【嘆きの咆哮】
126号が私の前から姿を消してどれほどの時が経っただろう。
あの牢屋で見かけて以来だから、一年くらい経つか。
あれから私は助け出された…正しくは拉致されたというべきか。
どの道あの牢にいて命が続くとは思えなかったからやはり助け出されたのだろう。
126号は今の私の前に姿を現すことはないだろう、当然だ。
望まない研究を提供することでこの命を繋いでいる。
1人になると思い出すのは126号が自分の仲間達が動かなくなった時のあの雰囲気…その背中…
私の事はどう思っていたのか、126号はしゃべらないから聞いても解らない。
忙しさは日増しに酷くなっていく、決戦は近いようだ。
また、126号に会う事はあるのだろうか…
戦場は選んでなるわけではない。
敵と出会う場所が戦場になるのだ…
そこがどこであれ、誰が居て、どんな場所であったか。
誰が暮らし、誰が通り、誰の記憶にある場所なのか。
どうでもいいのだ…
争いは何にも生み出さない、いやそんなことは無い。
争いは憎悪を、恐怖を、強欲を、そして新しい争いを生む…
争いを生む手伝いをして命を繋いでいる私こそがこの世に無用なものなのだろう。
それでも、命を失うことが恐ろしいのだ。
多くの命を犠牲にしてでも…私は怖いのだ…
126号はこんな私を軽蔑するだろうか。
私の実験で生まれた儚いモノ達の傍らに立ち続けた126号。
動かなくなったモノ達を丁寧に弔う126号。
その事をいつまでも憶えていたであろう126号。
新しい研究室に変わる前夜に126号と一緒に頭を下げたあの頃の私は…
瓦礫の山を挟んで多くの兵器が相対する。
その多くは私の研究によるものが基本となっているだろう。
これを126号が見たら、どれほど悲しむか…
私は目を疑う…両陣営の間に突如として現れた姿は…
『126号…』
その体はどちらからも見えるほどに大きく大きくなっていく。
薄い唇を開き声にならない咆哮が全方位に向けて広がっていく…
赤い…
地面も、空も、見渡す限りの赤…
動くモノは126号のみ。
『んーんーんーんーんー………』
遠くから近づき、聞こえるその声は悲しみに満ちていて…
少し動けるようになり辺りを見渡す…
私は生かされたのか…それは、どういう意味でかは解らない。いや、しばらくすれば解るだろう。
悲しみの声は少しずつ近づいているのだから。
126号は赤い涙を流しながら近づいてくる。
その瞳からは止まる事なく赤い液体が流れ出ている…
ふらふらと座り込んだ私の足をペシっと叩き切ない声で『んー』と言った。
『私を、もう一度お前の仲間にしてくれるか…』
『んー』
一声鳴いて私の周りを歩き始める…
『126号、ひとつ頼みがある。私がどうなっても私の研究をお前の最もよいと思うようにしてくれ…頼む…』
126号は歩みを止めずに『ん』と短く返事をした。
『お前の仲間になれたら、一緒に楽しく暮らしたいな…お前の好きな鳥の皮でも食べながら、ずっと一緒に…』
126号がぼやけて見える…もう時間が少ない…陣を発動させる…
白い光に包まれ、いつもと変わらない126号の姿を見ながら私の意識は消えて行った。




