2章⑦
「将也のせいで余計な時間くっちゃったね!そろそろ行こっか!」
いつもの俺なら物申さずにはいられないような物言いだったが、一刻もはやくこの場を立ち去りたい俺はぐっと我慢する。命拾いしたな仁美よ。
とりあえず4人で移動を開始した。歩きながら改めて園内を見回す。今日は土曜日。休日だけあって園内はそこそこ賑わっていた。
「やっぱり親子連れが多いな~」
「アトラクションも全般的に子供向けが多いからね~。あ!あれとかすごく懐かしくない!?」
「どれだ?…あ~あれか」
仁美が指さした先には、動物をかたどった乗り物がレーン上をゆっくりと進むアトラクションがあった。今は親子が楽しそうに乗っている。
「あれってペダルで漕いで進むやつだろ?懐かしいな~」
「お、滝本君も覚えてる?」
「ああ、追い越せるわけでもないのにレースとか言っておもいっきり漕いでた記憶があるよ」
「あー!それすごい分かる!」
「俺は仁美に後ろからガンガン煽られて軽くトラウマになったな…」
一回乗ったらすぐには降りれないからすごい怖いんだよな…
「あー…あったねそんなことも!」
「将也と三枝は昔から仲が良かったんだな」
「単純にこのエピソードだけ聞いたら完全にいじめだけどな」
「あはは…あ!ごめんね美月ちゃん昔の話ばっかりしちゃって!」
視線を逸らし話題を変える仁美。まあ、こういう類の話をし始めたら3時間は余裕だろうが勘弁しといてやる。成瀬さんもいることだしな!
「こういう乗り物はよくあるし、私もなんだか懐かしいわ」
「確かに!よくあるよね~…よし!じゃあm「絶対嫌だからな!」まだ何も言ってないよ!?」
大体お前の言おうとすることくらい想像がつくんだよ!
「どうせ乗ってきてみてとか言うんだろ?」
「ご名答!じゃあお願い!」
「嫌だ!」
「なんで!?遊園地に来てるのにアトラクションに乗らないの!?」
「もっと他にも色々あるだろ!?」
流石にあれは高校生だけで乗るものではないと言いたい。これ以上辱められたら俺はその時点で家に帰る自信がある。
「まあ、流石に周りの目が憚れるかな」
「そ、そうね。懐かしくはあるけど」
光希と成瀬さんも助け船を出してくれた。よし!これで1対3だ!
「む~分かったよ。じゃあ何に乗る?」
自身の不利を悟ったのか、仁美はあっさり引き下がった。まあでも、こうやってずっと歩いてるだけではつまらないのももっともだ。どうするか…
「…じゃあ、あれに行ってみるか」
「お?滝本君行きたいアトラクションがあるの?」
「ああ。ちょっと久しぶりにやりたいなってね。確かこっちだったかな」
こうして光希プレゼンツの最初のアトラクションへ向かうことになった。
☆ ☆ ☆
「かなり久しぶりだけど覚えてるもんだな。ここだ」
「ここは…」
「ここかぁ!」
「「テッドのドキドキアドベンチャー!」」
テッドのドキドキアドベンチャー。ここはこの遊園地の中でも1,2を争う人気アトラクションだ。もちろん俺も仁美も好きで、ここに遊びに来たら絶対2周はしていた。
どういうアトラクションかというと、いわゆるシューティングゲームだ。テッドという冒険家と一緒に乗り物に乗り洞窟を進み、途中で出てくる敵を倒しながら奥深くに眠る宝を目指す、というのが目的となっている。
ちなみにこのアトラクション、子供向けのものが多いこの遊園地の中で唯一大人にも人気のアトラクションである。その理由が、
「懐かしいな~!ハイスコアを更新したくて何回も乗ったよ!」
そう。このアトラクション、スコアがあり、その記録がランキングとして残るのだ。負けず嫌いな仁美はランキングを残そうとそれはそれは躍起になっていた。
「俺、確か中1の時に1回だけトップ10にランクインした記憶があるんだよな」
「お?滝本君もやりますな~。でも私には適わないかもね!私なんて1位になったことがあるんだから!」
「マジで?そりゃすごいな。じゃあ勝負する?」
「やろうやろう!」
仁美と光希は2人で盛り上がっている。成瀬さんはどうだろうか?
「成瀬さんはどう?このアトラクションでいい?」
「私は構わないわ」
心なしか成瀬さんもテンションが上がっているようにみえる。
「乗り物に乗って出てくる敵を銃で撃つっていうアトラクションなんだけど、いいかな…?」
「そういうアトラクションなのね。全然問題ないわよ」
成瀬さんが俄然やる気になっている!
「お、美月ちゃんもやる気だね!じゃあ、美月ちゃんは初めてだし1回目は練習で乗って、2回目に勝負にしよっか!」
「いいね、そうしようか」
「私は、1回目から勝負でもかまわないけど、それでいいわ」
成瀬さん、そんなに好戦的でしたっけ?まあ、せっかく盛り上がってるのに水を差すのも申し訳ないな…
「よっしゃ!じゃあ、いっちょやったりますか!」
「じゃあ、いこー!」
思いのほか盛り上がりつつアトラクションに乗り込む俺たちであった。




