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28 信用

 エマは白いフクロウが嘴で食んでいるのを呆然として見ていると、そこへウサギとハリネズミまでもが混ざってきた。

「!?」

 勝手に出てきた!?

「ガーベラと、プリムラも欲しいの?」

 ホノカさんの嬉しそうな声が隣から聞こえると、それぞれ聖獣はマレサの実を貰って食べている。どちらがガーベラでプリムラなのか。

 ううん、そんなことよりも名前も呼ばれていないのに、主の体から勝手に出てきたよね?一体どうなってるの?

 スカートの上に集まった総勢5匹もの聖獣は喧嘩をすることなく、仲良くマレサの実を食べている。食べ終わった聖獣はホノカさんに頭を撫でられご満悦にしているものまであった。

 エマはきょときょとと周りを見渡したけれど、誰かが驚いていると思ったけれど、驚いているのは自分一人だけだった。


 詳しいことを誰も教えてくれないのかと思ったら、レナート様が苦笑しながら教えてくれた。

「エマさん、このことは必ず他言無用をお願いしたいんだけど。ホノカは聖獣すべてにどうやら好かれてるみたいなんだよ」

「ええっ!?」

 レナートさんからホノカさんに聖獣が集まってきた理由を教えてもらったが、そんなことあり得るの!?

「信じられないかもしれないけど、ほんと。ああやって他人の聖獣が自然と出てきてはホノカのところへやってくることがあるんだよ。ここにいる聖獣とはホノカはかなり顔を合わせる回数もあって、慣れているということもあるんだろうけど。ああやって、遊ぶことが殆どだけど、ホノカが頼めば魔力も貰える」

 徐々に真面目な雰囲気に変わっていったレナート様を前に、いつの間にかエマも同じように向き合った。

「名前を知っていれば、他人のどんな聖獣でも呼び出せることが出来る。しかも、その魔力も使える。ホノカが使える魔法の数が多いことは勿論、それ以上にこの力のことは大勢に知られたくないんだ。黙っていてくれるね?」

 エマはどうにか頷いた。


 他人の聖獣を呼び出せるその可能性。それは相手に魔法を使わせないことに繋がる。沢山の聖獣を同時に呼び寄せているのだから、確かにこんなことが世間に知られれば大変な混乱が生じることはエマにも想像ができた。


「見れば分かってもらえると思うが、ホノカは聖獣と遊ぶことが目的なだけで、その力を利用しようなんてこれつぼっちも考えてない。だが、こうも簡単に聖獣を使えることが出来るということは、ホノカの使える魔法の力のことも考慮すれば国家の転覆すら可能ということ。加えて生まれ育った環境のせいなのか、人を信用しやすい。それが悪いというわけではないんだが、反逆を企む輩からすれば喉から手が出るほどに欲しいと願う逸材だ。そのことも念頭に入れておいて欲しい」

「はい、口外しません」

 予想以上のスケールの大きな話に、エマは背筋が冷えた気がした。


「そのことは、私からもお願いするよ」

 若干青ざめながら返事をしたエマに、そう声をかけてきたのは、フルメヴィーラ王だった。声色だけを聞けばとても和やかなものだったが、目を見れば違うことは一目で分かった。

「はい、自分の名に懸けて約束は守ります」

 言いながら震えそうになる手を、スカートの上で握ることで耐えた。

「宜しく頼む」

 満足がいく回答を貰えた王様は、エマににっこりとほほ笑んでくれた。

 そんな生真面目なエマを労わってか、レナート様が固く握っていた私の手の上から暖かな手を載せてくれた。自分の握った手をすっぽりと覆うほどの大きな手のひらから伝わる穏やかな熱に、強張っていた手はゆるゆると解けていった。

 エマが落ち着いたことが分かると、大きな手は離されていった。エマはまだ離さないで欲しいと反対に手を伸ばしそうになる気持ちを抑えた。


「まーたそんなこと言ってるし。陛下、私のこと守るためっていうのは分かりますけど、私の友達にまで威嚇するようなことしないでください。私だってそれなりに考えてますからね。他の聖獣と遊ぶのは、大丈夫な人の前でしかしませんから。聖獣だってそのことが分かってる人の前にしか出てこないですから」

 口を尖らせたまま、ウサギの背を撫でている。エマの聖獣のウサギよりかなり小さい。1/8位か。

「分かってる。念のためだ。エマさん、申し訳ないな、脅すようなことを言って」

「い、いえ、ホノカさんの力のことを考えれば、当然だと思います」

 エマは言葉だけとはいえ王様から謝られてしまい、恐縮に身を縮めた。 


 でも聖獣が勝手に現れたと言うことは、ホノカさんは私のことを秘密を教えてもいい程に信用してくれているって事。


「ということで、エマさんの聖獣のウサギさんにマレサの実を上げたいんだけど、名前呼んでもいい?」

「はい」


 名前を呼んでもいいと許可を貰ったホノカさんは、嬉しそうにグロリオサと名前を呼んだ。


***


 暫く聖獣と戯れるホノカさんを近い距離で眺めていると、ドアのノック音が響いた。

「遅くなりました。マクレーン男爵をお連れしました」

「ご苦労だったな」

 クロード宰相から入室の許可をもらい、扉から入ってきた騎士ヨハンネスさんに連れられてきたのは、青白い顔をした父だった。エマの存在を見たはずだが特に驚く様子もなく、後ろで手をつかまれているのか、やや歩きにくそうにしている。

 まだホノカさんの力のことで驚いたままのエマは、父と顔を合わせたこと自体にはもう恐怖とはならなかった。全部ホノカさんとレナート様のお陰だ。


「いえ。クロード宰相、道中、男爵には私から大まかな説明はしておきました」

「ああ、有難う、ヨハンネス殿。そのまま待機をお願いできるか?」

「御意」

 宰相からの指示を受けた騎士は父から手を放し、一歩下がって待機姿勢をとった。

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