牛島唯――夢にまで見たような、普通の幸せ。
幸せな生き方とか、
嬉しい生活とかって、
一体何が正解なんだろうな……?
オレ的にはさ、それは、答えは一つに限らねぇと思う。
オレたち人間には、それぞれ個性っていうのがあるだろ?
だからその数だけ、答えがあるはずなんだ。
ちなみにオレが今、一番幸せな生活とは何かって聞かれたら、絶対にこう言うよ。
――親に、怯えない生活だって……。
オレん家ってさ、結構複雑で、なかなか説明しづらいんだ……。
まぁ、父親の暴力がヤバイって言えば、お前にも伝わるかな……?
DV――家庭内暴力って言うらしい。
やられてるコッチとしては、言われて初めて気づいたんだけどさ……。
今は父親も居なくなって、再会できた優しい母親といっしょに暮らしてるぜ。
ホントに、幸せだよ。
だって、嫌いな暴力なんざ一切ねぇんだからさ。
暴力……オレはやっぱ嫌いだ。
暴力ってさ、もちろん身体を傷つけるんだ。
おかげでオレはいつも長袖長スカートの、肌身一つ見せられない状態。
アザなんて見られて、気分悪くされても嫌だからさ。
でも、暴力で生まれる傷は、実は身体だけじゃないんだよな……。
――心のキズの方が、ずっと深くなっちまうんだ……。
目に見える傷はアザになるけど、目に見えない心のキズは、いつまでたってもカサブタができなくて、一生血を流したままなんだ。
他人はおろか、本人も気づかない可能性だってある、厄介なキズだよ。まったくさ……。
暴力……力……。
力がある……つまり、強い……。
力があるから、強ぇのかな……?
力があるから強いとは、オレは決して言えねぇ気がする。
要はさ、その力を正しく使えるか……それを周りから認められたとき、オレたちは初めて、強い人間になれるんじゃねぇのかな?
相手を傷つける暴力じゃなくて、仲間を守る護身力とか。
世界を支配する権力じゃなくて、世に情けをかける貢献力とかさ。
笹二ソフト部の四番バッターになったオレ、そして傷つけられたオレとしての意見だ。
お前だって、きっと何かに怯えながら生きてると思う。
まぁそれが何かは、オレはあえて言わねぇよ。
でもこれだけ、お前には伝えてぇんだ。
お前が持ってる力を、
周りから求められている形で、
正しく使って、
誰かを護って、
笑顔にしてやってほしいって……。
人間の手っていうのは、誰かを護るために生まれたものだって、オレは思ってるからさ。
だから、いっしょにガンバろうぜ?
何度揺らされても、
ぜってぇ放さねぇように、
最後まで繋いでいようぜ。
片方の手は、オレがしっかり握ってやるからさ!
もう片方は、お前に任せたぜ?
――サード 牛島唯。背番号5