1章④
なあみんな聞いてくれ。俺は今過去に例を見ないくらい注目されている。通り過ぎる奴全員が振り返り俺を見る。男子も女子もみんなだ。しかし、俺はそれをなるべく見ないようにしてただただ終わりを待つ。ていうか超恥ずかしいっす。
原因は分かっている。それは、
学年一有名な女子、成瀬美月に腕を掴まれ連行されているからだ。どうしてこうなった。
「あ、あのー、成瀬さん…?」
恐る恐る声をかけてみるが反応はない。これ、どこまで行くの?心の中でそう問いかけてみるも、もちろん誰も答えてくれないのでもう流れに身をまかせることにした。
しばらく歩いたところでやっとのこと成瀬は速度を緩め立ち止まった。場所は中庭だ。もうすぐ朝礼が始まる時間だからか人はいない。
成瀬さんは掴んでいた腕を離しこちらを向き、
「それで?何か用なの?」
そう宣った。
俺は何も返せない。どういうことだ?用があるのはそっちじゃないの?ていうか何で中庭まで連れてこられたの?もうすぐ朝礼始まっちゃうよ?
問いたいことが頭の中をグルグルと回っているが、彼女に見つめられていると思うと言葉が出てこない。まつ毛長いなぁとか、本当白くて綺麗な肌だなぁとか、黒髪ロングいいよなぁとか、こんな状況にそぐわないことを考えてしまう。
「…ちょっと?」
「は、はい!」
やばい!ちょっと見惚れてボーっとしてた!俺の驚いた様な反応に怪訝そうな顔をする成瀬さん。
な、なんか言わないと!
「あ、あの!いや、えーと…」
ああああ駄目だ。何か言わなきゃと思うほど何を言ったらいいか分からなくなっていく…
「えーと…、その…」
俺のオドオドした態度に彼女の顔に不機嫌そうな表情が浮かぶ。そりゃイライラするよねこんなんじゃ…
「…私のこと見てたわよね?何か用でもあったんじゃないの?」
じれったく思ったのか結局彼女から喋り出してしまった。ていうか、成瀬さんを見てた?俺が?
「え、と、それっていつの話?」
「さっき、教室で」
「教室で…?…あ!」
あの夢の内容を思い出してた時!?ずっと成瀬の方を向いてたってこと!?
「ご、ごめん!あの時はちょっと考え事してて!自分がどこ向いてるかとか全然意識してなくて!」
まさかあなたのことを考えてましたなんて言えるわけもなくしどろもどろに言い訳をする。
「成瀬さんに用があったとかじゃないんだ!とにかくごめん!」
そこまで言って勢いよく頭をさげる。
「……」
「……?」
頭を下げたまま固まっていたが、一向に反応がない。どうしたんだ?
恐る恐る顔を上げると彼女は複雑そうな表情でこちらを見ていた。
「えっと…どうかした?」
「…用がなかったっていうのは理解したわ。それよりもちょっと聞きたいんだけど」
「う、うん」
「…私ってそんなに恐いかしら?」
「へ?」
どういうこと?意味が分からず首をかしげてしまう。
「だって、あなた部活中とか私といるとき落ち着かない様子でソワソワしてるし、その、1学期も全然話そうともしなかったし、避けられてるような気がしてたから…」
「え…」
も、もしかして俺が成瀬さんを嫌ってるって誤解されてる!?
「ち、ちがっ!そうじゃないんだ!これは俺の方に問題があるっていうか!」
俺は自分が女の子と喋ろうとするとすごくテンパってちゃんと喋れなくなってしまうことを説明した。そりゃもう必死になって説明した。ていうか本人にそんなことを言わせてしまう程失礼な態度をしてしまっていたなんて、とんだ最低野郎じゃないか!今までの失礼な態度も全力で謝罪した。
「…そう、女の子が苦手なのね」
「苦手というか…女の子を前にすると言葉が出てこなくなるんだ…」
なんかすごく情けないことを言ってる気がするが、誤解されるよりマシか…
「そう、そうだったのね…良かった…」
「え?」
「…っ!いえ、なんでもないわ」
1人で納得したように何かつぶやいていたけど何だったんだ?
まあいいか、一応誤解は解けた…かな…?
「あの、その…。今まで失礼な態度とって本当にごめん!」
俺は勢いよく頭をさげて、改めて謝罪をした。
「…理由も分かったし、いいわ。私も普段おしゃべりする方じゃないから人のこと言えない部分もあるしね」
「あ、ありがとう…」
よ、良かった…ちゃんと謝れた…。これで、これ以上嫌われることはないかな…
「じゃあ、そろそろ教室戻ろうよ。もうすぐ朝礼始まる時間だから」
以前よりも幾分和らいでいるように感じる雰囲気の中そう切り出す。そろそろ本当にやばい。学校にいるのに遅刻扱いになってしまう。
「ええ、…もう1つだけ質問していい?」
「え?うん、いいけど」
「あなた、まーくんって呼ばれてるの?」
「え!?」
ああああそうだ、今朝仁美に成瀬さんの目の前でそう呼ばれたんだ。は、恥ずかし過ぎる…
「まあ、そうだね…仁美とは中学からの付き合いなんだけど、その時から呼ばれててね…」
目の前で呼ばれては誤魔化そうにも誤魔化せないし正直に話す。忘れてくれないかな…
「あいつとは腐れ縁っていうのかな。中学時代はずっとあいつに振り回されてた気がするよ…呼び方のことも、人前では言うなって言ったのにあいついきなり口すべらしちゃって…出来れば忘れてもらえると…ん?というか何でそんなこと気にす…る、な、成瀬さん?」
「……」
俺が話しているうちに急に彼女の雰囲気が一変した。
もうね、こっちを睨んでるのがハッキリ分かるの…ていうかなんか寒気がするんですが…周りの空気が一気に冷えていっているように感じる。
「な、成瀬さん?どうしたの?」
「……」
返事をしてくれない。やばい、よく分からないがとにかくやばい。本能が警鐘を鳴らしているが、身体はその場所に縫い付けられたかのように動かない。ここって本当に現実?夢じゃない?
「……ふんっ」
「な、成瀬さん!?」
しかしそれは唐突に終わりを告げた。彼女はいきなり踵を返し歩いていってしまったのだ。慌てて呼び止めるが反応なし!俺は彼女が校舎に入って姿が見えなくなるまで、その後姿を茫然と見ていることしかできなかった。
「……何が悪かったんだよぉぉぉ!」
思わず頭を抱えてしまう。折角少し雰囲気良くなったと思ったのにまた振り出しっすか!?ていうか次会うときすごく気まずいじゃん!
俺は次会ったときなんて謝るかを考えながら教室へノロノロと向かった。誰か正解を教えてぇ…