植本きらら――幸せになってほしい、仮面を着けた生活。
辛くないですか……?
建前に染められた、日々の生活が……。
苦しくないですか……?
貴殿方の思い通りにならない、仮面を着ける毎日の生き方が……。
貴殿方と比べれば取るに足りないことは承知の上ですが、この私も、辛くて仕方なかったのです……。
社長令嬢として生まれた私には、たくさんの息苦しい呪縛があるのですもの。
社長である父や御関係者の前では、出来のいい娘を演じたり、
父の仕事の都合で、幾度の転校を繰り返したり、
友だちだって全くできませんでしたし、
私の想いなんて、誰にも届くわけなかったのです……。
だって、どこにも心を開ける場所がなかったのですから……。
胸があまりにも苦しくて、呼吸もままならない生活が、仮面を被った私にはあったのです。
建前ばかりに縛られて、
本音という自分らしさを失って、
そしていつしか、被っていた仮面は顔そのものとなって、剥げなくなってしまったのです。
自分が一体どうしたいかもわからず、気づけばいつも下を向いてて、仮面から綺麗に見える冷たい革靴ばかりを眺めていました。
涙だって、落とせないまま……。
――しかし、それじゃあダメなんだよって、私は、生まれて初めての親友に教わったのです。
建前は、確かに無駄な行いではございません。
他者を傷つけないためにも、大切な思い遣りですから。
しかし、だからといって本音を失ってはいけません。
本音を失えば、自分らしさが消えてしまうからです。
何よりも、心が無くなってしまうのですから。
それに気づいたとき私は、溜め込んできた心の雨を存分に降らせました。
なぜなら、生まれて初めてでしたから。
誰かから、仮面を着けた自分を否定してもらえたことが。
否定されたはずなのに、何だかとっても嬉しかったのですから。
人は、
建前という演出と、
本音という心の叫びを表現することで、
やっと他者との間に入ることができるのだと。
――つまり、人間になれるのです。
仮面を被るなとは、当人の私は口にしません。
ただ、着け過ぎて剥げなくなるようには、困惑している貴殿方には決してなってほしくありません。
そして、必ず持っていてほしいのです。
貴殿方の意思を。
そして、誰かを信じられる心を。
大丈夫ですよ、貴殿方ならきっとできます。
なぜなら、この私だってできたのですから。
――にゃあ~~~~!!
親友が教えてくれた、唯一無二な魔法の語尾のおかげで。
だから貴殿方からも、どうか御聞かせてください。
身体の内側に秘めた、心の叫びを。
植本きららと、この私が必ず聞き届けますから。
辛いなら辛いと、
苦しいなら苦しいと、
今は仮面を外して、助けを求めてくださいね。
――レフト 植本きらら。背番号7