2章⑧
《俺の名前はテッド!今日はお前ら見習いトレジャーハンターのためにとっておきのお宝情報を持ってきたぜ!》
アトラクション内に入ると、最早聞き慣れた、雰囲気を盛り上げるためのアナウンスが流れていた。
「いや~懐かしいな。これだよこれ」
「もう何回聞いたか分かんないよね~」
このアナウンスは施設内に入ってから乗り物に乗り込む直前まで流れている。人気アトラクションだから並んでいる時間も長くて、本当に何回聞いたか分からないくらい聞いたんだよなぁ。今は懐かしさが勝っているけど、当時は自分が本当にトレジャーハンターになった気がして何回聞いても飽きなかった気がする。
「そろそろあれが来るぞ」
「お、光希の学校でも流行った?」
「まあな、今考えたらなんでか分からんけど」
《それじゃ、俺は洞窟の入り口で待ってるから、準備が出来たら出発だ!お前らに幸運をーーー》
《「「グゥッド・ラァァック!!」」》
「…プッ!めっちゃ綺麗にハモったね!」
「そりゃあんだけ聞いてればな」
そう、このテッドの決め台詞が当時小学生の間で何故かブームになったんだ。独特な言い方も相まって妙に笑えるんだよな。
「お、もうすぐ私たちの番かな?行くよー」
列が前に進み、走って進む仁美。本当にあいつは忙しないな。
「言い方までそっくりだったわね」
歩いて仁美について行こうとすると成瀬さんが隣に並んでそう言ってきた。
「まあね。あいつとは本当に何回乗るんだってくらい乗ったから…」
「本当に三枝さんと仲がいいのね」
「ま、まあ、仲がいいというのか、なんというのか…」
あれ?施設内は洞窟内の雰囲気を出すためにヒンヤリしてるんだけど、今日はいつもより温度が低い気がするぞ?
「まあでも、このアトラクションはかなり昔からあって、仁美と乗り回す前から結構ーーー」
…そういえば…
ーーーーーーぐぅっど・らぁっく!!
ーーーーーーあはは!まーくんじょうず!
ーーーーーーでしょ!?じゃあ、みっちゃんもやってみて!
ーーーーーーえー?…ぐ、ぐっど・らっく!
ーーーーーーみっちゃんぜんぜんちがうよー!
ーーーーーーひどーい!
小学生時代の、あの子との思い出がフラッシュバックする。
「土田君?」
「…え、あ、どうしたの成瀬さん」
「それはこっちのセリフよ。またボーっとしてたけどどうしたの?」
「あ、ごめん。いや、小学生のときにもよく一緒に乗った子がいたなって」
「そうなの?」
「うん。その子は転校しちゃったんだけどね」
「…それって」
「え?」
「女の子、だったりする?」
「あ、うん。そうだけど。よく分かったね」
俺、女の子って言ったっけ?
「え?え、ええ。”その子”って言い方をしてたから女の子かなって」
ああ、成程。男だったら”そいつ”みたいな言い方をするかな?
「……」
「成瀬さん?」
成瀬は前を向きしゃべらなくなってしまった。どうしたんだろう?今の話に何か気になることでもあった?
「…土田君は」
「え?」
「土田君は、その女の子のこと、覚えてる?」
前を向きながら質問を投げかけてくる。どうしたんだろうか。
「…うーん。正直に言うとあんまり覚えてないんだよね」
「……っ」
質問の意図は分からないけど、特に答えられないわけではないから正直に答えた。
「というより、今まで思い出すことはなかったんだけど、最近、ふとした時に当時のことを思い出すことがあるんだよね。顔とかはあんまり思い出せないんだけど」
「…そ、そう」
俺がそう答えると、成瀬さんはしゅんとして俯いてしまった。本当にどうしたんだろう。さっきから様子がおかしい気がする。
「成瀬さん、大丈夫?具合でも悪い?」
「え?」
「何かさっきから様子がおかしい気がして。具合が悪いなら仁美に言って外で待っててもいいし」
「いえ、大丈夫。具合が悪いわけじゃないわ」
こちらを向いた彼女の様子は普段通りに見えた。顔色も悪くない。さっきのはなんだったんだろう?
「ちょっと三枝さんたちと離れてしまったわね。他の人にも迷惑だから急ぎましょう」
「わ、分かった」
仕切りなおすようにそう言い歩き出す成瀬さんに、俺はついて行くしかなかった。まあ、体調は悪くなさそうだし大丈夫か。
「おーい!もうすぐ乗れるよー!」
少し先から仁美の声が聞こえる。あいつはいつでも元気だなぁ…




