1章⑤
「あー…」
時刻はお昼過ぎ、昼休みだ。しかし、俺は弁当も出さずにのびきっていた。
結局朝以降成瀬さんと会話はしていない。まあ元々彼女は誰かと積極的に話したりはせずに本を読んでるか楽譜を見ているか、休み時間はほとんど1人で過ごしてるからな。向こうから話しかけてくるなんてあまり考えられないことだ。
かといって俺から話しかけるのも…。
いや?別に今朝の別れ際のことを思い出してビビってるわけじゃないんだよ?一応誤解がないように言っておくけどね?
「将也ー飯食おうぜー」
俺が1人悶々していると光希が弁当を持ってきて目の前に座った。
「…おう」
「どしたん。なんかやつれてないか?」
「…まあ色々とな」
渋々弁当を取り出し広げる。あんまり食欲ないんだけどな…授業が終わった後休み明け一発目の部活もあるしエネルギーは蓄えとかないと、、、
「…てああああああ部活かー…」
そうだった部活だ。部活って言うと成瀬さんと一緒に練習ってことだ。
「気まずい…」
「本当どうしたんだ?」
「それがさー…」
俺は今朝のことを光希に話した。最後は何か怒ったように去っていってしまったことも。このイケメンのモテ男なら何か原因が分かるんじゃないか?
「…て感じでさ。話しかけるきっかけもなくこうして1人で悩んでる訳ですよ」
「ふーん」
「ふーんて」
何その興味なさげな感じ。
「お前の相棒がこんなに悩んだんだぞ?もうちょい親身になってくれても良くないか?」
「そんな深刻なものでもないだろ」
「俺にとっては深刻なんだよ!部活で絶対顔合わせなきゃいけないんだぞ?次顔合わせたときに虫けらを見るような目で「近寄らないで」とか言われたら俺もう学校来ないよ?家から出なくなっちゃうよ?」
「成瀬のモノマネ似てないな」
「うるせぇ今そんなことどうでもいいんだよ!」
おかしいな、結構渾身のモノマネだったと思ったんだが…
「お前の話を聞いた感じ、成瀬は多分怒ってるわけではないと思うけどな」
「怒ってるわけじゃない?俺には怒ってるように感じたんだが…お前どういことか分かるのか?」
「まあなんとなくな。成瀬じゃないから本当のところは分からんが」
「予想でいいから教えてくれよ」
「嫌だ」
「えぇぇ…」
「推測でものを言うと成瀬に迷惑がかかるかもしれないしな」
「ぐっ…」
それを言われると弱い。
「それに、」
「それに?」
「そっちの方が面白い」
「お前絶対そっちが本音だろ!」
「冗談だよ。3割くらいは」
「半分以上本気じゃねえか!」
あれ?こいつって本当に親友だっけ?段々怪しくなってきたぞ?
「まあ落ち着けって。さっきも言ったけどそこまで深刻にならなくてもいいと思うぞ」
「本当だろうな…」
さっきの発言を聞くと全く信用は出来ないが、こいつが何も言わないんならこれ以上話しても仕方ないか…
「本当だって。早く飯食おうぜ昼休み終わっちまう」
「…へいへい」
「いやーでもお前昨日の今日で結構進歩したな」
昼ご飯を食べ進めていると光希がしみじみと言いだした。
「まあ、な」
「あの成瀬と話せたって、お前じゃなくてもあいつに話しかけるのは結構勇気いると思うぞ?」
「だよなー」
多分難易度で言ったら普通の女子をレベル1くらいだとすると、成瀬さんはレベル50くらい(当社比)。そんな彼女と会話出来たんならもう何も恐れるものはない。まあ、俺から話しかけた訳じゃないんだけどね!朝の挨拶もへんな感じになっちゃったし!
「こりゃ彼女が出来る日も近いかな」
「調子乗んな」
「ひどっ!?」
煽ててきたと思ったら急に叩き落とされた!
「あのな将也。やっとお前が普通の男になりかけてきたから教えておいてやるよ」
「な、なんだよ」
何を言い出す気だこいつ。
「いいか…ライクとラブは別なんだ」
「…」
え?何言っちゃってんのこいつ?
俺がドン引きした目で見ると、
「これはお前のために言ってやってるんだからな!?」
焦ったようにそう宣った。自分で言っておいて恥ずかしがんなよ…
「んで?それがなんなんだよ」
もうちょっとこれをネタに遊んでも良かったんだが…
光希は仕切り直すようにせきばらいをした。
「いや、お前みたいな女の子慣れしてないやつはちょっと仲よさ気に話しかけられただけでその子のことを好きになるとかありそうだからさ」
「失礼だなお前は!」
「これでもお前のことを心配して言ってんだぜ?」
残念だったな。お前の言葉は信用しないとさっき心に誓ったんだ。
「そんなことお前に言われなくても分かってるっての」
「本当かよ」
「俺がもしそんな勘違い野郎だったらとっくに仁美に告白して玉砕してるよ」
「玉砕するところまで決まってるのか」
呆れたように言う光希。そんなことはどうでも良い。
「俺が勘違いするようなことはないって証明できるだろ?」
「まあな…」
「俺はあいつのことはいいやつだと思ってるけど恋愛感情はないよ。あいつもそうだろう」
もはやあいつは家族って言った方がしっくりくるかもしれない。あいつの家族とも結構付き合いあるしな。
「ふーん…まあそうか。なら安心だ」
「俺のガードの硬さをなめるなよ。ちょっとやそっとの甘言では俺を騙すことは出来ん!」
「…なんかそれはそれで彼女出来なさそうだな」
そういう見方もあるかもしれない。俺、本気で告白されたとしても、多分信じられないかもしれないもん。
「まあ頑張れよ。お前に彼女が出来たらなんか奢ってやるよ」
「言ったな!じゃあ焼肉食べ放題な!」
「ちょ!?お前それはないだろ!普通高校生ならパンとかジュースにしとけよ!」
「うるせぇ!迂闊なことを言った自分自身を呪うがいい!」
そうぎゃあぎゃあと騒ぎつつ、昼休みは過ぎていくのであった。