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24 一癖

 応接室へはエマは聖獣のグロリオサを体の中へと戻し、歩いて移動するつもりだったのだけれど、何故かレナート様の腕に乗せられたまま連れて来られた。レナート様には降ろして欲しいと一応お願いはしたのだが、笑って聞き入れてもらえなかった。

 舞踏会場前を通らなかったから、この格好を見た人は少ない。廊下に時々立っている警備の騎士さんだけだったのが、まだ救いかも。大変驚きの顔をさせてしまったけど。

 確かにエマは歩行がぎこちなくスピードは少し遅いが、歩けない訳ではない。距離だってそこそこ平気だ。


 これってどうなの。

 レナート様とくっついていられるこの体勢には、嬉しさ半分、申し訳なさが半分だ。


「私が歩くのが遅いからなのは理由としては分かるんですが、長い時間このままだとレナート様の腕が疲れてしまいます」

 そう伝えると、傍にいたホノカさんが「いいこと思いついたっ」と私の体にいきなり風の魔法の1つ「浮遊」を使った。

「えっ!?」

 エマが魔法ですか!?と驚き返事をする間もない短い時間で魔法が展開されると、空気にふうわりと浮いているかのような、そんな感覚になった。異動している空気の抵抗の流れだけで体が後ろへと流されそうになって、慌ててレナート様にしがみ付く羽目になってしまった。

「おっ、軽い。まるで羽のようだな」

 軽い、軽いとレナート様はご機嫌になった。

「あ、じゃあ応接室には私が連れて行ってあげるっ」

「ええっ!?」

 ホノカさんが私を抱っこ!?いくら羽のように軽くなったからといっても、遠慮しますっ。

 私の体が軽くなったのだから、レナート様の代わりにホノカさんが抱っこをしようとしてくれたのだが、悪目立ちするからと、止めなさいと宰相やアルベルトさんから窘められて中止になった。

「ええー・・・」

 ホノカさんは残念がった。


 良かった、本気でホノカさんに抱き上げられなくて良かった。

 私とほぼ一緒な体格をしているホノカさんに抱き上げられて場内を移動だなんて、どんな罰ですか。怖すぎます。もし実行されたなら、ホノカさんは見かけによらず、魔法が出来るだけでなく、相当な力持ちの女の子として不名誉な噂が流れることになっただろう。

 そんな事にならずに済んで良かったっ!


 エマがそう思ったのは事実。だが、それはそれとして。どうしても疑問に思わずにはいられなかった。

「アンナ様も含めてですがシルヴィオ家って、全員に抱き癖でもあるんですか?」

 アンナ様の胸に抱き寄せられた事と言い、何度も抱き上げるレナート様といい、今度はホノカさんまでも抱っこしようとするなんて。

 初対面の人に対して、親しみやすい人柄を凌駕して、特殊な性癖があるのかと怪訝に思ったのだ。


「あはははははっ」

 長くて広い廊下に、突然笑い声が響き渡った。笑っているのはなんと王様だった。エマの疑いは、王様にも聞こえたらしい。どうやらつぼに入ったらしく大爆笑している。

「レナートに抱き癖!?無い、無い。レナートとは知り合って随分経つが、そんな癖は聞いたことがない。エマさんがそう感じた理由は、レナートがそれだけエマさんのことが可愛くて、構いたくて仕方がないからじゃないかな?そうだろう?」

 笑いが収まりきっていない最後の一言は、王様からレナート様に向けての問いかけだった。

「まあ、そういうことかな」

 レナート様は特に恥じる様子もなく、否定無しに爽やかな笑みを私に顔を向けてきた。きゅうんと胸が高鳴った。

「ということらしいよ、エマさん。レナートに随分愛されてるね」

 

 あ、愛されて!?レナート様に!?私が!?


 肯定として認められた王様から嬉しげに言われた。とんでもない言葉を助言されてしまったエマは、全身の熱が急激に上がり、身の置き所が分からなくなって焦った。

 穴があったら入りたいっ!

 隠れたくても抱き上げられているので出来たのは手で顔を隠すことだけだった。


 エマが羞恥で顔を隠す初々しい仕草に、レナートだけでなく、その場にいた全員が相好を崩した。


***


 羞恥に耐え続け、数分掛けてたどり着いた応接室は、思っていたよりも遠く離れた場所だった。エマはようやくレナート様から降ろされたが、手は繋がれたままで開かれた扉を通った。まだ転びそうと心配されているのだろうか。

 拒絶する理由も見つからず、エマははにかみながら歩いた。


 広いお部屋・・・。

 エマには広すぎると感じたが、クロード宰相が説明してくれたところによると、外交などで使う特別な広い部屋でなく、これでもこじんまりとしたものらしい。急きょ使用することになった為に暖房が間に合わず、少し肌寒く感じられた。でも、侍女たちによって暖炉には火を入れられたから直ぐに温まるだろう。


 室内全体は余り華美でなく、落ち着いた色合いで纏められており、壁はアイボリー色で、カーテンは赤銅色をしている。絨毯は赤や茶を基調として複雑な文様が描かれている。

 中央にはオーク無垢材の長方形のテーブルが置かれており、重厚感を備えた艶やかな色合いと脚部の装飾が美しい。座席は、三人掛けのソファが対面となっており、一人掛けのソファが二つ同じように設置されている。


  宰相から座るよう勧められて、エマは緊張しながらソファへ恐々しながら浅く腰かけた。この時には魔法の浮遊も切れていたので重みを受けたソファは深く沈み、柔らかな質感に壊してしまったらどうしようと思った。

 一番奥の1人掛けにフルメヴィーラ王が座り、三人掛けの片方にはクロード宰相と、息子のアルベルトさんが、残りの三人掛けにエマを挟む様にして右にはレナート様が、左にはホノカさんが並んで座った。部屋の前の廊下では騎士さんが二人見張りとして就いた。

 一緒に来るはずだったアンナ様とセオドールさんは遅れてくることになっている。実は宿泊施設の部屋から移動する間際に、アンナ様は用事を思い出したわと言い、護衛代わりにセオドールさんを連れて舞踏会場へと戻って行ったのだ。

 侍女達は一通りの仕事を終えると部屋を退出したので、部屋にいるのは六人となった。


「さて。待ち人がここへ来るまでに少々時間がかかる。その間、エマさんに確認しておきたいことが幾つかあるのだが、構わないだろうか?」

「はい」

 宰相から問いかけられたエマは、そうなるだろうと予測していたから、落ち着いて返事が出来た。


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