2章⑬
「いやぁ、案外上手くいってるみたいだな」
家族連れで賑わっている遊園地を男二人で歩くという現状に若干の居たたまれなさを感じながら目的地へ向けて歩いていると、光希がそう切り出してきた。
「上手くいってるって何が?」
「お前と成瀬の仲だよ。結構打ち解けてきてるだろ?」
「…おう」
言われてみれば、かなり違和感なく遊べてる気がする。
「やっぱりチーム戦で共闘したのは大きかったかもな。さすが三枝だよ」
確かに言うとおりかもしれない。さすが仁美とは思うが…これまでのことを思い出すと、単純に俺が辱められていることが多かった気がしないでもない。
「なんか素直に感謝出来ないんだよな…」
「ははっ。この後罰ゲームも待ってるしな。でも意外だったなぁ」
「なにが?」
「成瀬ってあんなに負けず嫌いだったんだな」
「あぁ。確かに」
遊園地のアトラクションであんなに本気になってるのは、俺が知ってる奴の中じゃ仁美くらいだ。
「それに初心者でいきなり三枝に勝つって相当だよな?あのアトラクションって大人が楽しめるくらい難易度は高めだし」
「そうだな。あれは驚いた」
仁美は小さいころ飽きるほど乗ってたから今でも高得点が出せるのは分かる。でも、今日初めて乗った成瀬さんがいきなり仁美に勝ったのには驚いた。そういえば…
「敵の配置とか完全に把握してたな…」
成瀬さんは1回目で覚えたって言ってたけど、いくら彼女でもそんなことが出来るのか…?
「そうなのか?まあ、地元で同じようなアトラクションに乗ってたから慣れてたのか…もしかしたら、やっぱり高校生になってから誰かと来たのかな?」
「だ、誰かって誰だよ…」
「さーてな」
ニヤニヤとしながらとぼける光希。こいつ…分かってやってやがるな…
「ハッ。俺はお前なんかより成瀬さんの言葉を信じるね!」
「へーへーそうですか」
こいついつか絶対ギャフンと言わせてやるからな。
売店についた俺たちは、昼ご飯を注文し、出来上がるのを待っていた。
「本当に成瀬と順調に仲良くなれてるみたいで、俺も安心したよ」
と、光希が唐突にそう宣った。
「あん?どういうことだ?」
「いや、お前から聞いてるだけじゃ諸々本当かどうか分からなかったからさ」
失礼な。こいつは俺が嘘を言っているとでも思っていたのか?
「お前の今までの様子を見てたら疑いもするだろ」
「うっ…」
それを言われてしまうと弱い。
「まあでも実際成瀬と上手くやれてる感じはしたから、このまま頑張れば大丈夫だろ」
光希には思いのほか心配をかけてしまっていたようだ。
「…なんか、すまんな心配かけて」
なんだかんだこいつは良いやつなのだ。
「ついに将也も独り立ちしつつあるんだな…」
「いやそれは何目線だよ」
「ん?親目線?」
「やっぱりお前俺の保護者っていう認識なの!?」
前言撤回。やっぱりこいつは憎たらしいだけだわ。
怒りに震えていると、
「成瀬はかなりハードル高いと思うが頑張れよ」
「ハァ!?」
ニヤニヤしながらブチかましてきた光希に素っ頓狂な声を出してしまった。
「いやだから前も言ったけどそんなんじゃないって!」
「そうなのか?成瀬のこと好きじゃねえの?」
「いや、そりゃ好きか嫌いかで言ったら…好ましくは思ってるけど!ほら!お前も言ってたじゃん!ライクとラブは違うって!」
「まあ確かに」
「だろ?俺はそんな簡単に落とせる男じゃねぇ!」
「そこでドヤ顔する意味は分からんが…まあでも、今後はどうなるか分からんし、そうならなくても仲良くなるのは悪いことじゃないだろ?」
それは、まあそのとおりだな…
「それに俺は成瀬と将也は意外にお似合いだと思うんだよな」
「え?マジで…?」
なんだなんだ?こいつはいきなりどうした?
「…ちなみにどういうところが?」
「うん?うーん…なんとなく?」
「なんとなくかい!」
危ねぇ…こいつの甘言に惑わされるところだったぜ…
と、やり合っていたらお待ちかねの昼ご飯が出来てきて手渡された。
「ははっ。まあ、何かあったら相談に乗るから頑張れよ。二人とも待ってるし早く行こうぜ」
「…おう。まあ、もしもそんな時が訪れたら!せいぜいお前の知識をフル活用させてもらうからな!」
やっぱりこいつには勝てる気がしないな…
俺たちは人数分の昼食を持って急いで仁美たちの元へ戻るのだった。




