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11 後姿

「ご厚情痛み入ります。それでは私達はこれで失礼させていただきます。・・・早くしろ。あちらに待たせておられるんだ」

 言葉と態度が全然伴っていない父は言いたいだけ言うと、身勝手にもくるりと背を向け、エマも置いて体を揺らしながらさっさと歩き出してしまった。

「あの、父がごめんなさい。そして有難うございました。皆さんと出会えて嬉しかったです」

 当然慌てたエマは直ぐに父の後を追おうとしたが、せめて挨拶だけはきっちりとしたかったから早口になってしまったが最後にお辞儀をして挨拶を終えた。

 顔を上げるとホノカさんがこちらを見ているのを見て、切なさに泣き笑いの様な顔になってしまった。


 ホノカさん。友達になってって言って貰えて涙が出る程嬉しかった。今度いつ会えるのかも分からないし、もう会えないのかもしれない。それでも、誰に言えなくても、心の中で私がホノカさんの事を友達だって思う事だけは、許されるよね?

 これ以上ここにいると、また父から叱責が飛んできてしまう。エマは辛い気持ちを抱えながら父の後を追った。


***


「エマさん・・・」

 歩行の釣り合いが取れていないエマさんの後姿をホノカは痛ましげに見送った。知り合ったばかりで、エマさんに何も出来ない自分が歯がゆかった。

「・・・」

 そんなホノカを慰めるかのようにセオドールは肩を抱き寄せた。義母も、義兄も何も言わずただホノカの傍にいてくれた。


「シルヴィオ子爵婦人、お久しぶりです」

「これは、クロード伯爵。お久しぶりです」

 重苦しい雰囲気の中、義母に声を掛けてきたのは、ホノカも知っている人物だった。エグモント・クロード伯爵。このパリス国カリス州の宰相を務めている重鎮だ。何度かお会いしたことがある。

 銀髪が白髪へと変化しているが、昔はさぞモテただろうと容易に思わせる甘い顔立ちをしており、年老いていても尚姿勢がいい。現在の年齢がまたいい具合に落ち着いた渋みを加えている。


 その後ろには、もう一人の姿があった。ホノカが良く知っている人物で、伯爵の次男であるアルベルト・クロード。ホノカが所属するマギ課の副室長を務めている。女性も羨む長い艶やかな銀髪を片方に流すよう一つに括り、眼鏡の奥の瞳は冷酷さを秘めたような鋭い視線をしている。瞳は薄い青色。父親譲りなのだろう。

 ホノカの上司でもあるアルベルト副室長は、見かけだけならどんな女性でも必ず見惚れる程の美貌を持っている。

 でも、ホノカの最初の感想はちょっと違う。眼光鋭くて、女嫌い。仕事が出来て有能だけど、冷たくて、真面目で、堅物、無表情、といったものだった。

 ホノカがマギ課で働くようになってからは、そんなことはないと直ぐに分かったけれど。以前より普通に会話してくれるようになったし、刺さるかと思う程の鋭すぎる一撃の視線は向けられなくなった。お陰で、職場で目の保養をさせて貰っている。(ただの目の保養としてだけ。好きなのは旦那様であるセオドールの事だけ)

 最近はというと、相変わらず女嫌いだけど、甘党の人との認識が加わった。ホノカが作るプリン、シュークリームと言った甘いものが大好きなのだ。無表情で食べる姿が面白いと思っている。


「アンナ様は相変わらずお美しいですな。今宵の濃緑色のドレスがよくお似合いです」

「あら、有難うございます」

 伯爵からの褒め言葉に、義母は自然な笑みを浮かべていた。

「レナート室長、ボードワン殿は相変わらず元気ですかな?あやつめ、最近はワシの事など思い出しもせぬのか、手紙一つ寄越さぬ。今日は舞踏会へは来てはおらぬようだが、シシリアームからカリスへと来ているなら、一度くらい顔を見せに来るように伝えて貰えないか?」

「ええ、必ず父に伝えておきます」

 宰相とマギ課室長という立場の二人は、城でも顔を合わせることが多く随分と砕けた会話をしている。シシリアームとはカリス州の辺境地域のことで、ボードワン子爵が納めている地域名だ。クロード宰相は城を離れることが滅多にないから、向こうから会いに来いと言っている。

 2人は酒を酌み交わすほどの旧知の仲だとホノカはレナート兄さんから聞いたことがある。

 羨ましいな、普段は会えないのに、年を取った今でも時々こうやって会う約束を出来る友人がいて・・・。

 ホノカは義父のボードワンとクロード宰相の仲の良さに、もし自分とエマさんだったら・・・と考え、また気分が沈んだ。

 今度、いつ会えるかな?会えるのかな?

 先程の親子のやり取りを見ていて、ホノカが会いたいと思っても会わせて貰えるかという事すら難しそうだと思わずにはいられなかった。


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