2章⑨
仁美と光希に追いつくと、次の回で俺たちに順番が回ってくるようだった。
「もうそろそろか。確か二人乗りだったよな?」
「そうだねー。じゃあ最初は、美月ちゃん一緒に乗ろっか!」
「ええ。いいわよ」
「へっへっへ…。手取り足取り教えてあげるぜお嬢さん…」
「い、いえ。大体分かるから大丈夫よ…」
両手をワキワキさせながらにじり寄る仁美。仁美から身を守るように後ずさる成瀬さん。最早変態おやじが迫っているようにしか見えない。ていうか俺も成瀬さんに手取り足取り教えたい…いや、決して変態的なアレじゃなくてね?いつも部活で教わってばかりだからね?
「じゃあ、俺と将也でペアか」
「まあ必然的にそうなるよな」
なぜ、女の子と遊園地に来てて男同士でアトラクションに乗らないといけないのか。
「まあ、しゃあねぇ。ひとまず光希で勘弁しといてやる」
「言っている意味がよく分からないが…お、来たな。俺たちの番だ」
そうこうしている間に俺たちの順番が回ってきたようだ。俺たちが乗り込むコースターがやってきた。仁美と成瀬さん、光希と俺はそれぞれ空いているところに乗り込んだ。
「それじゃあ出発します!ドキドキワクワクのトレジャーハントへ!いってらっしゃーい!」
乗り込んですぐに準備が終わり、従業員さんの合図でコースターが発進した。
「これが銃でー、敵がどんどん出てくるから銃を向けてこのボタンを押せばいいんだよ!OK?」
「分かったわ」
「あそこの入り口をくぐったら敵が出始めるからね!」
「ええ、了解」
仁美は成瀬さんに簡単に操作方法を説明しているようだ。
「ただ乗るのもつまらんし、俺たちは勝負するか」
彼女達の方を気にしていると、光希からそう提案があった。ほほう。普段はこいつになかなか勝てることがないからな。仁美に連れまわされたことで無理やり鍛えさせられた俺の技術を披露してやろうじゃないか。
「何を賭ける?」
「ジュース」
「おっけ」
《待ちくたびれたぞ見習いトレジャーハンターたち!それじゃあ、ロマンを求めてしゅっぱぁーつ!!》
☆ ☆ ☆
《ありがとう!君たちのおかげで洞窟の奥深くに眠る宝を手に入れることが出来たよ!君たちは立派なトレジャーハンターだ!》
終了を告げる最後のセリフが流れた後、最初に乗り込んだ場所へ戻ってくる。備え付けられたモニターにスコアが表示された。
1P 7682 点
2P 4211 点
3P 3965 点
4P 5009 点
1Pが仁美、2Pが成瀬さん、3Pが俺、4Pが光希だ。あれ、俺最下位…?
「やっぱり、腕が鈍ってるな~」
「大体分かったわ。次はもっといけるはず…」
「お?言いますね~。まあ、私には敵わないだろうけどね!」
「それはやってみないと分からないわよ」
前でワイワイ盛り上がっている2人。反対に俺は今目の前に突き付けられている現実を受け止めきれずにいた。
「初心者の成瀬さんより下…?あの仁美に散々連れまわされた日々は何だったんだ…」
「ドンマイ」
そっと肩に手をおいて慰めてくる光希。やめて!そんな憐れむような目で見ないで!
「とりあえずジュース1本な」
「追い打ちをかけるのがお好きですねぇ光希君や」
「約束は約束だしな」
しれっとそんなことを宣う光希。上等だよ!
「成瀬さんに負けるのはかまわん。だがお前にだけは負けられん!」
「いや、俺一応成瀬さんより点数は高いんだが」
あーあー聞こえなーい。
「お、将也たちも盛り上がってるね!じゃあ、せっかくだから2回戦はチーム戦にしようか!」
そんな提案をしながら目配せをしてくる仁美。なんだ…?
「チーム戦?私はかまわないけど、どういう風に分けるの?」
「私と美月ちゃんは別、将也と滝本君も別。んで、私と将也は昔散々一緒に乗ってるから、今回は私と滝本君チーム、美月ちゃんと将也チームでどう?」
そういうことか!仁美の意図をようやく理解した。成瀬さんと仲良くなるためのイベントというわけですね姉御!
「でもさっきの結果を考えると、その分け方はバランスが悪くないかしら?」
確かに、さっきの結果だけを見れば仁美に負けた成瀬さんと光希に負けた俺がチームになっても勝てる見込みは少ないだろう。そう客観的に分析しただけだよね成瀬さん?俺と一緒のチームが嫌とかじゃないよね?
「あれー?美月ちゃんは部活で同じ楽器をやってていつも一緒に練習したりしてる将也と組んで勝てる自信がないのかな?」
あからさまな挑発をする仁美。いやいや仁美さん、そんな分かりやすい挑発に乗る人なんているわけn「分かった。そのチーム分けでかまわないわ」わーい、成瀬さんちょろーい。
「やるわよ。土田君」
「わ、分かった。足を引っ張らないように頑張るよ」
やる気をみなぎらせている彼女にたじろいでしまう俺であった…




