2章⑥
「さて!じゃあどこから攻めていきますか!」
先行して行った仁美にやっとのこと追いつくと、振り向きざま開口一番そう宣った。
「…お前は元気だねぇ。仁美さんよ…」
「何言ってんの!せっかく遊園地に来てるんだから楽しまないと損でしょ!」
「まあ、そうかもしれんけどさ…」
にしたって仁美さん、ちょっと精神年齢下がってません?
「将也みたいにテンション低くちゃせっかくの遊園地が台無しだよ!そう思うでしょ、2人とも!?」
「そうだね」
「そ、そうかもしれないわね…」
同意を求めるように光希と成瀬さんを振り返る仁美。光希はしれっと同意し、成瀬さんは若干気圧されたように頷いた。
「言ったな光希。じゃあお前も仁美と同じくらいテンション上げてみせろよ」
「俺はお前の保護者みたいなもんだから、常に冷静でいないといけないんだよ」
「いつお前が俺の保護者になったの!?」
「出会ったときから」
馬鹿な!こいつと俺の関係は、冷静沈着な俺がおちゃらけたこいつを生暖かい目で見守る、そういう関係だったはず!…違った?
「まあそれは冗談として、俺と成瀬が冷静枠なんだからお前がテンションを上げないとバランスが取れないだろ?」
「なんで成瀬さんはともかくお前が冷静枠に入ってるんだよ!」
「まあまあ、お前はいつも通りのお前でいればそれでいいからさ」
「それは俺が普段から今の仁美みたいな精神年齢が低いノリだって言いたいのか!?」
「将也それは私にケンカを売ってるのかなー?」
「……イエ、メッソウモゴザイマセン」
仁美さんの雰囲気が変わった!目を合わせるな!目を合わせたらやられる!
「美月ちゃんごめんね!将也がごちゃごちゃうるさくて!」
声量で言ったら絶対お前の方がうるさいけどな。
「ま、まあせっかくの遊園地だしね。楽しまないと損よね」
「だよね!じゃあ、いくよ?」
「え?」
「今日は…楽しむぞ!!」
「……」
言いつつ手を振り上げてジャンプする仁美。成瀬さんは呆気にとられたようにただ見ていた。
「どうしたの美月ちゃん!ほら一緒に!」
「や、やるの?それを?」
「そうだよ!いくよ?今日は…楽しむぞ!」
「た、楽しむぞ…!」
「声が小さいよ!」
勢いに押されてか、戸惑いながらも一緒にピョンッと飛ぶ成瀬さん。それにダメ出しをする仁美。いい加減にしろ仁美!もっとやれ!
「よし!合格!」
「あ、ありがとう…」
3度目でやっと合格点をもらえた成瀬さんは、若干息をきらせていた。かわいそうに…俺はいいもの見れたけどね!
「おつかれ成瀬さん…仁美のノリについていこうとすると際限がないから気を付けてね…」
「それは先に言ってほしかったわ…」
ですよね。でも成瀬さんには申し訳ないけど、今後も仁美を止めることはないと思いますので悪しからず。
「なにニヤニヤしてるの土田君…?」
「い、いや?全然ニヤニヤなんかしてないですよ?」
「そう…三枝さん?土田君もやりたいみたいよ?」
ちょ、成瀬さぁん!?
「お、やっと将也もテンション上がってきた?じゃあもう一本いっときますか!」
「ち、違う仁美!俺はやりたいなんて言ってない!」
「本当はやりたかったんでしょ?ほら、いくよ!!ちゃんと出来るまで逃がさないからね!!」
「勘弁してくれ!こ、光希!」
「いけるいける。男になってこい!」
こんなことやっても男になんてなれない!
「な、成瀬さん」
一縷の望みを抱き、成瀬をみると、
ニコッ
「笑った罰よ。頑張ってね」
それはそれは完ぺきな笑顔で俺の希望を打ち砕いたのであった。でも、その笑顔が見れただけで満足です!




