全員共通
私はグアナ。貧しい村娘だったけれどあるとき貴族の子息ヤーロウ=クサーレから縁談があり、この生活から脱せるんだと家族と喜んだ。
「あの、式はいつになさいます?」
「え?ああ、あれね……」
ヤーロウはすっかり忘れていた。という顔で、どうでもよさそうにうーんと少し考えると、にっこりと笑う。
「面倒くさいからやめよう。さようなら」
「え?」
―――幸せ気分は長くは続かなかった。
―――――
「預言が降りました!先代の魔王の生まれ変わりを次なる魔王にせよ!」
「先代の魔王・アグナダか……して、それはどのようにして判別するのだ?」
――――――
「うわあああああああああ!」
私は泣きながら森を走る。なにやら城らしきものが見えてきたきがする。
「……あれ?」
――なんだか扉に吸い込まれる。
「今来ます!」
「わあああ!?」
私はなにか変なホールに吸い込まれ、地べたにころがり落ちてしまう。
◆
「この女が、次代魔王?」
女は顔をしかめた。少女の周りには黒づくめの男女が怪訝そうな表情で立っている。
「人間の娘よ。名をなんという?」
角を生やした黒髪の男は、少女に声をかける。
「……グアナです」
怯えつつ答えると、男は口を開く。
「よくぞ参った。次なる魔王」
「……はい?」
―――――
この男性はなにを言っているんだろう。
「我は魔王・アダリ・マ・エンダ=クラッカーだ」
魔王―――数百年前に勇者によって倒されたというあの!?
「きゃああああ」
私は怖くなり、ここからから出ようと思って、扉の前へ歩いた。
いくら顔が良くても魔王という肩書きはたんなる村娘の私を畏怖させるには十分だった。
「おおっと、逃がさないぜ?」
剣を背にさした青年達は、扉の前に立ちふさがる。
というか剣を持った男はいかにも勇者な格好をしている。
いやまさか、そんなわけないよね。
「あの、もしかして勇者様ですか?」
「そうだぜ」
――勇者というのは魔王を倒す役割を持った英雄ではなかっただろうか。
「私、どうしてここに吸い込まれたんですか?」
「神が選んだんだからだろう」
それにどうして魔王と同じ場にいて戦いがおきないのだろう。
「……もしかして」
「お察しの通り、俺達と魔族は手を組んでいる」
「魔王が人間の村を荒らして、勇者と戦い<パフォーマンス>って倒されて新しい魔王が誕生する計画なんだ」
旅芸人の男はにこやかに言う。
「……どうして、そんなことしてるんですか?」
立場を悪用なんて信じられない。
「ふっふっふ……魔族が人間の国を荒らせば、人間の王は勇者を祭り上げる。そうして村人から合法的にコレをがっぽり頂く寸法ですよ……」
僧侶は指を丸め、ニヤリと笑い。
「オレはやりたくなかったんだけど……」
気弱そうな戦士はチラリと勇者等をみる。
「ま、とにかく魔王をやってくれるよな?」
「断ったらどうなるか……わかるな?」
カチャリ、勇者が剣を抜く。
もうなにもかもどうでもいい。婚約をなかったことにされ、この先飢えて死ぬ運命だった。
「やるわけがないでしょう!……殺しなさいよ!」
「ほう……」
魔王は呆気にとられる。
「まあ殺すのは冗談だ」
勇者は剣を鞘に納める。
「え……?」
グアナは拍子抜けし、へたりとその場に座り込んだ。
(なら、ここから出してもら――――)
「お前が次の魔王ってのは本当だがな」
「え?」
「城からは出さねえよ。なにがなんでも魔王はやってもらうぜ」
「そんなあああああああ!」
――――
「さささあ、どうぞ次代魔王様」
顔はめちゃくちゃ怖いけど、気の良さそうな魔族の中年使用人が部屋に案内してくれた。
魔族なんて話の中で聞く程度、はじめてみたなあ。
なんで私に魔王をやらせたいのかはよくわからないけれど、冷静になってみるとこれは使えるかもしれない。
魔王になってヤーロウ=クサーレに復讐する。
―――パリーン!
窓ガラスが割れるような音がした。こっそりみにいってみよう。
―――――――
「魔王様!」
「奴がきたか……」
窓ガラスを割り、パラグライダーが城に着地した。青年はガラスの破片をふりはらう。
「ふう……」
「相変わらずだな」
―――――
壁に隠れながら彼らを見てみる。あの青年は魔王の知り合いみたいだ。
パッと見た限りでは、角のはえた金髪、貴族のような高そうな服。
会話は聞こえないが、どんなことを話しているんだろう。
―――
「ちょうどいい、お前にも紹介しておこう」
魔王はグアナのいる壁のほうへ歩く。
「……あの!?」
グアナは蒼白した。覗き見ていたことがあっさり暴かれたからである。
「へえ……貧弱そうな人間のお嬢さんですね叔父上」
金髪の青年は欠片をはらうのを止め、グアナを観察する。
「借りにも次代魔王に言っていい言葉ではないですよ」
ローブが黒だということを除けば、神官のような格好をした少年は片手に持った杖で床を突きながら現れた。
「では、これにて失礼」
金髪の青年は手をひらひらと城内この場を去る。
「……」
「奴は甥のリンドワースだ」
グアナが訝しげに、去りゆく青年の姿を目で追うと、察したアダリマが名を教えた。
「魔族にも叔父や甥という考えがあるんですね……」
グアナは彼らにも人間と同様の概念があることに感心を持つ。
「あの、ところで貴方は?」
この少年はいったいなんなんだろう。魔王城に神官なんているわけないし。
「私はクレキルト、邪神官です」
「あ……グアナです」
ぺこり。
「なんなんだ……」
アダリマは二人を近くにいるのに遠巻きに見ている。
アダリマには引き気味のグアナがクレキルトが普通に対面しているからだった。
つい先ほどの出会い方から、第一印象が勇者一行の次によろしくない為である。
そしてグアナでなくともこの少年なら一番安全だと考える筈だった。
「魔王様~西の魔王クラウンリオンとの謁見の時間です!」
魔族の男は魔王をよびにきた。
「仕方がないな」
「じゃあ私はこれで……」
グアナは部屋へ戻った。
―――――
部屋に戻って一息つく。―――いけない……雰囲気に流されて彼等に良い印象を持ちそうになっていたわ。
大人しくしていなければ命を脅かされる。
先程は気が動転していて、死んでも構わないと思っていた。
けれど、やっぱり死ぬわけにはいかない。少なくとも奴に復讐をするまでは。
―――魔王って他にもいるんだなあ。村から出たことなかったから知らなかった。
じゃあ勇者はなぜこの国の魔王とだけ組んでいるんだろう。
強欲僧侶なら他の国でも同じことをやりそうなのに。
そういえば、旅芸人は村を荒らすと言っていたけど、次の魔王だという私が現れたことで、やらせ戦が始まってしまうのだろうか。
止められるようなことじゃないけれど、聞いてみよう。
「すみません」
私はドレスを着た女性にたずねる。
「なあに?」
するて金髪の女性は振り返って、私を見ると不快そうな顔をする。
うわあいかにも気むずかしい貴族のお嬢様みたいな人。
こういう手合いは村の地主の娘などで見慣れている。
「わたくし、貴女が魔王を継ぐなんて認めないわ」
――――そんなこと言われても困る。
→【反論する】
【黙ってうつむく】
「お言葉を返すようですが、勇者と組んでる時点で魔王に価値なんてないと思いますけど」
村娘の私なんかを次の魔王にするくらいだもの。
「……言うじゃない」
一瞬呆気にとられたような顔になって、女性は顔を歪めて去った。
なんだったのか、ぽかりとしていると魔族たちがこちらに歩いて来る。
私は声をかけられる前に部屋に戻ることにした。
◆
――――それにしても魔王になるにはどうすればいいのだろう。
勇者の話では魔王が消えて、その次に私が魔王に据えられるらしいけれど。
魔王が消えるってことは、村にも被害が出る。つまり家族も無事ではなくなる。
―――どうしよう。私には何もできそうにないけど。
→【まずは話を聞く】
【私の住んでいる村は回避したい】
【村も家族もどうなろうと構わない】
【村はどうでもいいけど家族だけは助けたい】
私はただの村娘、自分の足りない頭で考えたってどうにもならない。
それに何歳も年の違う相手、しかも魔族に甘い感情論が通用するわけない。
まずは知ることから始めよう。でも私はなんのために動こうとしてるんだろう。
私が彼等の事情を聞いて、知ったところでなにかできる?
できるわけないじゃない、ただの小娘なんだから。
けどこのまま次代魔王にまつりあげられる前に一パーセントだけでもなにかしたい。
→【正義感がそうさせた】
【ヤーロウがムカつくから何を犠牲にしてもなんとかしたい】
やっぱり勇者と魔王がWinWinなんてこのままにしたらダメ。
さっそく行動しようと思う。
勇者は見当たらないので、近くの魔王に聞きたかったけど別の国の魔王と謁見だった。
→【庭に出てみよう】
【諦めて部屋で寝よう】
庭へ出ると戦士と遊び人……じゃなくて旅芸人がいた。
「おや魔王二世サマじゃないか」
勇者の仲間なのに魔王城へ堂々と入っている旅芸人。
「……どうも」
対照的におどおどする戦士。
「あれ勇者や僧侶は?」
「アヴィソニヨンとメルロースなら東の魔王の娘マギスにお熱さ」
うわいかにも魔族っぽい名前。
二人が城へ入っていくのと同時に、私は庭の庭園をまわって見ることにした。
高待遇な部屋をくれるくらいだし、外に出なければ庭の花を見るくらいは許してくれると思いたい。
◆
それにしても――勇者が色仕掛けに落ちるなんてますます引く。
勇者と魔王の娘って世間では禁断の恋と呼ばれるけれど……私は勇者は人間と、魔王の娘は魔族と結ばれるしかないと思った。
そういう格差のある関係がうまくいくわけない。
たとえば私は王子様にはお姫様、っていうのが定番だと思ってる。
身分違いや種族違いなんて物語でしかないんだから。
私の前には救いの王子様なんて現れれない。
シンデイラだってただの村娘ではない貴族の娘だったのだから。
男爵の息子でも、貧しい村娘には高望みだった。
貴族でなくてもせめて裕福で、ううん普通に生活できるくらいには生まれたかった。
~かった。という過去系で、私は生まれを後悔するしかないのだ。
努力してもお姫様にはなれないんだから。ただ腹を立てて生きるくらいが私には似合っている。
もし生まれを選べるとして誰が好き好んで貧しい何の役にも立たない農民になるの。
パキリと枝を踏む音がした。
「誰!?」
振りむくと、透き通った羽を背から生やした男がぽかりとこちらを見ていた。
男は何も言わずに微笑むと、手から一輪の白い花をこちらへ差し出した。
「くれるの」
男はそのまま姿を消した。
白い花は黒や赤、原色ばかりが溢れるこの庭にはない。
ためしに鼻を近づけるも無臭。もしかしたら造花?
彼の正体が気になるところだったけど、もう夕方だから部屋に戻ろう。
森だって獣がいて怖いのに、魔王城は余計に怖い。
◆
「お食事の用意が出来ました~」
魔王の食事なんて生き血や魔物の肉なんだろう。食べるものがあるだけマシ―――――
「お菓子?」
マカロソやケェキ、クツキーにプディソグだ。
おかしいな、人間の金持ちが食べるお菓子だ。まともな食べ物だが、夕食ではない。
「人間の女は菓子が好きだと聞く。魔族が選んだものが人間の口に会うかは知らんが食え」
「え……これ私になんですか?」
「魔族が食むものは魔力だ」
魔王が食べるものじゃないんだ。
【ありがたく食べる】
【警戒しつつ背に腹は変えられない】
「じゃあいただきます」
どれから食べようかな
【ジャムクラッカー】
【レモンクッキー】
【ラムネ】
【プディング】
【グリーンティーシフォンケーキ】
【ストロベリーマカロン】
【ブラックチョコ】
【ホワイトチョコ】
【フルーツ】