2章⑮
「着いた!やっぱり雰囲気あるね~ここ!」
俺たちは罰ゲーム会場である戦慄!恐怖の館の目の前にいた。のはいいんだが…
「やっぱり、こんな子供向け遊園地にあるのがおかしいくらいだよなここ…」
今までの楽しげな雰囲気が嘘のように、このアトラクションの周りは不気味な雰囲気を漂わせていた。ここを作ったやつに、なぜこんなことになってしまったのか小一時間問い詰めたい。
「罰ゲームだからね!これぐらいの歯ごたえはないとねぇ」
「将也どうだ?ビビってるか?」
「はんっ!高校生にもなってたかがお化け屋敷にビビる将也君ではないわ!」
正直進んで入りたいとは思わないけど、まあ、正直もっとえげつない罰ゲームも覚悟してたから、これくらいで済んで良かったと思うべきだろう。アトラクションをただ楽しんでこればいいだけだし、成瀬さんと二人でと考えたらむしろご褒美と言っても過言ではないな!
「さてさて、高校生の将也君は出てきたときどんな顔をしているんでしょうかね~?」
こやつ煽りやがる…言っとくがお前も半泣きで出てきてたんだからな!中学生の時だけど!
「おい将也。あれ」
「ん?」
「今お化け屋敷から出てきた客がいるみたいだぜ」
光希に言われた方を見ると、ちょうど出口から出てきたグループが見えた。どうやら家族連れみたいだ。
「わああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「ちょっと!なんでこんなのに入ろうなんて言ったのよ!」
「お前も乗り気だったじゃないか!」
「ギャアアアアァァァァァァ!!」
「あなたが絶対面白いからとか言うからでしょ!?なにこれ!こんなのたく君が入れるようなアトラクションじゃないじゃない!ちょっと考えれば分かるでしょ!?」
「そう思うならお前が止めればよかっただろ!?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
「たく君のトラウマになったらどうするのよ!!こんなのもう遊園地を楽しむどころじゃないわ!もう帰るわよ!」
「あ!!おいちょっと!待てって!」
喚き散らす子供を抱えて、ケンカしながら立ち去っていく家族を俺は茫然と見送った。
なにあれ…?アトラクション一つで家庭崩壊寸前なんですけど…そんなにここやばいの…?というかたく君やばい。泣き方が尋常じゃない。
「…じゃ!そろそろ行ってみよっか!」
「いやいやいや!お前あれ見なかったのかよ!?」
「え?」
「え?じゃねぇよ!見たろあの家族!このお化け屋敷のせいで散々なことになってんじゃねえか!」
「大丈夫だよ!」
「その自信はどっからくるんだ!」
「なんとなく!」
ダメだこいつ。
「将也。三枝ちょっといいか?」
「ん?」
「どうしたの滝本君?」
俺たちが言い争っていると、光希が少し声のボリュームを落としつつ割って入ってきた。
「いや、成瀬は大丈夫かなって。さっきから一言もしゃべらないから」
「そ、そういえば…」
先ほどから全然声を発してないな…
見ると、成瀬さんは先ほどの一家の去っていった方を見ていた。俺からは顔が見えない。
「美月ちゃん?どうしたn、おおう…」
成瀬さんに近寄り顔を覗き込んだ仁美がなんとも言えない声を出した。
「どうしたんだ仁美?成瀬さんがどうかしたのか?」
「何でもないよ~?」
「いや、何でもなくはないだろ」
明らかにひきつった顔をしているんだが。
「まあまあ。気にしない気にしない。…美月ちゃん!」
「…!どうしたの三枝さん?」
仁美が名前を呼ぶと反応する成瀬さん。うん、特に問題はないのかな?
「大丈夫?お化け屋敷怖いなら別の罰ゲームにしようか?」
「お化け屋敷が怖い?ちょっと何を言ってるか分からないわね。そもそも常識的に考えてお化けなんているわけないし、いないものに怖がる道理もないわ。ええ、そういうことよ。だから私は全く怖がってないし、特に問題ないということ」
「そ、そうなんだ…」
「ええ。そうなの」
突然饒舌になる成瀬さんと、その様子に面食らう仁美。仁美があそこまでうろたえるのは珍しい。
「どうやら成瀬はかなり苦手っぽいな」
「そうみたいだな…」
「お前がちゃんとフォローしてやれよ?」
「…おう」
正直に言うと、あの家族の惨状を見て俺もビビってたんだが、成瀬さんのあの様子を見てしまうと、ビビっている場合じゃないと恐怖心が薄れる気がした。
「よし!成瀬さん準備はオッケー?」
「ええ。いつでもいいわよ」
成瀬さんの覚悟も決まったようだ。よし!
「じゃあ行ってくるからな仁美、光希!」
「じゃあ…罰ゲーム開始!いってらっしゃい二人とも!」
「頑張れよ~」
「行こう!成瀬さん!」
「ええ」
一抹の不安を感じながらも、成瀬さんと二人アトラクションへ突入するのだった。




