【幻の先にあるものは】
変わらない景色、薄暗い石みたいな螺旋階段をただただ登り始めてどれくらいたったのだろうか。
外も見えない、本当に登っているのかどうかも不安になってくる。
もう、歩けない。それでも、止まったらいけない気がする。這ってでも・・・
真っ暗な中を4人で進む、進んでいるのかもわからない。
何かが光った気がする、小さなマッチの火の様な、気のせいかもしれないけれど。
そう思ったときに縄はグッと前に力強く加速していく。
「んーんーんーんーんーんー」
彼がすごい必死な声をあげてぐんぐん進んで行く。
黒いモヤモヤが少しづつ薄くなってきた。何かが見える。
雲の中にある丸いところに降り立つと彼は床をガンガン叩き出した。周囲は黒いモヤモヤが私たちを捕まえるかのようにその色を濃くしていく。
彼は少年たちの方を少し向いて「んー」と言うと、少年たちは興奮した様子で踊りながらヤーヤー言いながら私の周りをぐるぐる回っている。
少年たちが浮いてる、よく見ると私の周りと少年たちそれぞれに竜巻が出来てる。
「ヤー、ヤー」
黒いモヤモヤは少年たちが飛び回るたびに散らされて、すごい勢いで吹き飛ばされている。そんなすごい風の音の中でも彼の床を叩く音は負けない位響いていて、彼の手はところどころボロボロになって、それでも振り下ろす強さを押さえようとしない。
私もなにかしなくちゃ。
「頑張って、みんな頑張って。いるなら返事して、お願い」
音が、声が、何かが聞こえる。登らなきゃ、登るんだ。
「んー」
彼の腕がはじけ飛ぶ、床には穴が開いている。勢いよく穴に吸い込まれるように消えたと思ったら
あの子がうつ伏せのまま穴から出てきた。あ、ごろって仰向けに転がった。
「もう少しゆっくり運んでほしかったよ。でも、ありがとう」
「ん!」
彼の目にきらりと光るものが・・・
「ははっ、お腹空いたの。帰ろうか」
彼の目の光はいつの間にか口元に移動していた。
「ん~」
「しゅっしゅっしゅっしゅっしゅ」
いつものサイズの彼に、いつものサイズの少年たち、そして私、私の後ろにあの子。
来た時より縄が長い気がするけどいいよね。
「いつ動き出すの」ってあの子が聞くから。出発の合図は君の役目だよって教えてあげた。少し恥ずかしそうにしてたけど。
「じゃあ、帰るよ。しゅっぱーつ」
黒いモヤモヤがだいぶ吹き飛んで星空のような光の中をみんなで進んでいく、ひときわ大きな光がどんどん近づいて、気が付くとあの子の部屋の中。
壁は元通り、穴もなく、もちろん黒いモヤモヤも出ていない。
いつもの広場に出ると、雲一つないお天気。
あの子はおひさまに手を伸ばして、彼もあの子の頭の上に乗っかって、少年たちもあの子のマネをしておひさまに手を伸ばして。
私はご飯を作ろうって思いました。




