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10 冒涜

「・・・お父様」

 挨拶周りを終えて来たらしいエマの父・バシリーは人目を気にせず、重そうな体を悠々とさせながら真っすぐに娘の元へ歩み寄ってきた。

 エマは母を亡くしてからというもの、殆ど味わったことの無い賑やかで楽しい時間が終わったことに、自分でも驚いた程失望を感じていた。

 ホノカさんとは、また会える?それとも、・・・。

 

「私は何をしているんだと、聞いているんだ」

 さっさと言え、とばかりに父は傍にいてくれているホノカさん達の前にも関わらず、傲慢な態度を崩さない。父が戻ってくることは分かっていたが、もっと遅ければ良かったのにと、言えるものなら言ってみたかった。もしかすると、殴られたりするのだろうか。言えないことは分かりきっていたが、そう思った。


「あの、私が倒れそうになったところを皆さんに助けていただきました」

「娘が世話を掛けてしまったようで申し訳ありません。父のバシリー・マクレーンです。どうぞお見知りおきを。後は私が付いておりますので、どうぞお気になさらずお戻りください」

 娘が知らない相手に助けられたというのに、私の事が忌々しいのか相手に有無を言わせず捲し立る様子は、さっさと去れとばかりに言い捨てるかのように聞こえた。

 ホノカさん達が嫌な思いをしているのではないかと、胸が痛んだ。父からホノカさんへと目線を変えると、きつい言葉を私が投げかけられたことで、私と父の顔を交互に見ながら痛ましそうな顔をしている。


 友達が出来たと嬉しそうにしていた義娘が痛ましそうな顔をしてる隣いたアンナは、エマの父と名乗った男を上から下まで全身を見た。娘は痩せすぎているというのに、父はその反対で明らかにきつそうな服を着た太った男だ。

 一緒に暮らしていて、こんなにも体格が違うことに違和感を感じた。

 アンナは少しだけ眉間に皺を寄せると誰も気づかないうちになにも無かったように消した。子爵婦人と相応しく見えるよう、表面上は完璧な笑顔を浮かべ、隙のない姿勢をとった。

「私、アンナ・シルヴィオと申します。夫はボードワン・シルヴィオ。そして、こちらが息子のレナート。こちらが義息子のセオドール、こちらが義娘のホノカです。エマさんには義娘のホノカと仲良くして頂いて、親として喜んでいた所ですのよ」

 すらりと女性にしては背の高いアンナは、バシリーと並び立つと己の方が視線が高い事に気づいた。アンナは手に持っていたグラスを息子に預け、視線を当て、何も言うなと釘を刺した。その意を受け取った息子たちは黙秘した。


「シルヴィオ家の?何故そのお嬢様がうちのエマなんかと友達になっているのです。ご冗談でしょう?」

 アンナは今の言葉にとっさに怒りを収めることが出来ず、笑みを浮かべつつもこめかみがぴくりと動いた。当の娘のエマさんを見れば、俯きその顔は白くなっている様に見えた。

 無理もない。他人がいる席で実の父が娘に言う言葉ではない。

 たった数分しか話していない私でさえも優しい子だと分かったぐらいだ。ホノカさんが友達にと望んだのも容易に頷けた。

 彼女が心に受けた傷はどれほどの痛みだろう。出来る事なら目の前のこの男を大声で罵倒してしまいたい。その気持ちをぐっと抑えながら、アンナはエマの父である男の事をまっすぐに見た。


「エマさんは他人を思いやる気持ちを持っておられるとても優しいお嬢さんですわ。それをご家族、それも父自ら娘を貶めるかのような伝えられ方は控えられた方が宜しいかと思いますが」

 この一時だけの扱いではきっとないだろう。自宅にいる時はどうしているのだろうかと気になった。それに、アンナは会った時にすぐ気づいたことがある。

 エマさんの着ているドレスは、誰かのお下がりだわ。

 一目で他にも幾つか分かったことがある。エマさんの体形と合っておらず大きいサイズの流行おくれの型のドレスは、所々色褪せている箇所を目立たないようにだろう白レースで編まれた花のコサージュを縫い付けられていることも分かった。ただ、その花の出来栄えは見事だと思った。

 髪に飾られている白い花の下から覗いた肌にはくっきりとした傷跡が残っているのが見えた。同じ花をつけていた筈だとホノカさんの髪をみれば、一つ数が減っていた。という事は、義娘が彼女の為にと髪に敢えて挿したのだろう。


 私の言葉にバシリーさんは何も反省すべき点は感じなかったらしく、大きなお世話だとでも言うかのようにふんと鼻をならした。

 ムカつく。すっごいムカつくんですケド!

 久々に頭に血が上りそうだった。アンナは手をぎゅっと握りしめ体を震わせた。レナートは震える母の背中をとんとんと叩き、無言で落ち着けと合図した。

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