかり。曲に合わせフロアで何組もの男女が踊りを踊る人もいれば、参加していない人の多くは社交に勤しむ人が多くみられる。
エマは早く帰りたい気持ちを抱きながら、きっと二度とこんな舞踏会などという華々しい場に来られないだろうと、持て余している時間を周りの観察に費やしていた。
「あら、あそこに見えるお方は、閃光の貴公子と呼ばれておられる近衛騎士団第一部隊に所属のセオドール様ではなくて?」
「そのようですわね。一緒に踊っておられる方はどなたかしら?随分と小柄な方ですのね。お見かけしたことが無い方ですわ」
「その方、名をホノカ様とおっしゃって、なんでも、レナート様より魔法がお強いのだとか。それを見込まれてシルヴィオ家の養女になったと聞きましたが、ついこの間セオドール様とご結婚された方とお聞きしましたよ」
「まあ、ご結婚されたのですか!?セオドール様と!?しかも、あのこの国一番の魔法の使い手と言われるレナート様よりもお強いのですか?あんなに若くて小さい女性が!?」
「信じられませんわ」
継母と同じ年代の女性達数人が、噂話を始めた。本人たちは声を潜めていると思っているのだろうが、案外丸聞こえだ。
話の中にはエマも知っている名前が出てきた。
レナート・シルヴィオ様。確か30代半ば程の年齢にも関わらず若しくてマギ課室長を務めていると聞いている。彼のお陰で、魔法生活用品が幾つも開発・実用化され、現在多くのものが使われている。世間知らずの私でさえ、これぐらいのことは知っている。
マギ課とは城に属する部署名で、魔法の改善、効率化、新しい魔法の開発を主な仕事としている所で魔法に関する事を取りまとめている部署のこと。その中でも室長は一番トップの役職になる。
魔法の属性は全部で7種類あり、火・空・風・水・地・光・闇がある。誰でも一つの属性を持っているが、沢山の属性を持っている人もいる。
レナート室長は、3つもの属性を持っていてこの国では最多と言われていたはず。
エマが驚きでつい見てしまった噂の人物は、自分と同じくらいの年齢で、黒い髪と黒い瞳が印象的な可愛い雰囲気を持つ人だった。
あの人がレナート様よりもお強い?
セオドール様と呼ばれている美丈夫の方の事はエマは今初めて知ったが、その騎士と笑顔で踊っている女性は聞こえて来た言葉の確かに見た目は背も小さくて、とてもレナート様より強い風には全然見えなかった。
「何でも5つの属性を持っておられて、すべての魔法が使えるそうですわ」
「全部を!?」
エマは聞こえて来た数字が信じられなかった。
属性を5つ!?この国どころか、世界でも例がない程多いのではないのか?
2つ持っている人の数も、あまり多くないというのに、更にすべての魔法まで使えるというのは卓越しすぎだろうと、聞かされたご婦人方も驚きで声が出ない様子だ。
この世界では、誰もが一つは何かの属性を持って生まれてくる。どんな属性を持っているか調べるのはとても簡単で、魔法陣が描かれた検査専用の紙に手のひらを当てれば判明する。
「しかも、聖獣は2匹持っていらっしゃるそうよ。ほら、スカートのポケットから少しだけ見えるでしょう?」
「!?」
聖獣を2匹!?そんなことありえるの!?
聖獣とは、誰でも人は10才位になると城内の教会へ行き、神木から自分だけの聖獣が天から与えられる。
聖獣は必ず体は白色で、目の色は紫色をしていて、姿は犬、猫、鳥といったものが多いが、ハムスター、リスといった小動物も割と多い。珍しい中には昆虫や爬虫類もあるという。人それぞれかなり違う。
食べ物は1種類だけと決まっていて、マレサという木の実だけを食べ、その身に魔力を蓄える。
魔力は幾つかの種類に分類され、生活に必要な明りを灯す事や、点火させるといった事に使うことが一般的。
まだ小さく聖獣が居ない人や、事故や病気で聖獣を持っていない人は他の聖獣から魔力を貰ったり、魔石と呼ばれる魔力を閉じ込めた商品を購入して使う事も一応出来る。
だが、どんな聖獣からでも魔力を簡単に貰えるわけではない。家族間やかなり親しい友人になるとようやくといった程度だ。だから、仲の悪い家族、ただの友人、赤の他人からは全く貰えないということ。
また聖獣は主の体の中に入ることが出来る為、大抵体の中に入っていることが多いのも特徴。
そして、魔法と呼ばれるのは、聖獣から貰った魔力を元に自分の中の魔力を使い変化させ使用させる事を差す。
特性を持つのは全員だとしても、魔法を使えることが出来るのは2割程度の人しかいない。
それだけ魔法使いは希少だということ。
世の中の常識は殆どの人が一つの特性を持ち、魔法を使える人が少なく、勿論聖獣は1匹、もしくは持っていないというもの。
だからこそ、二匹もの聖獣をいることも信じられなければ、5つの特性を持ち、すべての魔法を使えるというホノカさんという女の子はとても異質と言えるだろう。
ご婦人方の目には、畏怖や恐怖と言った感情が浮かんでいた。




