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 扉が開けられる前に、ホノカさんの一声で聖獣はそれぞれ主の元へと帰っている。グロリオサもエマの中へとするりと難なく戻ってきた。

 ホノカさんにマレサの実を貰ったグロリオサは、頭を撫でられ、もふもふ~と喜ぶ彼女に抱き着かれても嫌がるどころか喜んでいた。他人に聖獣が懐くという異常事態を、実際自分の目で見ているというのに信じられないような出来事だった。


 さっきまで聖獣と戯れていたほのぼのとした空気は、父が連れてこられた時点で一気に緊張を孕んだものへと変化した。特にクロード宰相は気難しい顔を見せた。王様は見た目に変化は無かった。

 父、バシリー・マクレーンが姿を見せ現れると同時に、再びエマの手は暖かなものに包まれた。しかも何故か両手を。右手はレナート様に、左手はホノカさんにそれぞれ包まれた。

 父と親子関係が上手くいっていないことを知っているから心配されたらしい。

 エマは二人に顔を合わせて微笑むことで、大丈夫ですと代わりに伝えた。落ち着いていることを分かったくれたらしく、包まれていた二つの手はゆっくりと離れた。


「バシリー・マクレーン殿、まずはお掛けください」

 宰相は立ち上がると、青ざめている父を誘導し空いている椅子へと誘導した。

「は、はい・・・」

 危なっかしい足取りで父は座ったが、周りにいる人たちを一通り見渡すと、ある一点でただでさえ青白い顔が白くなった。きっと王様がいることが分かったからだろう。


「お初にお目にかかります、エグモント・クロードです。宰相を務めさせていただいている。そして、こちらが我が国のセラフィード・クレイヴ・フルメヴィーラ陛下。向こう側左から順にマギ課室長レナート・シルヴィオ殿。ホノカ・シルヴィオさん。こちらが私の息子でアルベルト・クロード。これから話すことは、陛下もご存じの上でということを理解しておいて欲しい。宜しいか?」

「は、はい」

 父は目線を合わせることが出来ないのか、ややうつむき加減に下を向いたまま、弱弱しい声で返事をした。しかも、体が少し震えているようにも見えた。そうそうたる顔ぶれにこれから何を言われるのかと戦々恐々としているのだろう。

 多分時間的に、騎士達は父が娼館へたどり着く前に見つけ連行してきたのだろうと思う。

 エマは意気揚々と外へと出て行った父の後姿を思い出した。連行した相手が王様や宰相では流石に文句も言えないらしい。ひたすら縮こまっている。

 こんな父の姿をエマは初めて見た。


「連れてきた騎士から凡そは聞き及んだということだが、念のため確認を取らせてもらう。マクレーン殿の嗣子であるエマさんと、ルチーノ・レイエス男爵との間に、婚約を結んだということだが事実だろうか?」

「はい」

「では、その婚約は事業支援協力という名目であるというのも事実か?」

「はい」

 真実だからか嘘をつくこともなく、父は淡々と答えた。


「ここまでなら特に問題はない。新年祝賀行事と舞踏会だ。独身の男女がいる貴族間ではよくある話だ。が、問題は相手のレイエス男爵が宿泊部屋に、まだ入籍を済ませていない相手を無理やり連れ込んで乱暴を働こうとしたことだ。聞けばマクレーン男爵、そなたが今日初めて会わせたばかりの娘を帰さなくてもいいと、レイエス男爵に伝えたと聞いたのだが間違いはないか?」

「・・・・・・は、い」

 事実を認めるのが辛いのか、逡巡した父は額に汗を浮かべながら時間をかけ返事をした。


「今回その現場には私も含め、ここにいる全員が駆け付けた。だからレイエス男爵の罪は明らかと言える。そこで犯罪未遂として女性側が訴えを起こせば、今回の婚約は解消となるだろう。しかし、双方共に家名に傷がつくことは必須。ここまでは宜しいか?」

 父はクロード宰相に真っ白な顔をしたまま頷いた。

「少し話は横道にそれるが、そこにいるレナート・シルヴィオ殿が、エマさんに懸想したと言う」

 父は最後の言葉にのそりと顔を上げると、訝し気な表情でレナート様を見た。


 そんな父を受けレナート様は目を逸らすことなく、まっすぐ見据えたまま言ってくれた。

「おかしいですか?私がエマさんに懸想したということが」

「いや、別に、そこまでは・・・」

 本心ではきっともっと酷いことを考えていたのだろう、父は動揺に目を泳がせ、真実を悟られないようにしているつもりらしい。だが、誰もが分かるほど明白だった。


「確かにエマさんとは親子と言われても仕方がない程に年が離れていますけれど、本気です。私はエマさんの優しくて、素直な所に惹かれました。貴方がいない間、レイエス男爵に襲われそうになった所を助ける事が出来て本当に良かったと思っています。反省をしたレイエス男爵は婚約を解消すると申し出てくれました。それを聞いた私はエマさんに求婚し、彼女からは承諾を貰いました。その場に一緒に居た母も、義妹も了承してくれました。父も私が選んだ女性と結婚することに反対はしないでしょう。後承諾を頂くのはマクレーン男爵、貴方だけです」

 一度言葉を切り、毅然とした態度で父に申し込んでくれた。


「私、レナート・シルヴィオはエマ・マクレーンさんに結婚を申し込みます。―ー―許可を頂けますか?」


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