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21 緊張

「陛下。どうしてこのような場所に」

 突然現れたフルメヴィーラ王の姿に、その場にいた全員が慌てて姿勢を正した。勿論エマも降ろして貰い倣って頭を下げた。

 エマはこんな近くに王様が来たことで、ただでさえ心臓がドキドキしていたのに、更に鼓動が強くなった。

「ああ、礼はいい、解いてくれ。何かあったようだと連絡が入ったからだ。これだけの面子が慌てたというのだから相当なことがあったのだ思ったのだが、何があった?その床に倒れているのが問題の賊か?その割には拘束がされていないようだが」

 エマは下げていた頭をゆっくりと上げて、少しだけ王様を拝顔させて頂いた。

 遠く離れた距離からでも輝いて見えた金髪は、やはり眩しい位に輝いて見えて、碧眼の瞳には険しさが表れていた。正装の燕尾服を着たまま現れたフルメヴィーラ王の姿からは、まさしくこの国を背負って立つ威厳があふれ出ていた。

 たった数m先に王族の方がいることに、どうも現実味が感じられなかった。フルメヴィーラ王だけじゃなくて、レナート様にプロポーズされた事こそ一番の不思議だったが。

 体が何だかふわふわと浮いているんじゃないかと思う程だった。


「いえ、賊が入り込んだわけではありません。この男に問題があったのは間違いないのですが、ホノカさんの重力と石化の魔法を掛けられているので拘束はしておりません。我々がここへ来た要因なのですが、少々込み入った婚姻のトラブルがあったと言いますか・・・」

「婚姻トラブル?詳しく説明をしてもらおうか」

「はい」

 クロード宰相から、なんとも分かり易くたった数分で簡潔な説明がなされた。傍にいたエマは凄いなぁと他人事のように聞いていた。


 それも王様に視線を向けられるまでのことだった。

「・・・分かった。確かに婚姻トラブルだな。しかも城内で堂々と、か。まずは父親の捕獲が最優先だな。娘の、エマさんだったか?」

 僅か一瞬の間だったが、王様からまさかの自分にぴたりと視線を当てられたのが分かり、エマの背筋がビィンと音を立てて伸びた。

「は、はいっ」

 完全に声が裏返った。恥ずかしいと思う余裕は一切なく、緊張に体を強張らせるばかりだった。

「父親の詳しい居所までは知らないのだな?」

「はいっ、しっ、知りません。申し訳ありません」

 自分が悪い訳でもないのに謝ってしまう始末。余りの緊張に足が震えてきた。ただ結婚相手の顔を見に来ただけだった筈なのに、どうしてこんなことになっているのか自分でも説明がつかない。


 平時は年の取った侍女のイレーネ・ベーレンスと、倹しく二人で静かに過ごしているだけだ。

 こんな大勢と会うことも無ければ、身分の高い人と会ったことも無かった。同年代で同性の友達ならまだしも、好ましいと思える人に会えて、プロポーズ受けたことも大概だとは思うが、王族と顔を会わせるばかりか、言葉を交わすなんて誰が想像できるだろうか。これはプロポーズ以上の事だと思う。それだけ雲の上の人だという事だ。


 震えが止まらないのを我慢をしていると、ようやくフルメヴィーラ王の視線が床の男爵へと移った。

 エマはやっと視線が自分から逸れたことにほっとして、体に走ったこわばりを少しずつ抜こうとした。が、それよりも早く、問いかけすらなくレナート様にひょいと体を持ち上げられた。

「エマさん、失礼」

「!?」

 こう何度も軽々と立て続けに持ち上げられると、段々慣れが出てきたようにも思える。最初程の驚きはなく、確実に少なくなっていた。

「そんな蒼い顔して。危なっかしいから、エマさんはここにいて」

「えっ、駄目です。降ろしてください」

 このやり取りも何度したことか。鍛えているだろう逞しい肩に、エマは力を込めて両手を使って肩を押し、離れようとするが全然びくともしない。それどころか、背中をぽんぽんとあやされ続けた。

 完全に子ども扱いの振る舞いだったが、エマは怒るどころか、自分でも気が付かないうちにいつの間にか震えが止まっていた。


 誰の前でも抱き上げられることが決していいとは思ってもいないが、流石にエマは王様の前でこんな格好が許されるの?不敬と当たるのではと不安になったのだが、レナート様は私の顔色を心配そうにしている。

「駄目。今にも倒れそうにしか見えないから。誰が加害者で、被害者が誰なのかは全員が分かってるから、そんなに心配しなくても大丈夫。ここにいるのは俺が良く知ってる人たちばかりだから。誰もエマさんを責めないし、何も言わないから。エマさんは、俺のようやく見つけた大事な子だからね」

 最後に軽くウインクまでされてしまった。

「ええっ!?」

 大事な子!?

 こんな時だと言うのに、心臓は騒ぎ出す。脳内では、ぱちんとされた場面が何度も何度も繰り返されている。


 エマは真っ赤になりながらも、そんなの嘘です。と言いかけたが、周りからはレナート様の言う通り、誰も何も言おうとしない。そればかりか、一番問題だろうと思える王様含め、何故か全員から暖かい目で見られていた。


 えっ、えっ、ええっ!?何故ですかー!?


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