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第二話 オートパック水着完成!

 オレと遠野さんが水泳の練習を始める。

遠野さんの尾ビレは、威力はすごいがまだうまく扱えていなかった。

人魚マーメイドモードで練習なんて、一人では怖くてできなかったのだろう。


脚はプールの底に付かないし、立って呼吸を整える事も出来ない。

子供のイルカが自分で泳げるようになるまで、母親イルカが補助するように、遠野さんにも誰かの助けが必要だったのだろう。


しかし、幻獣化を誰にも教える事ができなかったため、今までずっと泳げなかったのだ。人間モードの遠野さんは泳ぐのが下手で、二十五メートルを二分くらいで何とか泳ぎ切るレベルだ。


泳げるというか、浮いているというのに近いレベルだった。

本人としては、この人魚マーメイドモードを訓練し、二十五メートルを一分ほどで泳げるようになりたいと言う。


二時間ほどでコツを掴んだようで、何とか泳げる形にはなった。

しかし、人魚マーメイドといっても人間の肺だ。

エラ呼吸ができないため、息継ぎを学ぶ必要がある。


尾ビレは、バタ足以上の威力で水を押し出す推進力を得たが、まだ呼吸のタイミングや手の動きができていない。

これでは、泳いでいる内に呼吸困難で、倒れてしまう危険があった。

人魚が市民プールで溺れる。新聞記事にも載りそうなタイトルだ。


人魚マーメイドというと泳ぎがうまい感じがするが、現実はそれほどうまく泳げる体型ではない。

クロール、立ち泳ぎ、息継ぎなどをマスターして、初めて溺れる心配がないと見ていられるレベルだった。


三時間ほど練習して、ようやく遠野さん一人でも回游できるレベルになり、オレと水霊みずちは休憩する。


オレが辺りを見廻していると、白いワンピースを着た髪の長い女子が、泳いでいるのか、浮いているのか、分からない動きをしていた。

オレは心配になり、近くへ寄ってみる。


懸命に泳いでいるようだが、あまり前進していなかった。

彼女が息継ぎするため立ち上がると、オレと目が合う。

「あ……」と言う言葉と共に、オレと彼女がお互いの存在を理解した。

美味く泳げていない少女は、オレのクラスメートだった。


「メアリー、お前も市民プールに来ていたのか?」


「ああ、来週には、ホオジロザメと一緒に泳ぐからな。

ある程度は泳げるようになっておかないと……」


オレが上から見た限り、メアリーの泳ぎは子供のアザラシその物。

海の怪物にとって、格好の獲物だった。

むしろ練習しない方がまだ助かるんじゃないだろうか? 

ああいう海獣は、人間を恐れて近寄って来ないと聞く。


しかし、ダイバーやサファーが襲われるのは、彼らの動きが獲物に近く見間違えるためだ。

まあ、純粋に餌として襲う事もあるのだろうが、怒っていない限り危険は無いと言う。

でも、メアリーの動きは、サメの本能を刺激するような動きだった。

どう見ても好物のアザラシにしか見えない。

本当に、泳ぎの練習をしたくらいで大丈夫なレベルなのだろうか? 


オレと遠野さんはイルカと一緒に泳ぐ。

その後で、メアリーと鏡野がサメと泳ぐ。

最悪死なない様な設備が整っている事だろう。

そう願うしかない。

オレは気を取り直してメアリーに訊く。


「今日は、お前一人なのか? 誰か一緒に来たりしていないのか?」


「いや、僕の研究所の研究員が一緒だぞ! 

天才発明家だが、粗忽者で、掃除もうまくできない奴だ。

僕と気は合うが、自分の弟子に手柄を全部持って行かれている素晴らしい奴だよ。


寝ずに研究に励んで、気が付けば弟子が特許を取得しているという悲しい研究員だ。

最近では、その弟子達も謎の事故や病気が多発して、死亡しまくっている。

僕の祖父ジジイが孤児を引き取って育てているのだが、その中でも超優秀なエリートだよ。


名前はラミアで、祖父ジジイはそう名付けた事を後悔しているらしい。

まさか、幻獣のラミアと同調シンクロするとは、夢にも思わなかったらしいが……。

そのラミアの弟子が、スマートフォンのカバーを取り付けるだけで防水加工し、水中でもカメラ機能と操作ができるという発明品を作ったから、今度の土曜日に発表するそうだ。


実際に自分でプールに潜り、スマートフォンが防水加工されていて、操作機能ができる事もアピールするらしい。

ラミアはその時の補助役に抜擢されたから、ここで泳ぎの練習をしているんだ。

まあ、たぶん必要ないんだろうけど……」


「ほう、世の中には、悲しい研究員もいるんだな……」


「成功する奴がいれば、失敗する奴もいっぱいいる。

大切なのは、諦めずに努力し続ける事だ。

ラミアは、失敗続きで、大きい成功を逃しているのも関わらず、努力し続けているからな。

僕も見習わないといけないと思い、尊敬も込めて、ライバルにしている! 

ホント、アイデアはバンバン思い付くのに、弟子にバンバン特許を奪われているんだ。

見ていて飽きないぜ!」


メアリーは、無表情な顔で笑ってそう言う。

弟子が謎の死を遂げているというのは気になるが、深入りしてはいけない事と思い、オレは沈黙する。

そろそろ遠野さんが心配だ。

いくら泳げるようになっているとはいえ、まだまだ不慣れな身体。

人魚マーメイドが泳いでいると、騒ぎになっても困るからな。


そう思って遠野さんの方に寄って行くと、メアリーも付いて来る。

遠目から遠野さんの姿が気になったのだろうか? 

眼が獲物を狙うハンターの様になっていた。

オレがまずいと気付いた時にはもう遅い!

 水霊みずちと一緒に泳いでいる遠野さんに、メアリーは近付いていく。


(バカな……。

さっきまでと違って、オレよりも速く泳ぐだと……。

本来の身体能力以上の力を、エロパワーにより発揮したというのか……)


オレはそう考えるが、真実は分からない。

分かっているのは、身体的にオレより劣るメアリーが先に辿り着いたという事実だけだ。メアリーは、遠野さんの幻獣化を的確に理解し、こう尋ねて来る。


「えるふ、お前今ノーパンか? 髪の毛を解いて良いかな? 良いよね! 女同士だし!」


メアリーは、遠野さんの三つ編みを解き、ツインテールにする。

人魚マーメイドモードからオーガモードに変わり、遠野さんの下半身が露わになる。色っぽい二つの脚が、オレの距離からでも確認された。


「ほほう、オーガモードですか……。そういえば、髪の毛が緑色ですな。

下の方はどうなっているのでしょうか? 水中ゴーグルをかけて、確認作業に移ります!」


メアリーが水中に潜り、遠野さんの下半身を確認しようとするのを、水霊みずちが止める。

かなりの危険度を感知したらしい。


「ちょっと、遠野さんが嫌がっているでしょ。

女の子だとしても、やって良い事と悪い事があるのよ!」


「バカ者! 僕は医者だ! 

世界中では、こういう症状で苦しんでいる若者が多くいるんだ。

それを何とかしてでも解決してやりたい。その第一歩が確認作業なのだ! 

素人が口を出して良い問題ではない!」


メアリーの圧力に押され、水霊みずちは警戒を緩めた。

プロという肩書は、経験のない者を黙らせるだけの威力がある。

水霊みずちがひるんだ隙に、メアリーは遠野さんの下半身を確認する。


「うむ。まだ下の毛はうぶ毛程度しか生えていないね。

緑色になっているかは確認でき無かったよ。

まあ、形の良い縦筋だったし、異常は無いようだね!」


水中から顔を出したメアリーはそう言う。そして、仲間を呼び集める。


「おーい、ラミア! こっちへ来い! 面白い物が見られるぞ!」


メアリーの声を聞き、プールサイドにいた女性が動き出す。女性の泳ぎも速かった。

オレよりも後に動き出したはずなのに、オレよりも早く遠野さんの元に辿り着いていたのだ。

そして、遠野さんに近付き、下半身を確認する。

水中ゴーグルもしており、メアリーと同じ反応をする。


「ほほう、良いね、良いね。なかなか綺麗な縦筋だよ。

これを市民プールで見られるなんて、滅多にないな……。

記念に写真でも撮ってみますか?」


興奮する二人の女医に、水霊みずちは問いかける。


「あの、そこは異常ないんでしょ? 人魚の下半身を見た方が良いんじゃないですか?」


「うんニャ、そっちは興味が沸かないね。

魚のヒレ見たって、嬉しくはないよ。

どうせなら、ブラも外して、オッパイの触診をした方が良いね。

そっちの方が興奮するよ!」


「もう、医学の研究じゃないですよね。そのコメントは……」


水霊みずちは呆れて二人を見ていた。

二人が遠野さんに触る前に、オレは何とか追い付く。

遠野さんと、危険な二人組の間に割り込み、自分の彼女を守る。

ちょっと遅れたけど、彼女達の行動がエスカレートする前に付いて良かった。


「あちゃー、彼氏が到着しちゃったか……。悪戯はここまでだね。続きはまた今度だね」


「まあ、今度はゆっくりと研究すればいいさ。

それよりも、公共の施設でノーパンというのは不味くないか? 

今日は良いけど、学校だと危険だぞ!」


メアリーがもっともな事を言う。

オレだって何とかしたいが、どうする事も出来ないんだ。注意されても困る。

オレが返答に困っていると、ラミアとかいう女性がこう提案して来た。


「なら、私が遠野ちゃんにふさわしい水着を開発しましょうかね。

要は、人魚マーメイドモードの時には開いて、人間モードの時には閉まる水着を作れば良いわけですよ。

磁石マグネットの力を使えば、人魚にも優しい水着が作れます!」


こうして、ラミアさんは一晩をかけて、遠野さんのためにオートパック水着(自動で下半身を包み込んでくれる水着。必要に応じて開閉できる)を作ってくれた。

翌日の朝には、プロトタイプを渡され、一週間かけて実用的に仕上げられる。

しかし、特許を申請するも、須要性は無く、遠野さん専用の水着となったらしい。

ようやく巡って来た数少ないチャンスだったのに……。

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